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トカレストストーリー  作者: 文字塚
第六章:前夜
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21.策謀9―意図する者

 そう言った近藤は、静かに両手を後ろで組む。そして、今まで彼が要求し続けたことを諳んじた。


「――国庫はこちらが管理する。徴収の期限は一週間。実際徴収するのはそちらの役人だから、租税と言っても課税部分をこちらが担当するだけ。税金の取立てなんてしたことないから、お任せするよ」


 淡々と、ただなぞるだけ。今まで言ってたことを繰り返している。問題はその次、二つ目の選択肢だ。

[等々力さん、そろそろ終わります]

 エネさん? エネさんが、メンバーチャットで等々力さんに話しかけている。その時、初めて等々力氏に変化が起きた。フードの奥に隠れていた瞳が、ゆっくりと近藤達にへと向けられる。なんの感情も読み取れない目で、彼はその光景を眺めていた。


「売れるものは全部売る。どうしても必要というのなら、全部が終わった七日後に買い戻せばいい。これが第一案。大した話じゃないと思うんだが、呑めないというなら次になる」


 終わる、終わるのか? 待った、終わるとしてどう終わるのだ?

 近藤、エネさん、等々力さん、そしてフェルハも変わってしまった。なんで挑発めいた発言を、それになんで終わるだなんて言えるの? 二つ目って、近藤は何をする気だ。私の知らない打ち合わせを、みんなしていたの?

 唐突の終幕宣言に戸惑う私は、やはり傍観者であり、全く考慮されず話は進んでいく。


「"我々"に必要なのは金だ。金銭が目的とは思えない、なるほど、そうも捉えられるんだろう。けど違う、金だよ。どこを切っても金しか出てこない。そのために、権限を一時的に接収する。これが最善。が、これに応じられないというんなら――」


 アサシンのやることなんて、一つしかない。

 殺しててでも、奪い取る……。

 終わりはこの形になることが、前提だったのか?

 だから傍観者でいることを、条件として出した?

 だから「来ても愉快な思いはしないぞ」と、近藤は言った?

 私は、近藤の次の言葉を、全身に力を込めて待った。それならそうと、先に言ってくれればという苛立ちを胸に置きながら、待った。

 止める、止めるべきだし、止めたい。でも、もしそれでうまくいくという確信があり、それに、等々力さんとの約束があったとしたら……。違う、殺すとは言ってなかった。けど、殺さないとも言ってなかった!

 黒尽くめのアサシンは、白けた顔を一層強くし、演技がかった間を取っていた。そうして、


「どうしても呑めないのというのなら」


 近藤、どうしても、そうしないと――


「"身体で払ってもらうしかない"」


 どうしても、人を……ん?


「"身体張ってもらうしかない"」


 …………? …………はあ!? 心身が弛緩した後、身体が強張り、腹から憤りが生まれるのを、私は嫌というほど味わった。

 こ・の・野・郎!! なんだそれは! 下品にも程がある! もう終わるってか、人間として終わってる!! 意味が違う! 何言ってんだこいつはふざけやがって!! 女の子もいるのに、よくもまあ抜けぬけとんなこと言えたもんだな! こうなったら、傍観者とかなこと関係ない! 怒り心頭だ、許せんぶっ飛ばす!

 もはやアサシンでもなんでもなく、ただの女衒と化した馬鹿に鉄槌を! 決意を胸に、拳を固める私の耳に、ターゲットの声が入り込でくる。その口二度ときけないようにして……!!


「で、あるからして……」


 女から順にっ、てか! ふざけんなよ! 足はもう、標的に向かい伸びている!


「"皆々様の身体の一部を、接収させていただく"」


 ……? 伸びたはずの足が、宙に浮いていた。


「これが第二案」


 ワンテンポ遅れた後、足は床へとついた。しかし私は、固めた拳の行き所を、見失っていた。

 ――基本的に、何を言ってるのか分からない。フェルハは平静を装っているが、表情には小さな歪みが見て取れる。そりゃそうだ、言ってる意味が分からないんだから。近藤もいまいち伝わっていないと見たのか、付け足すように言葉を紡ぐ。とてもとても、平板に――


「つまりお姉さん、あなたからは"右腕を接収"させていただくことになる」


 ――大広間に、静かなる喧騒が膨らんでいく。

 近藤は、下品ではなかった。

 下衆でもなかった。

 そして、アサシンでもなかった。

 こいつはやはり、愉快犯的恐怖による屈服、脅迫を選択していた。

 ピナルを指差し、


「ガキからは、眼球を"二つほど"いただく」


 それから延々、王族達に要求し続けた。

 お前は右足。

 お前は指。

 お前は両耳。

 お前は鼻。

 お前は肝臓。

 お前は舌……。


「お前は、確か世継ぎだったな。俯くな、面見せろ」


 ミクローシュ、確かそんな名前だったはず。ダンボールマンの息子で、次の次の王様。まだあどけないが、整った顔立ちと、柔らかな髪質が印象的だ。近藤はその前に立ち、見下ろし命じる。恐怖と当惑で震える子供に、容赦なく言葉を放つ。


「かぶると意味がない。お前からは……"肉"だな。腹か背中、肩でもいい。違う、腿か。ま、とにかく肉を接収する」


 以上――そう告げると、近藤は儀式を終了させるかのように、静かに口を閉じた。

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