表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/46

サバイバーかレイダーか

 川でノトイさん達を見送って、わたし達は出発した。


 次は商人の道へは入らず、1番近い機械工場へ向かう予定だ。

 そこへ行くまでに旧市街があるそうだが、そちらへは行かない予定。


 ゾンビ達は夜になると凶暴化して手当たり次第に身近な人工物を破壊して回るが、やはり兵器会社関係のものには手を出さない。


 なので、街中にもいくつかまともな状態で残っている建物があり、そこで暮らしている生存者もいるらしい。


 

 問題は、そこに住んでいる人たちが単なる生存者なのか、それとも市街地を拠点にしている犯罪者なのか分からないという事だ。



 バルトさんがその話をしたとき、真っ先に目を輝かせて反応したのはくるみちゃんだ。


「レイダー……!」


 と小さくつぶやいた。失われたアーク?


 続いて灰谷さんが声を上げる。


「レイダーか! うかつに近づけないな」


 そしてそれを受けて羽田さんが、


「相手の縄張りじゃ待ち伏せとかもされそうですしね」


 と返していた。



 レイダーというのは襲撃者とか侵入者、乗っ取り屋などそういった意味の英語なのだと後でしおりさんに教えてもらった。

 ゲームや映画などに出てくる、文明崩壊後の社会で暴れ回るヒャッハーな人たちの総称なのだとか。



 昔あった映画の『トゥームレイダー』などは、トゥームが墓で、レイダーと合わせると『墓荒らし』という意味になるのだそう。

 好きな映画だったので、そのままストレートなタイトルにちょっとショックを受けた。



 死角の多い市街地跡では、どんな罠が仕掛けられているかも分からない。

 なので、そういう人間のいそうな場所に行くのはやめておこうという話に決定した。


 バルトさん達、高レベル組ならなんとかなっても、わたし達やイオナさんはあっさり死んでしまいそうなのだ。

 レベル1とレベル2の差は大きいのです。



 この世界では、ゾンビを一体でも倒せばレベルが2に上がる。

 そのかわり、次の3に上がるのが実は大変だ。


 20体30体と倒してもアップしない人もいれば、10体くらいでコツを覚えてアップする人もいる。

 レベル2からは、経験値というより熟練度といった感じだ。

 どこの世界も、やはり才能がものをいうのだろう。


 努力もけして無駄にはならないのが仕組みとしては素晴らしいが、仕組みから外れているわたし達には辛いところ。



 バルトさんが、レークスさんと2人で様子を見に行ってきてもいいといってくれたが、仲間がバラバラになる危険は犯したくない。


 市街地で頑張っている生存者の皆様には申し訳ないが、ここは安全策で、という事になったのだ。



 







 機械工場までは徒歩の移動で3日ほど。

 わたし達は車なのでもっと早く着くだろうけれど、旧市街地をさけて大回りするのでそれほど変わらないかもしれない。


 カーナビでゾンビや人の存在を確認しながらのんびり進む。

 あちこち壊れていたり、がれきの山があったりする道。


 商人や傭兵が通る際に除草剤を撒くなど最低限の整備をしているので、草に埋もれる事なく先へと続いている。


 だがその周辺の建物があったであろう跡や、畑だったのでは、と思える土地はもう自然に帰りつつあった。


 外の世界はゾンビだけでなく、熊や野犬、トラやライオンといった危険も存在している。

 動物園から逃げ出し、野生に帰った生き物たちだ。


 ナビには反応しないが、双眼鏡で辺りを見回しているとサファリパークにでも来ているような気分になれる。


 その中にぼーっと立っている人間(ゾンビ)がいるのは、なんだか不思議な光景だった。









 数時間走って、夕方になる前には家を出してその中に避難した。

 数日ぶりの我が家。

 羽田さんがアイスティーやアイスコーヒーを出してくれて、わたし達はようやくひと心地ついた。


「やっと、やっと帰ってこれましたねえ……」


 灰谷さんがちょっと涙ぐんでいる。


「あの連中がいる前で能力は使えませんでしたからね」


 崎田さんもため息をついた。


「もう生かしておいて司法に突き出すのは絶対にやめにしましょう」


 羽田さんが言うと、それに再び全員が賛成した。



 賊達はパルムで引き渡して報奨金をもらったが、彼らの今後は結構悲惨なものだ。

 聞くところによると商人達に売り渡され、手足の腱を切られて檻の中に閉じ込められるらしい。


 そして移動中ゾンビに襲われたら、逃げるための囮にされるそうだ。


 別に彼らに同情するわけではないし、むしろ彼らがした事やこれからしただろう事を思えば自業自得なのだが、わたし達が大変な思いをするのは割に合わない。


 それを痛感した数日間だった。








 ドリンクを飲みながら、わたしはランクアップした能力を確認する事にした。

 賊を殺したときに点滅でお知らせが入ったのだが、わたしとくるみちゃんだけは使用するタイミングがなく、ゆっくり把握している余裕もなかったため、家で落ち着いてから、という事になっていたのだ。



 くるみちゃんが、嬉しそうな笑みを浮かべた。


「どうしたの?」


「スーパー銭湯の使用時間が2時間になって、従業員のNPCが増えました」


「ていう事は!」


「エステの種類も増えて、お風呂とプラスアルファで楽しめるように」


「きゃあぁぁぁーーー!!」

「やったぁぁーーー!!」


 わたし達は抱き合って喜んだ。

 イオナさんとナツさんも、今ではお風呂とエステの虜である。

 

 

 そしてわたしの方は。


「選択性みたい」


「選択?」


「ええ。ミュージックルームとシアタールーム、スポーツジム、プールに中庭、テラスにガーデン、温室、パニックルーム?」


「パニックルーム?」


 なんでまた?

 という表情でしおりさんがわたしを見る。


 わたしも同じ気持ちで周りのみんなの顔を見渡した。


 必要? パニックルーム。














 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