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第八十七話「古の遺産」

まだ防衛線は終わっていません。




 ベチャッ!


 ミーシャの顔にバニラ味のカップアイスが盛大に叩きつけられた。


「お姉様をどこにやった!!」


 目の前には椅子に座ったナナル王国第二王女『ジャンヌ・ナナル』がミーシャを睨みつけている。


「総統閣下っ!」


 ミーシャは剣に手を掛けようとした兵士を手で制した。

 どこぞの”瞬間湯沸かし器”とは違うのである。


 事の流れはこうだ。

 サンライズの後部甲板に降りたオーニソプターに乗っていたジャンヌを丁重に応接室へと案内し、魔族に警戒しているジャンヌを落ち着かせようとカップアイスを渡した、そしてそのカップアイスはミーシャにぶつけられる、今はここである。


 現状、作戦は順調に進行している。

 陸戦隊は港を制圧しつつあり、防衛隊と接触したと報告があった。

 もう少し我慢すればナターシャの居る防衛艦隊の旗艦も到着する。

 ここでミーシャがキレて第二王女に危害さえ与なければいい。

 キレさえしなければいい。


「お姉様はどこだと聞いている!!」

「ナターシャ王女は現在、防衛艦隊の旗艦に乗っていらしゃいます」

「馬鹿を言うな! この戦闘中に乗り移れる訳がないだろう!! それにティ・トークも居ないじゃないか!」

「提督は上陸して防衛隊の説得中です」

「だからどうやって上陸したのだ!! 貴様、私を舐めているだろう!?」


 キレさえしなければ。


「貴様では話にならない! もっと上の者を出せ!!」


 キレさえ……。


「だいたい、なんで私の相手がこんなちんちくりんの小娘なんだ!」


……ぷちん。


「! 閣下ダメです!!」

「うぬうぅぅぅ!! 放せぇぇぇ!!」

「なんだ!? やるのか貴様!!」


 先程の兵士がミーシャを羽交い締めにする逆転現象がおきた。

 結局、ミーシャはジャンヌを片目で(魔眼の制御が出来ていない為に現在も眼帯をしている)で睨みつけるに留まった。

 一刻も早くナターシャが来なければ斬り掛かってしまいそうだ。


「ジャンヌ!!」

「……お姉様!?」

「フーッ! フーッ!!」


 応接室に飛び込んできたナターシャの目に入ったのは兵士に羽交い締めにされ唸る大和帝国元首と、それと睨み合う自らの妹の姿だった。




******




「……俺は夢でも見てんのか?」

「ば、化け物にゃ……」


 彼らは目の前を進軍していく鉄の箱達を眺めつぶやいた。

 その箱に取り付けられた筒から次々と吐き出される火炎と爆音、目の前で巻き起こる爆発の数々。


「隊長! 第三分隊から通信!」

「繋げ」

「はっ!」

<こちら第三分隊! 目標地点α付近の敵の制圧を完了! 投降者多数! 本隊への合流を申請する! どうぞ!>

「こちら第七分隊、サニー・ユンカース中尉。現在総司令以下は手が放せない、私が臨時に指揮を執る。現在本隊に捕虜を収容する余裕は無い、作戦通りに目標地点βへ移動せよ。捕虜はそこに集める。どうぞ」

<第三分隊了解! 本隊の状況知らせ! どうぞ!」

「作戦は予定通り、本隊快速である。どうぞ」

<了解! ではこれより目標地点βへ移動する! 通信終了!」


「なんだありゃぁ?」


 ドイチェは鉄の箱の穴から上半身を出し、謎の物体に(おそらく魔道具か何かだろう)話しかける女性を眺めた。


「すごいよねぇ? あれがあれば一瞬で遠くの人と会話できるんだって」

「おいおいおいおい……、そんなもんがありゃあ、伝令だって狼煙だっていらねぇぞ!?」


 ドイチェはその説明を受けて驚愕した。

 そんな道具があれば、大部隊がまさに神速の連携で動き回れる、ちまちました伝令のやり取りなど必要なくなるのだ。

 もしそんなものが世に広まれば戦争がひっくり返る。


「まぁ、目の前の不条理の塊みたいな軍団に言ったってしかないか……」

「そうだねぇ〜、最初の出会いも、ちょっと……、アレだったからね」


 ヘターリオが言う『アレ』とは、ティ・トークの事であった。


 ヘターリオが感動の再開とばかりにドイチェに抱きつこうとしてアイアンクロー決められていた時。

 同じように戦車から飛び降りたティ・トークの言葉に全員が凍りついたのだ。


「キャサリン!!」

「……おまえさんっ!?」


「「「「「え゛!?」」」」」


 ティ・トークは飛び降りるやいなや群がる敵兵を薙ぎ倒しながら防衛隊長である大槌を振るう女性に走りより篤い篤い抱擁を交わしたのだ。


((((お前ら夫婦だったのかよ!?))))


