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第九十五話「圧倒的」

私は車窓から身を乗り出して進行方向を確認する。

メアリが何か車内で言っているが気になどしない。

気になったのだ、報告書では聞いていた、現場が。


異世界に鉄道を引く最大の問題、それは魔物の存在だ。

ゴブリンやオークなど知能の低い魔物に運行を妨害される危険。

ドラゴンに至っては存在だけでも危険だ。

もちろん、盗賊などの人間による危険も考えた。


結果、大陸鉄道は複線武装化という方針が固まった。

一本はペシナ型特急列車『アジーナ号』の旅客兼貨物列車の路線。

並行して走るもう一本は九四式装甲列車が定期巡回するための軍用線だ。

装甲列車には、

10センチの高射砲二門、7.5センチの高射砲二門、重機関銃12挺。

そして、上級ドラゴン対策の列車砲、九○式二十四糎列車加農。

その気になれば地形すら変えうる火力を持って路線の護衛に着かせたのだ。

もちろん、所属は大和帝国陸軍だし、旅客鉄道のアジーナ号にはギルドから冒険者を雇っている。


進行方向の景色を眺めていると車体がゆっくりと減速を始めた。

向こうには黒煙も上がっている。

遅れて、高射砲の腹に響く砲撃音が聞こえてきた。


私は単眼鏡を取り出して伸ばす。

覗いた先には近くの森から湧き出しては装甲列車の銃撃にバタバタと薙ぎ倒されるゴブリンの群がいた。

しかし、ゴブリンが獲物を求めて森から湧き出してくるにはあまりに騒がしすぎる。


装甲列車の指揮官も気が付いているのか、高射砲の砲撃を強めて牽制していた。


「……ん?」


私は気が付いてしまう。

対上級ドラゴン用の化農砲が砲撃体制に入っているのを。


「まさか……」


呟いて、森からゴブリンを追い掛けて飛び出す大きな影。

こちらの大陸にも生息している、クレイジードラゴンだった。

次の瞬間、私は車内に飛び込みできる限りの声を張り上げた。


「耳を塞げェ!!!」


直後襲った音量の暴力、音の衝撃波。

乗客の中には気を失う者もいる。

そして、悲劇は終わらない。


爆音から数秒後……着弾。


吹き付ける熱風と破片、大音量の大爆音。

そして地響きの様な衝撃波。

一瞬、脱線してしまうのではないかと思う衝撃に舌を噛んでしまった、イテェ。


ショックでガンガンする頭を持ち上げて列車砲が着弾したであろう森を単眼鏡で……見る必要性も無かった。


ゴブリンやクレイジードラゴンが飛び出して来た森はあまりに広くは無い。

しかし、目の前の森は……半分ほど消滅していた。


「…………」


あまりの光景に口をパクパクするしか出来ない私。

そりゃあ、都市区画を木っ端微塵にできる訳だ。

あれでは直撃を避けてもバラバラになる。


「………あ」


そして、そこで思い出した。

装甲列車は予備にあと一編成、その装甲列車の列車砲があのドーラなのを。

これは早急に計画の練り直しが必要だな……。


とりあえず、メアリと私で装甲列車の指揮官を怒鳴り付けておいた。




******




それから二日後。

ナナル王国学園都市アーガム、ミスカミトミック学園、職員室。


教員の机に肘を着き、一つの書類を眺める男性。

肩で切り揃えたライムグリーンのかみはさらさらで美しく、書類を眺める瞳はエメラルドグリーンに輝く、色白の肌に細いライン、明らかな美青年。

その青年の名をウィルダー・オープス。

トンがった耳を持つ、正真正銘のエルフ族、満158歳である。

ちなみに、エルフ的には180歳を過ぎた位が大人であり、彼はエルフから見れば新米のペーペーもいいところであろう。


(それでは、お願いしますよ。オープス先生)


人族の教頭の言葉が脳裏をよぎる。

いやらしい笑みで厄介事を押し付けて来るハゲ散らかした教頭の言葉を。


「……はぁ」


彼のため息の理由は目の前の書類に書かれている。

昨日の入学試験、最終ギリギリに受験した子供の評価表。


語学:合格。

数学:全問正解、合格。しかし、数式や解の理由は意味不明。

科学:辛うじて合格。しかし、法則や解の理由は意味不明。

史学:辛うじて合格。

魔法学:辛うじて合格。


剣技:合格。ただし、我流。


そして最後。

一番の問題。


魔法術:0.5 適性なし。


普通一般人の数値は1か2、魔法で戦闘するなら3、国お抱えの魔道士なら4、それ以上は5に当たる。

しかし、0.5とは何なのか。


これなら騎士科の方がと思ったが、性別欄は女だった。

女性でも騎士科に入れないわけではないが、貴族の女子でも無ければ風当たりは厳しい。

そして、手元の書類には貴族であるとは書かれていなかった。

まず、聞いた事も無い家名だ。


「……よしっ! 頑張りますか!」


ウィルダーは自身に喝を入れて立ち上がった。

彼は自分の担当するクラスに向かう。

彼はウィルダー・オープス。

ミスカミトミック学園、一年O組。

通称『終わりのO組』の担任なのだから。


彼は知らない、評価表の『辛うじて合格』の項はナナル王国上層部から圧力がかかって合格になっている事を。


彼の机に置かれた書類には

氏名:ミーシャ・ラダッド・ライヒ

と書かれていた。


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