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異世界デビューに失敗しました  作者: トルトネン
第六章 ローマルク帝国 マグリス独立戦争

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第五話 交流

 頬に何かが当たる感覚で目が開いた。


 当たっているというよりかは、刺さっている。痛みは感じないが、細い小枝のような何かが、皮膚へとめり込んでいた。


(な、なんだ?)


 横目で確認すると、リアナの指が俺の頬に突き刺さっていた。どういう状況か脳内で整理がつかない。


「え、ぁ?」


 自分でも驚くほど間抜けな声が出た。リアナは指を引くどころか、繰り返し、突いている。


「何してるんだ?」


 数秒の間に、色々と頭の中で考えたが、真っ先に思い浮かんだ疑問をリアナにぶつけると、短く返事が返ってきた。


「突いてます」


 リアナの顔は真顔だ。それは分かっている。今も俺の頬にはリアナの指が刺さったままだ。


「な、なんで突いてるんだ」


「シンドウさん、何時もだったら名前を呼べば起きるのに、起きないので……面白くてついついやってしまいました」


 リアナはそれまでの固い表情を崩すと、楽しそうに微笑んだ。真面目なリアナだが、ちょくちょくこういうイタズラをする。


 水属性魔法で魔力を搾り取られたのもあるが、少人数でパーティを組む時は、常に警戒をしていないといけなかった。一時的とは言え大所帯に少々気が緩んでいたのかもしれない。


「そうか、それは手間を掛けた」


 最低限の装備だけ身に付け、リアナと外へと出る。夜空を見上げれば、日は完全に落ちていた。


 中心部には共用の焚き火が置かれ、周囲には6台の馬車が六角形を形成している。それぞれの角には見張り役を置いているし、馬車から少し離れた森側の外縁部には、小さな篝火も設置している。


 惜しまれるのは、三日月は乗り越えたものの、月が半分以上隠れていることだ。周囲が薄暗く、焚き火から離れた場所は見え難い。


 中心部では、焚き火を利用して調理が行われていた。その周囲には、幾つかのグループの冒険者達が皿を片手に、料理と談笑を楽しんでいた。


 俺が水属性魔法で精製した水を早速利用しているらしく、一際大きな大鍋に肉やらキノコやら芋などを煮込み、スープを作っていた。普通は数人単位で料理を行うのが多いが、このグループでは大鍋で纏めて作っているようだ。


 当番さえ決めてしまえば、そっちの方が手間暇が掛からないだろう。


 そんなお隣さんの食卓を軽く覗きつつ、俺たちの鍋に向かう。ここのところスープが続いていたので、焼き料理らしい。


 長期保存が効く干し肉を手で千切り、ごつごつとしたジャガイモ(仮)を大きく切り分け、チーズを鍋で炒め、塩で味付けしたものだ。そこに毎度お馴染み、堅焼きパサパサパンが付いている。最後に立ち寄った街で買い込んだパンなので、日数が経ち、通常より3倍(当社比)パサパサ感が増している。


「兄ちゃんのパーティはいいな。料理は出来るし、幾つも魔法が使えるし、纏めて隊商に来ないか?」


 料理に夢中になっていると、急に話しかけられた。顔を見上げて誰かを確認する。


 確かラリーと話していた歩哨役の冒険者だ。名前はカイエランだったはず――笑いながら言っているので冗談だろうが、匂いで唾を飲み込んでいる辺り1、2割くらい本気で言ってそうだ。


「おいおい、なんだ。古女房は解雇か?」


「今度魔物に襲われたら積極的に見捨てよう。装備品は山分けだ」


「無駄口を開いてるんだ。腹がいっぱいなんだろう。食っちまうか」


 返事をする間も無く、焚き火の近くで集まっていた冒険者からブーイング飛び交った。どうやらカイエランのグループのようだ。


「冗談だ、冗談。って俺の飯を食おうとするな。止めろ待て!」


 席を立って持ち主不在となった料理に冒険者達は腕を伸ばしている。


 慌てて去っていくカイエランの後ろ姿を見送り、視線を鍋へと戻す。


「食べよっか?」


 アーシェが何事もなかったかの様に言う。


「そうだ、そうだ。早く食べるぞ。冷めちまう」


「そうだな……ハンクは用意が早いな」


 既に自分の皿へと料理を盛り付け、待ち兼ねたとばかりの声を上げている。食べないでちゃんと待つ辺り、商人らしく真面目だ。


「はい、アーシェさん、シンドウさん」


 皿に盛り分けてくれた料理を受け取る。ここ数日の料理では、1、2位を争う出来だろう。


 ハンクは口へと料理を掻き込み、どんどん胃袋に料理を送り込んでいく。何時も以上に早いペースを考えると、狙いは二杯目(おかわり)に違い無い。流石商人、汚い。






 食事を済ませ、やる事と言ったら雑談だ。暇な時間を潰す意味もあるが、コミュニケーションを取っておけば何かあった時にスムーズに事が進む。それに情報交換ができるのは、意味が大きい。


 大抵、狩った最大の獲物やギルドランク、俺なんかであればアルカニア情勢やアインツバルド武術祭の話が鉄板だ。


「西部方面はてんやわんやの大騒ぎ、兵隊の食料やら物資やらが不足気味らしい。俺たちは国内の輸送よりも国内外間の輸送が多いからな。賃金の良い国内輸送も考えたが、前線で無茶な輸送もやらされる事もある。無いとは思うが、補給中に白銀騎士団や第一騎士団に襲われでもしたら、ひとたまりも無い。ましてや北西部では鬼人の集団まで出たって話だ」


