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トカレストストーリー  作者: 文字塚
第六章:前夜
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11.まずは段取りから

 等々力という謎のプレーヤーが何者なのかは分かった。

 相当なやり込みプレーヤーらしい。

 初期プレーヤーだというのだから、もう二年もトカレストをプレーし続けているわけだ。挙句に廃人、生活の全てをトカレストに捧げる「本物」で、ちゃんと学校に通ってるエネさんよりずっと廃人なのも理解出来た。まあ詳しい人となりはちょっと分からないので断定は出来ないけれど。

 しかし、となれば実力は勿論のこと、知識、経験という分野で彼に匹敵する者は果たしてこのゲーム内に存在するのだろうか? それに、これだけの存在を観たことも聞いたこともないというのは何故だろう。分からない、分からないがどちらにせよ、借金を抱えていては意味がない。

 とすれば近藤は一体どういう位置づけでそのプレーヤーを捉えているのだろう? 助っ人として抱えるつもりなんだろうか? けど、正攻法のランキングにも一応入っていた。あれは、どういう意味だ? そんな疑問が頭を過ぎる中、


「よっしゃ……んじゃこれで前段は終わり、本格的な話するか。段取りの話に入るぞ」


 徐に飛び出したその台詞により、もやもやとした疑問は消え去り、一転緊張が身を包む。

 ついに本題、作戦の段取りか……それは当然の如く望むところなのだが、私はまだ近藤のアイデアも計画もきちんと把握していない。それでもいいのかを確認すると「細かな点と詰めは後回し。結論は決まってんだし下準備の話なら問題ない」との返答があった。つまり、実行するまでに整えなければならないことがあるということか。当たり前、当たり前だ……けどこれら全てを把握し実行するということは、トカレストへの本格復帰、そしてそのカウントダウンが始まったことを意味する。


 集中し、耳を澄ませ、私は近藤の言葉を待った。

 ここからが本当の攻略、戦いの準備になるんだ。


「いくつか確認することはあるが、実行に移せることもある。時間の制約も考えにゃならん。それに、まあないとは思うがいつ何時クソ運営が介入してくるか分からんし、敵対プレーヤーにこれ以上結束されたら敵わん」


 確かに。あの感情的な連中が増殖した挙句徒党を組んで大規模に、なんて考えたら心底気が滅入る。しかし、実行すると言っても状況が把握出来ていない私には、それがなんなのかはさっぱり見当がつかない。そんな混乱にもお構いなく、近藤は淡々と語り続ける。


「前提としてまず一つ、"事"は我々が起こす。その我々には明確な敵対勢力がいる。いざ事に当たるとなった時、連中は障害となる可能性が高い。奴らにどれだけの事が出来るかは分からないが、障害と認識しておくのが妥当だ。よってこれを排除しなければならない」

「お金絡みだよね。私を排斥してトカレストの秩序を取り戻したい人達……」


 そう言いながら私は「邪魔する奴らは殺せばいい」という近藤の物騒な発言を思い出していた。まさかアサシンよろしく一人、また一人と暗殺していくつもりなのだろうか? それって敵増やすだけじゃ……。そんな小さな不安が膨らんでいく中、幾分低い声が染み渡るように広がった。


「こんな奴らの相手はしてられん。というわけで、こいつらには"退場していただく"ことにした」


 て、的中!? が、ガチなのか、マジなのか!? 嫌な予感的中なのか!? 戸惑い慌て、


「こ、近藤ちょっと待った! 退場って具体的にどうやってですかね……まさか暗殺行脚で人っ子一人いない状況をつくりだそうとかっていう……」


 噛みながらも尋ねると、失笑と共に、


「そんな手間のかかることしてられるかよ」


 と、殊更軽い否定の言葉が返ってきて、私は心底安堵した。ただでさえ誤解の積み重ねで敵意剥き出しにされてんのに、力技なんてありえない。良かった……私はゲームがしたいのであって、仮想の殺し合いを満喫したいのではない。というか、いくら近藤が妙な強さを持っていたとしてもさすがにそれは無理なんだろう。

 ったく、人の感情振り回しやがって。そう心の中で愚痴りながらもほっと胸を撫で下ろし、


「確かに、そんなことしてたら手間かかるもんね」


 無理に明るく、茶化すような言葉をかけると、


「うん」


 間髪入れずの即答がモニターから聴こえてきた。う、うんって……出来ないしやりたくないとは言わないのか……マジこのアサシン野郎大丈夫なのか。なんかこう、ほんとに嫌な予感がしてきた……。そうしてやや引いて身構えてしまうが、近藤はまた淡々と話し始める。


