人魚姫への招待状 2
* * *
青い鳥が、大空に溶け込むように羽ばたいている。それは、海の中で青い魚が、海に溶け込むように泳ぐ姿と似ている。
その鳥は、近くまで飛んできて、私の肩で羽を休めた。
「ラック……」
『招待状だ』
「なんの招待状?」
『舞踏会への招待状』
もし、人間に生まれていたなら、喜び勇んで行ったかもしれない。それとも、意地悪な姉の配役にでもなっていて、断固逃げようとしていただろうか。
「お断りは」
『できるさ。だって、レイラはこの国の民ではない。自由な人魚だ。だが、クラウスは違う』
「……クラウス様と私に届いた招待状なの?」
『そうだな……。行くのか? 僕は、おすすめしないけど』
王命に逆らったクラウス様が、あんなに苦しんでいたのに、断るなんてできるはずもない。
理由はわからないけれど、クラウス様は何かに縛られている。
「…………ラックは、ルクス殿下側ではないの? どうして相談に乗ってくれるの」
『僕は、健気な人魚姫の味方だ』
「…………うそっぽい」
『失礼な』
つい、本音が口に出てしまった。
でも、いつもルクス殿下の使いとして現れるラック。クラウス様と出会ったあの日、私の姿を見たのは、ラックと犬耳騎士様のストラト卿と、クラウス様だけだった。
そして、ラックは、私にクラウス様を見つけた褒美をくれると言った。
『僕が、王家に逆らえないのは事実だ。クラウスと同じで。でも、レイラは、僕に名前をくれたから』
「……ラック?」
『その名前を呼べるのが、レイラだけなのだとしても、僕にとってはかけがえのない宝物だ』
フワリとした羽毛の感触。
私の肩に乗ったラックが、高い体温の体を私の頬にすり寄せる。
『だから』
その瞬間、冷たい氷が、ラックを襲った。
魔術が発動されたであろう場所にいるのは、クラウス様だった。
「ソレから離れて、レイラ」
「どうして? ラックは、何も悪いこと」
その瞬間、クラウス様が、目を見開いた。
「名前…………」
「え? 名前がどうしたんですか」
意味がわからず、呆然とする私の耳元で、バサバサという羽ばたき。そして、私の手の中に残された、繊細な意匠と、王家の紋章が描かれた招待状。
『僕の力が必要になったら、いつでも声をかけて』
次の瞬間、青空に飛び立つという予想を覆して、魔法のようにラックは消えた。青い羽を一枚落として。
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