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トカレストストーリー  作者: 文字塚
第六章:前夜
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33.夜明けに向かって3-王国の謎

 いつどこで、そんなこと言ったのか。全く覚えていない。

 理解出来ない話に、近藤は一度俯いてから前置きのように喋り始めた。


「"クイン・ツォイマーは佐々木加奈より強い"だなんてガルさんは一言も言ってない」

「そりゃそうだよ。だって私あんな奴知らないもの」

「そうだな。けど結構最初の頃を思い出してくれ。それから俺が"別にガルさんじゃなくても騎士団でもいい"と言ったこともだ」


 近藤は至って冷静だし、確かに言っていた。ガルさんがダメなら騎士団。ガルさんよりラビーナの方が優先順位は上。今となれば理解も出来るが、最初の頃っていつだ?


「魔王の宮殿からラビーナが逃げた後、ガルさんがこぼれ話みたいに自分の話してくれただろ。そん時はっきり言ってるよ」


 相当前の話だな……ガルさんは元々海賊で、親も知らずに育って、ラビーナの面倒をみててってのは覚えてるんだけど……。


「分からない、ほんとにそんなこと言ってた? 担いでんじゃないの?」

「ないよ。内乱の中、王位継承権者がラビーナだけになった時のことをガルさんが話してる。なんで自分がこの内乱に関わるようになったのか、ってとこだ。その時はっきりと言ってる。

"神竜騎士団の反主流派と合流、勢力図はここに完全に対等なものとなった"てな」


 さめざめとした顔、さめざめとした空気。湿り気のある風だけが、暗雲を感じさせるように吹いていた。


 二人して、ただ固まるように立ち尽くしている。状況はかなり違うだろうけど。

 近藤は淡々としたものだったが……だ、ダメだ、思い出せない。ガルさんが無双して平和が訪れたとしか記憶してない……。こうなればとにかく真偽だ。慌てて自分の過去データを確認すると……。


「んげ、マジじゃん……」


 確かにはっきり言っている。目を剥く事実、頭を抱えそうになったが、どうにも納得出来ず噛み付く。


「いやでも、これは勢力図でしょ? 政治的なもので実力とは関係ないし!」

「内乱状態での勢力図ってのは力関係のことだよ。ガルさんが入ってなお、戦力は均衡していたんだよ」


 ……ってことは、


「神竜騎士団は恐ろしく強い。分裂してやっと均衡が取れ、ミリアン王とファウストリア枢機卿、当時はただの豪族と海賊だが、彼らにチャンスが訪れた。もちろん個人ならガルさんが最強だが、神竜騎士団を馬鹿にするもんじゃない」


 そいつは、初耳過ぎます。



 近藤は言う。

 当然だが、騎士団は集団として優れている。ガルさんは個人として抜きん出ているが、騎士団にも複数抜きん出た者達がいる。その一人がツォイマーだと。

 そして、騎士団が分裂していなければ内乱は今も続いていたかもしれない。仮に、分裂前に後の枢機卿一派がミリアン王と合流していたとしても、両陣営とも馬鹿ではないので不利な戦いはしない。ガルさんは各個撃破を、騎士団は集団戦を狙う。

 この場合、どちらが勝つとはっきりは言えない。

 ただ現実はそうならなかった。騎士団は分裂し、反王家の神竜騎士団は現体制に降り体制側に組み込まれた。


「天はミリアン王に味方した。とはいえツォイマー達も生き延び今じゃ宮廷入りしてんだから、引き分けとも言えるかな」


 私は神竜騎士団の人間と会ったことがない。だが近藤はある。時に命を狙われてもいる。実際の感覚と、ガルさんの発言を根拠にして言っているのだ。

 しかし、だとすれば全く違う疑問が湧いてくる。なぜそんな危険な人物を内側に組み込んだのだ? 一対一ならガルさんが勝つ。そもそもミリアン王は、王族を暗殺した反王家勢力に対しなぜここまで寛容なのか。

 実際、近藤の暗殺ルートでツォイマーは宮廷の有力者を一掃し、最後にはガルさんとミリアン王殺害まで企てている。今ではそのルートは破壊され、奴は宮廷入りしているが……。


「ま、この話はもう意味がないから……」

「ちょっと待って! なんで王様も枢機卿もツォイマーを見逃したの? 危なすぎだよ、獅子身中の虫なんて次元じゃないっしょ!」


 そうがなりながらも、私の頭には全く違うことが浮かんでいた。

 現状ラビーナ絡みでガルさんの名前が出てこない……これは我々にとって好都合だ。だが、どうにも引っかかることがあった……。あの時は巧く言葉に出来なかったが、今なら出来るかもしれない。

 そんな私の心中を察することもなく、


「ツォイマーの危険性は誰もが認めるところだと思う。けど、誰かを吊るし上げて断罪するだけの余裕が彼らにはなかったんじゃないかな」


 近藤は真っ直ぐ答える。私はいまいち納得出来ないという振りをした。今なら、さっきははっきり言えなかった言葉に出来なかったことが言えるかもしれない……。


「そう、そうかもしれない。ただそれは、ガルさんやファウストリア枢機卿が歯止めになることが前提だよね」


 警戒心なく軽く頷く近藤を見て、私は前に出ることを決心する。緊張を少しの深呼吸で整え、問いかける。


「私はずっと引っかかってたことがあったんだ。どうしてガルさんは……ラビーナを殺さないのだろうって」


 それは、と言いよどむ近藤の機先を制し、


「ガルさんは私にラビーナ討伐の勅命が出たと言った。けど、これは嘘だと思う。近藤、父親のミリアンはラビーナがどうなったのか、それに枢機卿に何があったのか、本当は全く知らないんじゃないの?」


 あからさまに近藤の表情が曇った。しばらく黙っていた近藤だが、口を曲げつつも、


「そうだろうな。俺のルートじゃそれで間違いない」


 はっきりと言い切った。

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