表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/29

舞踏会と尾ひれ 5



 * * *



 とりあえず、踊らなければ始まらないらしい。そして、王国では偉い順に踊り始めるらしい。

 第一王子殿下とその婚約者、第二王子殿下のお相手は…………お姉様?!


 北の空に煌めくオーロラのような淡い布が幾重にも重ねれたドレス。まるで、人魚姫の鱗の輝きみたいだ。

 お姉様が、ものすごく不本意な顔をしているけれど、ルクス殿下の笑顔は、蕩けそうだ。

 そして、周囲の人たちの困惑がものすごい。もう一回言おう、ものすごい。


「私、こんなところに急に現れて、周囲の好奇の視線の中踊るのは、ツラいと思っていたのですが、気が楽になりました……」

「……ああ。まさか、あの二人が踊るなんてな」


 時々、お姉様がルクス殿下の足を踏んでいるように見受けられる。わざとだ、わざとに違いない。

 そして、お姉様が踊ることを選んだのは、私のために違いない。


 次に踊り出すのは、なぜか私たちだった。

 じとっとした目で、クラウス様を見てしまったとしても、許されるのではないだろうか。


「…………クラウス殿下?」

「は、そんな大層なものじゃない。俺は」


 否定はしないということは、肯定とみなします。

 あーあ。あんなに王子様から逃れようと思って生きてきたのに、蓋を開ければ人魚姫はやはり王子様との深い因縁があるらしい。


「それに、クラウスと呼んでほしいな」

「……そのうち。……クラウス様」


 それでも、大好きな人が、自分だけを見つめてくれる時間は、輝くシャンデリアのように、眩く輝いている。


「そうか。楽しみだな」


 フワリとかけられた魔術は、私の体を羽根のように軽くして、私たちは、クルクルと回る。


 幸せな時間、夢を見ているみたいだ。

 それなのに、二本の足に違和感がある。

 それに、茶色に色を変えた髪の毛も。


「クラウス……様」

「っ、俺にもっと力があれば」


 たぶん十分すぎる、クラウス様の力。

 だから、これはたぶん必然で、逃れられない宿命なのだろう。


 第一王子殿下の笑い方、嫌い。

 私の魔法が、解かれてしまう。


 ドレスの中に隠れた尾ひれ。

 でも、もう私は、地上で立ち上がることができない。


 クラウス様と、同じ世界で過ごすことができない。


 それでも、クラウス様が準備してくれた深海のように青い、そしてパールで重く守られたドレスのおかげで、私の尾ひれは、きっと誰にも見えなかっただろう。


 お姫様のように抱き上げられる。

 泣きそうなクラウス様が、ギュッと私を抱きしめる。


「幸せな時間だった」

「ずっと、一緒にいたいです」

「会いに行くよ」


 知らなかった。

 人魚の姿では、地上で息をするのに、こんなに魔力を消費するなんて。


 あまりの息苦しさと、暑さに私の意識は、深海へと沈んでしまったのだった。


最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作「溺婚約破棄されて幽閉された毒王子に嫁ぐことになりました。」 今回は、重い話が書きたくなって始めたので、前半重いです。 主人公の聖女は、世間知らずでお人好し。 最終的にはハッピーエンドになる予定です。 ぜひ、↓のリンクから一読いただけると、うれしいです。 「溺婚約破棄されて幽閉された毒王子に嫁ぐことになりました。」
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