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人魚姫と筆頭魔術師の幸せ 1



 * * *



 その夜、「肉を用意した」という、色気のない言葉に、私は飛び上がった。喜びのあまり。


「そんなに喜ぶか?」

「な、何年振りのお肉だと思っているんですか?!」

「何年振りだ」

「十六年振りですよ!」


 クラウス様が、怪訝そうな表情になる。

 そのことに、浮かれている私は、気がつかない。


「……十六歳ではなかったか?」

「そうですよ?」


 つまり生まれて初めてということになる。

 一瞬だけ、クラウス様は、何か言いたそうにしていたけれど、早くお肉が食べたい私はその腕を引く。


 初めて部屋の外に出れば、長い長い廊下の端の部屋だったことがわかる。疲れてしまうほど長い廊下。お掃除も大変そうだ。


「食堂だ」

「うわぁ。海の中みたいな広さですね」

「ふっ、大袈裟だな」


 そうだろうか? 

 こんな広い食堂で食べるなんて初めてだ。

 私は、いそいそと、クラウス様が引いてくれた椅子に座る。


「ありがとうございます」

「……ああ」


 そっけない態度の時は、照れているということに、先ほど気がついた。だから、そんな態度すら逆にうれしく思ってしまう。重症だ。


 運ばれてきたお肉は、豚に鶏、牛肉、そして何かの赤身肉。


「なにが何の肉かわかるか?」

「うふふ。豚と鶏と、牛肉ですよ。常識問題です。そして、もしや、これが」

「……ああ、約束のドラゴンだ」


 とりあえず、端から食べてみる。

 うん、素晴らしい焼き加減、素晴らしきドラゴン肉。ドラゴン肉は、ジューシーで、臭みがなくて、硬いのかと思いきや、柔らかい。


「おいしいです」

「…………そうか」


 口の端を歪めて笑ったクラウス様が、なぜか思案顔なのが気になるけれど、まずお肉。

 あと、ふわふわの白パン。海の中では、ふやけてしまうものね。


 それに、人魚の時は、そんなにお腹が空かなかった。魔力の影響なのだろうか。


「たくさん食べてくれ」

「クラウス様は? 一緒に食べましょう」

「ああ、そうだな?」


 美味しくて、楽しくて、幸せな時間。

 あとから、魔法薬の材料や、触媒としてのドラゴン肉の価値を知ってしまった時には、そのあまりのお値段に、殺到しかけたけれど。


「俺が仕留めたんだから、実質タダだ」


 うん、そうですよね。タダですよね。


 たぶん、クラウス様は、仕留めてなくても買ってくれた気がしたけれど、そのことには気がつかないことにしておいた。

 


 

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