「端的に言って現状をどう理解し打開するか、これが俺らに突きつけられてる課題だよな」


 そうそれ、そこだよそこ。敵対勢力の存在、ラビーナの暴走、沈黙し続ける運営……それに六英雄だって、全部が全部嘘ではないだろう。彼らも含め我々が事を起こした際、どう動く? それが分からないまま排除すると言っても、一体どうやって取り除くというのか。


「ここでポイントになるのはラビーナだ」

「ラビーナ? なんで? あ、いやそりゃラビーナが暴れまわってるのは確かだよ。けど……」


 私はそこで、言葉を濁していた。ラビーナの暴走は確かになんとかしたい。けど、私接触出来ない。ついつい声も小さくなってしまうというものだ。そんな私の心情を読み取ったのか、近藤は誤解を訂正するかのように会話を続けた。


「別にラビーナをどうこうしようってんじゃない。むしろ"どうにもこうにもなってねー"ってのが大事なんだ」


 はあ……なるほ、ど? い、いまいち分かんない。安堵から身を乗り出してはいるが、首は傾いている。なんか、掴みどころがない。


「まあまだその段階じゃないが俺らの作戦にラビーナは欠かせない。優先順位でいきゃガルさんよりラビーナってぐらいに。で、そのラビーナは今トカレストをぶち壊す勢いで暴れてる。ところがだ、そのラビーナ、何故だかはよく分からんが未だに健在なんだよ」

「いやいや、そりゃまあそうでしょうさ。ラビーナ逃げ足超速いよ? それに、今みんなの的にかけられてんのは私の方だし」


 って、自分で言っててげんなりしてしまう……。魔に堕ちて暴れまわる王族より、一介のプレーヤーで女子高生に過ぎない私を仕留めようとはこれいかに。いくらなんでもそりゃないよと言いたいところだが「お金って怖いよね」と考えれば受け入れられるのだから不思議な話だ。私自身は、年齢的なこともあり本当の意味でお金の怖さというものを味わったことはないがこの一年、お金がないことの切なさは嫌というほど味わってきた。ほんと、早くなんとかしたいよ、つーか私悪くないだろ……。

 そんな具合で思考は明後日の方角を向いてしまったが、話し相手はそんな風には当然ならなかった。


「いや、もうとっくに気付いてる奴らはいるだろ? 気付いていて尚、ラビーナを仕留め切れてない。これをどう捉える?」


 う……そりゃその、あれですよ……、


「……私の方が憎い?」


 不満気にそう応じると「ありそうだな」という泣ける呟きを響かせ近藤は続ける。


「色々ありそうだがまず一つ、場が混乱している。攻略法が破綻した結果身動きが取れず、ラビーナを捕らえ切れない状態にある」


 なる、それは普通にありそう。


「二つ、プレーヤー連中が"やっぱり先にヴァルキリーをぶち殺すべきだ"という感じでなんとなくまとまっている」


 ほんとにありそうで怖いんだが……。


「三つ、なんとかしたいのは山々だがラビーナの逃げ足がマジで速くてどうしようもない」


 それ! それはほんとにある。驚くなかれ、この私ですら追いつけないほどに「逃げる!」と決断した時のラビーナは速い。あれじゃ無理やり話し合いに持ち込みたくても出来やしない。そう溜め息をつくと、


「まあそういう設定なんだろう、何せガルさんから逃げなきゃならんわけだし。鈍足ならイベントが成立しない」


 と、さっくりとした言葉が返ってきた。そりゃそうか、当たり前過ぎて言い返す隙が微塵もない。


「が、この状況いつまで続くか分からんぞ。何せ中は六倍の長さだ。ラビーナがぶち切れてからどれだけ時間が経った? 問題に気付いてる奴らにどれだけの時間を与えた? そろそろ対策が講じられて、本格的なラビーナ狩りが始まってもおかしかーない頃合いだ」


 な、なるほど……我々の作戦に欠かせないらしいラビーナが万が一仕留められるなんてことになったら、元も子もない。というかそんなこと絶対許さない! 絶対にだ!! 

 挙句、もしそうなった場合私はザルギインを頼ることになるんでしょ!? マジ冗談じゃないよ! あんな全裸野郎、公然わいせつ罪で火あぶりの刑にしてやらなきゃなんないぐらい……って、ん?

 いや、違う、なんか違う。違和感、とても分かりやすい違和感がある。ザルギインどうこうとかではなく、何か大切な要素が欠けて……。そうして思考を少し巡らせれば、答えはすぐに導かれた。


「近藤、悪いけどそれはないよ。不安視する理由が欠片もない話だ」


 珍しく、私は自分の見解に確たるものを持っていた。

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