 初めて出会った住人同士が言葉を交わさずにシンクロした瞬間だった。

 結局、両陣営とも唖然とした空気のまま進軍する事になる。


「……おかげでなんか微妙な雰囲気で一緒に反乱軍退治する事になってるしね」


 ヘターリオがそう洩らしたとき。


「おい、貴様ら!」

「あぁん!?」


 いきなり浴びせられた声にドイチェがほぼ本能的に威嚇する。

 その声の主は例の鉄の箱の上の女性、サニー・ユンカースであった。


「上の交渉は纏まったようだ、城へ向かいたい、道案内を頼めないか?」

「……っち! しかたねぇな」


 ドイチェが舌打ち交じりに了承したとき、音も無く忍び寄った影が建物の上からサニーに飛び掛った。


「あぶねぇ!」


 ドイチェが咄嗟にサニーの元に走り出そうとする、しかし、飛び掛った敵兵の方が圧倒的に素早かった。


「……ふむ。つぇい!」


 しかし、サニーは飛び掛った男の腕を素早くキャッチすると車上で捻り上げる。


「ぐあぁぁぁぁ!!!? (ボキンッ!)ぎゃああああぁぁっ!!!」


 捻りあげられた腕は瞬く間に鈍い音を響かせて明後日の方向に曲げられた。

 車上で腕を押さえて転がった男を尻目に穴から素早く躍り出たサニーは男を蹴り上げ車上から叩き落した。


「アサシンの類か? それにしては気配の消し方が素人同然だな」

「……」


 ドイチェは目の前で行われた理不尽な出来事に言葉を失っている。

 サニーはあのかなり不利な体制から腕をへし折ったのだ。


「索敵! しっかり仕事をしないか!!」

「申し訳ありません!」


 当の本人は部下を叱り飛ばしていたが。


「と、とりあえず、城はこっちだ」

「協力感謝する、全軍第二段階へ移行! 行軍開始!!」


 異国の軍隊は城に向かい始めた。




******




「ほんっっとうに申し訳ありません!!!」


 一方サンライズ客室ではナターシャが机に頭をこすり付けんばかりに頭を下げていた。


「い、いや良いんですよ。頭を上げてください」


 ミーシャもその光景に怒るに怒れずただただたじろぐだけだった。


「……あ〜、それにしても、あの『オーニソプター』は一体何なんでしょう?」

「ふっ! 良くぞ聞いてくれた!! アレは我が王国の祖先、旧帝国の遺産! いわば『アーティファクト』だ!」

「アーティファクト?」


 ジャンヌの自慢げな物言いに一瞬だけ嫌な顔をしたミーシャだったがその内容に興味を引かれたのか思わず聞き返していた。


「その通り! 我が王族の先祖にして創造と繁栄の神『デウス・エクス・マキーナ神』が作り出した驚異の魔道具の一つなのだ!」

「マキーナ神?」

「そこは私が説明しましょう」


 するとナターシャが説明を引き継いだ。


「我がナナル王国では今から……そうですね、今年がアジーナ暦1943年ですので、今から1943年前の事でしょうか。かつて強大を誇っていた大帝国が一夜にして滅んだという言い伝えがあるのです。その帝国の女王であったデウス・エクス・マキーナはその知識の数々でたくさんのアーティファクトを作り上げたと言われています。その発明によって帝国が滅んだとも。彼女は一冊の本を後世に残しましたが古代の言語で書かれている為解読することもできずに、今ではマキーナ教の経典として伝わっています。私も女王として写本を常に持ち歩いていますから」

「写本がここにあると?」

「はい、よろしければ御覧になりますか?」


 ナターシャはそういって一冊の小さな本を取り出した。

 その表紙に書かれていたのは。


「これ……日本語じゃないか!?」


 ミーシャが前世で慣れ親しんだ祖国の文字だった。


「はい、この船で使われている言語、もしやと思いましたが。間違いないようですね? ではミーシャさんならこの本が解読できるはずです」

「……では、失礼して」


 ミーシャは受け取った本をめくる。


「……ッ!!?」


 そこには驚愕の内容が綴られていた。

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