第八十四話「王都防衛戦②」
あけましておめでとうございます(今さら;
今年も一年間よろしくお願いします。
防衛戦が終わってある程度片付いたら、イース残留組視点の話を一話予定しています。
反乱軍艦隊旗艦グレートリビング指揮所
「なんだ今のは!? 攻撃か!? 損害は!? ワシの船は大丈夫なのか!!?」
椅子からずり落ちてがなり立てるリビング。
まるでその姿はどこぞのナメクジ型宇宙人の様だ。
ミーシャが見れば「ジ○バ様!?」と叫ぶであろう。
艦長であろう男が部下に指示を飛ばす。
「損害を報告しろ!」
「わかりません! 下層から伝令が上がって来る気配がありません!」
「なんだと!?」
リビングの艦隊では損害を船の頭脳である指揮所に知らせるため、被害があった階からリレー形式での情報伝達が行われる。
通常の戦闘であれば非常に役立つこの情報伝達も今はワンス達、特殊部隊により機能していなかった。
艦長が下層に向かうように部下に指示を出しかけたその時。
バンッ! バンッ!
破裂音と強烈な閃光、大量の煙が指揮所を支配した。
瞬間、指揮所に艦内潜入していたワンス達が潜り込む。
ワンスは素早くリビングに忍び寄ると短刀をリビングの首に添えて声を上げた。
「全員その場で座れ! 人質の命が惜しくば抵抗はしないでいただこうか?」
ワンス達の突入時に開かれた扉から煙が外に流れ出し、視界が晴れた時、指揮所に居た兵士たちの目に映ったのはいつの間にかナイフを首に押し付けられるリビングと床に叩きつけられ無力化された艦長以下9人の仲間の姿だった。
「さぁっ! 座るんだ! 早く!」
「きっ、貴様ら早く座れ! こ、殺されてしまう!」
リビングの声に一人、また、一人と兵士たちは腰を下ろして行った。
相手は魚の化け物なのだ、誰だって怖い。
「……よし、では艦長はいずこか?」
「……わ、私が、艦長だ」
艦長が床に組み伏せられた状態で声をあげる。
「おい、放してやれ」
「はっ!」
「くっ、貴様ら一体……っ!?」
「余計な問答は後だ艦長。全艦艇に停戦命令を送れ、この船は救助活動に専念してもらう」
こうして反乱軍艦艇はワンス達の迅速な行動であっけなく武装解除した。
次々と停船し帆を畳む反乱軍艦艇を見た大和帝国海軍の軍艦から勝利の歌声が大空に響く。
”石炭の煙は大洋の竜かとばかり靡くなり
弾撃つ響きは雷の聲かとばかり響むなり
万里の波濤を乗り越えて、御国の光輝かせ”
******
ナナル王国王都上空
「リッチス大尉! 目標地点です! ……なんて数だ、わんさか居やがる」
「そう緊張するな、歌でも歌って落ち着け、ふぁっはっはっはっ!」
リッチスは部下にそう声を掛けるとコックピットで歌い出す。
”幾多の黒き荒鷲が
海陸遥か羽摶きて
その出で来るところ
敵は忽ち敗走す。
青き空より、眼下なる
大地へ向けて急降下。
その鋼の爪もて
敵の急所を貫くのだ”
「~~♪ ……お? 居おった居おった、大将首が、行くぞ! よく捕まっておけぃ!!」
「リッチス大尉! ちょっとまっ、おわぁっ!!」
リッチスは部下の悲鳴を気にもとめず機体を大きく引き起こし、大空に舞い上がった。
やがて上昇する機体は機首を大地へ向けて急降下を始める。
ナナル王国北広場
「うるさいな……何の音だ!?」
金色の鎧を纏い広場に設置された椅子にどかっと座る大男、その名もジェルミン・サンジェンス伯爵、その人であった。
ミーシャが見ればどこぞの塾の三号生筆頭か世紀末覇者かとツッコミを入れるであろう風格、覇気、そして渋く濃ゆい顔である。
「大変です! 海から何かが向かって来ています!!」
「海ぃ? 帝国のグリフォンではないのか?」
「いえ、見張りの話では似ても似つかぬ見た目で、羽ばたきすらしていなかったと……この騒音もヤツの仕業です」
「……まさか『アーティファクト』……いかん! こちらに対空の備えなぞない!! 全部隊を散開させろ! 路地裏や建物の中に入らせるんだ! 急げ!!」
サンジェンスが怒鳴った時、彼の視界に入る一つの影、それはだんだん大きくなり、それにともない騒音も大きくなる。
「あれが……」
その奇妙な物体は広場の手前で大きく飛び上がり小さくなって行く。
「……一体何を……っ!? 堕ちて来る!? そ、総員退避だ! 退避!!」
サンジェンスは急ぎ椅子から立ち上がり近くの建物に走る。
寸分違わぬ正確さでサンジェンスが座っていた椅子に爆弾が落ちたのはその直後だった。
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軽空母龍驤甲板
「……爆撃は成功したか……艦砲射撃が来るぞ! 耳を塞げィ!!」
陸軍の大将であるヴァルヴェルトが叫んだ時、僚艦である伊勢、扶桑の主砲が旋回、占領されている港に大砲の雨を降らせる。
「行くぞ! 諸君! 今こそ高らかに軍歌を歌い、我らの勇姿を敵に見せつけるのだ!!」
軍艦から上がった合唱に負けぬほどの大音量で陸軍が歌う。
”旗を高く掲げよ!
隊列は厳然たれ!
雄々しく確固たる歩武をもて
陸戦隊は行進する
やがて帝国の旗は
あまねく街路に閃きて
隷属の時代は間も無く終焉を迎えん”
「ほな転移すんで!?」
「「「おおおおぉぉぉ!!!!」」」
こうして戦場は陸へと移る。




