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第八十八話「日記」

 帝国暦863年


 この世界に生を受けた私はなぜか前世の知識を持っている。

 もし、後世にこの本が残るのであれば、この言語がわかる人が手にとってくれるのであれば。

 私がこの世界に生きた証として役に立ててくれれば幸いだ。


 私、出臼・エクスド・真紀奈は前世では機械工学の世界で生きていた人間だ、あえて詳しい分野までは突っ込まないでおく。

 たぶん、前世での死因は過労死か何かだろうと推測する。

 研究室の机で書類に忙殺されていた私はふと目覚めるとこの世界の王族の子として生まれていた。


 この日記が書けるようになるまでにいくつもの内政チートと呼ばれる物や機械技術を魔法学で応用した機械などの開発を行ってきた。

 私は今、13歳だが、神童などと呼ばれている。

 私の最高傑作であるオーニソプター、私は科学と魔法学の融合したこの機体を『マジックソプター』と呼んでいる。

 化石燃料の代わりに大気中の魔素を使うことで効率よくエネルギーを発生させ、燃料によるウエイトの問題も解決した。

 くわしい機構の話はおいておこう。

 つまり私は現在この世界で大成功を収めている。



 帝国暦865年


 最近、生まれてから時々夢に出る女神の様子が変だ。

 まぁ、様子が変なのは今に始まった事ではないので良しとしよう。

 女神の話によれば近いうちに戦乱の世が訪れるそうだ。

 女神の提案で各国に対する抑止力を作ることにする。



 帝国暦867年


 我ながら天才だと思う。

 たったの二年で完成させてしまった。

 魔道科学を使った抑止力の開発は成功だ。



 帝国暦868年


 なんということだ。

 あれほど厳重に管理していた試作品が持ち出されたと報告があった。

 もしアレが本当に使用されたら、この国どころがこの世界が滅んでしまう可能性がある。

 なんとしてでも見つけ出さねばならない。



 帝国暦869年


 最悪のシナリオが完成してしまった。

 私はなんと愚かな事をしてしまったのだろう。

 後世にのこ日記が残るなら、この世界がまた生物の住める環境になるのなら。

 真実を記す事にする。

 

 私が女神に抑止力として開発を促されたのは。

 『魔道式核爆弾』だ。

 私は最初の研究の二年で試作品である『ヌカボーイ』を完成させた。

 威力は理論値ではあるが、今判明しているこの大陸の約80%を飲み込むだろう。

 大きさは少し大きめの人間くらいの爆弾だ。

 重さは魔道科学の粋を集めた為に二頭引きの馬車で十分運営可能な物だった。

 よりにもよってその試作核爆弾は反帝国派に盗まれた、彼らはその驚異を理解していないだろう。

 もし誤爆でも起こした場合、帝国どころが大陸の文明が消滅する。

 さらに試作を完成させた事で調子に乗った私は二号機である『ファットウーマン』、携帯特化型の無反動核ランチャー『デイビー・ジョーンズ』を作り上げてしまった。

 もし試作機が起爆した場合、残りの二機も誘爆してしまえはまさにこの星の生態系に問題が生じてしまうだろう。

 盗んだ者たちを探すのはもはや不可能だ。



 帝国暦870年


 帝都に作ったシェルターの中で日記を書いている。

 どうやら彼らはアレを起爆させてしまったようだ。

 外にはもう出れないだろう。

 私はここで朽ち果ててしまうのかもしれない。

 この世界を滅ぼした私がこんな緩やかな死を迎えるのを民は許してくれるのだろうか。



 帝国暦875年


 私の計算に狂いがあったことが発覚した。

 アレから五年で外の文明は消滅しているだろうが、生物が暮らしていける環境にはなっているはずだ。

 ウランやプルトニュウムと違い、魔道式核爆弾は破壊力こそすさまじいが放射能などにおける生態破壊はほとんど無い。

 もともと世界に存在していた魔素を吸収圧縮して開放するためだ。

 もしかすれば超高濃度の魔素の拡散により、ミュータントの様な生物が誕生している可能性はあるが、星としての生態系は維持できていると予想される。

 


 帝国暦875年


 昨日の予測通りだった。

 外は人間が出ても問題ないようだ。

 文明は消滅したが、シェルターに残っていた人間は確かに存在する。

 私は研究所を構えていた北の山岳を越えた先に閉じこもることにする。

 手元にある『デイビー・ジョーンズ』を私が管理しなければならない。

 残念な事に、あの動乱のせいで二号機である『ファット・ウーマン』は行方不明になってしまった。

 私は、私と親友に不老の術を掛けた。

 親友には二号機の行方を追ってもらうつもりだ。

 この地には私の妹を置いていく。

 彼女、ナナルならこの地に正しい国を、もう一度文明を芽吹かせてくれるだろうと信じている。


 この日記を読んでいるあなたが、私と同じ転生者であり、あの女神があなたの前に現れたなら。

 決して信用してはいけない。

 アレは女神などでは無くもっと邪な何かだ。




 日記はここで途絶えている。


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