「そ、そうだな。騎士団も鬼人も怖いな」


 適当に相槌をうつが、その内の一つの集団に混じってローマルクの中央軍集団とやり合ったなんて口が裂けても言えない。白銀騎士団にも森の中でふるぼっこにされているので、同様に知っているなどとも言えない。


 様子を伺うと、2人も俺と同じ様に当たり障りの無い反応をしている。


「リュブリスも酷かったね。道は荒れてるし、あっちこっちで城壁は崩れてるし」


「あんな戦争、もう二度と御免ですね……」


 当時を思い出したのか、2人は顔を引き攣らせた。森の追撃戦では何度も死に掛け、文字通り死闘を演じた。あんな戦争はこりごりだ。この先出会わないことを切に願う。


「若いのにエライ現場に遭遇しちまったな。でもいいのか、リアナは回復魔法持ちだろ。今ならリュブリスやローマルクでも引く手数多だ」


 軽症、重症程度の違いこそあるものの、膨大な数の負傷者がアルカニア、ローマルク両陣営で治療を受けている。


 手塩をかけて育てた正規兵を無駄にはできないと両大国は、平時より遥かに高額で治療魔術士、回復魔法持ちを募っていた。


 ギルドハウスで回復魔法持ちの高報酬に「「俺も、私も、回復魔法使えれば……」」と冒険者達がボヤく現場に出くわしたのは、二度、三度の事では無い。


「んー、少し前なら参加していたのですが、手間の掛かる仲間がいまして」


 横目で、俗に言うジト目でリアナがこちらに目を向けた。俺に対してに違いない。


「……すみません」


 勝手に悲観して逃避行をしていたとは言えず、苦笑混じりで謝る。


「シンドウだっけか? あんたも妙な人だな。そんな格好で二属性持ちのマジックユーザーなんて見た事無いぞ」


 確かに、遠目から見たら中装備の短槍使いや剣士にしか見えないだろう。


 ただ、見た目で言うなら前衛職も真っ青な筋骨隆々の魔法使いとアインツバルド武術祭で遭遇しているので、人を見た目だけで判断するのは、どうかと思う。


 それにこの格好でいきなり魔法を使い人を驚かすのも、嫌いじゃ無い。そのお陰かは知らないが《奇襲》のスキルまで身に付いた。


「初見じゃ間違いなく騙されるよね」


 胡座をかいたアーシェが頷き、カイエランに同意する。


「それを言ったらアーシェもだ。焚き火用の石組みに驚かされたぞ。あんな重石を藁みたいに持って来て」


 カイエランはアーシェが運んで来た石組み用の石を軽く蹴るが、ビクともしない。今では当たり前の光景だが、女の子が軽々と大剣を振り回せるのは異常だった。


「凄く、大きいですよね」


 アーシェの背後に置かれた大剣を、ラリーはまじまじと見つめていた。これだけの大剣はなかなか珍しいのだろう。


「持つー?」


 片手で大剣を拾い上げたアーシェがラリーに手渡そうとするが、クビを左右に何度も振る。


「いやいやいや、そんなでっかいの持ったらつぶれちゃいますよ!」


 賢明な判断と言える。剣の扱いに慣れたセルガリーの弟子すら辛うじて持てるくらいだ。折角の食後の会話から怪我人の治療に変わるのは遠慮を願う。


「三人ともBランク、二属性持ちに、回復魔法持ち、獣人、これだけ強力なパーティが一つの馬車にな」


 馬車とハンクを交互に見て、納得いかなそうに首を傾げる。何となくだが、内心を想像するに「なんであの馬車に?」だろう。


「おい、カイエラン、失礼だぞ」


 内心を見透かしたのであろう、横にいた冒険者がカイエランを肘で突く。


「いやぁ、悪い悪い。Bランク三人が同じ馬車で護衛ってのが、珍しくて。でもあれだな。人相だけみたらハンクがBランク冒険者って言われた方がしっくり来る」


「ふふ、そうだね。少し前になるんだけど、ハンクが商店を訪ねたことがあってね。商人で取引に来たと言っても、冒険者の冗談や揶揄いだと勘違いされて、ギルドカードを見せながら、説得する事でようやく納得して貰えたんだって」


 見た目は、俺なんかよりも古参で強靭な冒険者に見える。実際は恵まれたフィジカルを生かしてもDランク中位ぐらいだろう。実際、商人と冒険者のギルドカードを持つハンクだが、冒険者のランクはDランク下位だったはずだ。


「おォ、人の見た目で随分と盛り上がってるな?」


 デニス達の方に居たはずのハンクが、青筋を立てて迫ってくる。話し方と立ち振る舞いは、完全に荒くれ者の冒険者だ。


「ぐふっ……ふふ」


 俺と2人は我慢できず吹き出し、他の冒険者達は歯を食いしばり、唇を噛んで耐え忍ぶ。考えれば考えるほど、商人よりも冒険者に見えてしまう。


 そんな端から見たらくだらないやり取りが繰り返され、夜は更けていった。

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