28.王国の二人
私が仲間を募っている間、二人もそれぞれの役割をこなしている。
近藤の奴は王国に戻り、ガルさんとの接触を図ったが結果は空振り。ただし、微妙な収穫を得ている。
近藤は"前回と同じよう"王国に戻ったが、ここで予期せぬ事態に遭遇した。窓口とも言える担当者が別人になっていたのだ。
以前は内乱の際王族の敵方だった神竜騎士団、この騎士団に属していた「クイン・ツォイマー」という人物が副団長を務めており、彼が窓口になっていた。しかしツォイマーは長期不在のガルさんの代わりか、王侯貴族、有力者との間を取り持つ任に就き、事実上出世していたらしい。そして副団長代理という肩書きの人物は……。
「まさかヴァルキリーが出てくるとは思わなかった」
溜め息をつき、結構びびったと近藤は苦笑いを浮かべる。私もエネさんも映像を確認したが「アナーニ・プシェミズル」という人物は、間違いなくヴァルキリーだ。どうして王国にヴァルキリーがいるのか。
「担当者は代わったが特に怪しまれたりはしなかった。ただ、俺のイベントは完全に吹っ飛んでたね。やっぱ佐々木のルートが最優先らしい」
それから「俺は例外かと思ってたんだが」と、肩を竦めながら近藤は付け足した。
浅黒く日焼けした勝気なヴァルキリー。彼女を見つめ、私は何か意味があるのではないかと頭を悩ませた。一方の近藤は、不快なツォイマーの顔を拝まなくてすんだことに些か満足する素振りを見せている。少しだが、私も近藤の過去の記録に目を通しているので気持ちは分かる。
それでもヴァルキリーの存在は不気味だ。出てくるには必ず理由がある。これこそ本物のヴァルキリー……いや、何を本物とするかはまだ判然としないが。それでも一つ言えるのは、ガルさんとヴァルキリーに接点があったということだ。私が貰った転職証には根拠があった。この点は確定したと見ていい。
そして、この世界にただのジョブではないヴァルキリーがいることを我々は知った。
次にエネさんだが、彼はピナルを一端の魔導士に仕上げるため特訓していたとのことだ。あの娘は筋がいいらしい。飲み込みが早く、教え甲斐があるとエネさんは言う。ただ気持ちに複雑なものを抱えているようで、表情にはまだ迷いが見られた。
それを察した近藤が早速釘を刺す。
「今あいつはどこにいるんだ?」
「最後だけは見届けたいんだそうだ。城内にいるよ」
エネさんは重い口調で応じたが、近藤は容赦しない。
「なら、それが終わったら合流するんだな。当然協力するんだよな、お前も」
エネさんの態度が変わったのは、私が近藤のシナリオ提供したからだ。昨日の別れ際目を通すだけでもと渡した。頭数に数える以上当然だと思う。
「あの娘がやるというのなら、僕もやるよ」
「なら決まりだ、あいつに選択肢はない。これで四人だな」
近藤のさも当然と言わんばかりの顔を見ないよう、エネさんは視線を外している。内心不愉快だが、やはりピナルの境遇に思うところがある。迷いはあるが付き合うしかない……そんな表情に見えた。こういうところ、キャラクターへの感情移入は似ているなと思い、私は親近感を覚える自分を見つけていた。
「あとは中村屋って奴次第か……」
そう零してから、近藤は周囲を見渡した。
人の往来は止め処なく、雑踏はどこまでも賑やかだ。
「しかし、だーれも俺達のこと気にしねーんだな、ほんと」
観光都市の中央広場。その一角にあるカフェでのほほんと語り合っていても、誰一人絡んでこない。これは都会の無関心によるものではなく、我々と敵対するものが限定されていることを意味する。
まだ期待に応えてはもらっていないけれど、この点は中村屋のお陰だ。絶対に見つかっていないとは限らないが、それはそれで構わない。




