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第八十三話「王都防衛戦①」

(カマをかけるはずが、まさかモノホンの王女様かよ……)


ミーシャは反乱軍艦隊に降り注ぐ砲弾の雨を眺めながら、心の中で頭を抱えていた。


「報告! 反乱軍艦隊の半数を撃沈!」

「停戦はありそうかな?」

「いえ、足並みは乱れていますが反撃の準備をしているようです」

「……だろうなぁ~」


ミーシャはため息をついて右手を上げてぷらぷらしながら部下に指示を飛ばした。


「信号弾上げ~。さっさと大将首おさえちゃおうかねぇ」

「はっ! 信号弾、撃ぇ!」


赤い煙の尾を引きながら信号弾が青空に消えていった。


この段階でわざと旗艦らしき戦列艦から照準をはずしている。

ミーシャは双眼鏡で反乱軍艦隊を確認するナターシャに声をかける。


「ナターシャ王女、防衛艦隊と接触できませんか? どうも、まだこちらを狙ってる」

「わかりました、小船……ボートでしたか、お借りしても?」

「構いませんよ、危険なので護衛を付けますが」

「ありがとうございます。……敬語で無くともよろしいですよ?」

「部下の前っすから、それに……」


ミーシャは一拍子置いて指揮所の隅を見る。

そこには、泡を吹いて気絶し、唸るラビーの姿があった。

うわ言のように「女王陛下……タメ口……う~ん……」とか言っている。


「申し訳ない事をしてしまいました……」

「まぁ、今度から気を付けてやってください。よく気絶するやつですが、今日のは特に酷い」


ミーシャが遠い目でそう言った時、『彼ら』は行動を開始していた。



******



青空に引かれる一本の煙の線。

それは彼らに作戦開始を告げていた。


(閣下からのご命令、時は来たれり!)


海面から覗く魚が一匹、否、一人。

緑のような、青のような、そんな鱗に覆われた頭部を海面から出し空を眺めていたのは魚人である。

全身が鱗に覆われ、背中に背ビレがあり、手足は鋭い爪と広い水掻きがある、顔は魚そのものだった。

一般に『ディープ族』と呼ばれる彼ら魚人は10人、海軍傘下、海兵隊所属の者たちだ。


「ゴボゴボゴボゴボ……」


彼は海中に潜るとディープ族だけが分かる排水溝の音のような声を使って仲間と連絡を取り合った。

以下は人間の言葉に訳す。


「(隊長! 閣下より合図、速やかに作戦行動に移れ! です!)」


隊長と呼ばれた男が手を上げて指示を出す。

彼の名は『ディープ・ワンス』大尉。

魚人にしては珍しく、エラも鱗もあるが頭部は人間のそれだ。

淡い水色のセミロングヘアにすっきりとした顔立ちの間違いなくイケメン。

しかし、ディープ族の美的センスは『魚に近いほど美形』なのでディープ族的にはダントツのブサメン扱いである。


それはさておき。


ワンス達は旗艦らしき戦列艦に泳いで接近。

隊員の抱えていた炸薬を減らした一発の魚雷を船底にくっ付けた。

あとは隊員の一人がディープ族特有の水中水魔法で信管を攻撃、魚雷を起爆した。


瞬間、木造の艦底は吹き飛び、大量の海水が流れ込む。

彼ら海兵隊は浸水が収まると大穴が空いた船底から侵入、混乱する旗艦の制圧を開始する。


「!? し、侵入、ぐげ!?」


下層から上がってきたワンス達を目撃した船乗りは味方に知らせる間も無く投げナイフで首を刺され沈黙した。

周囲の船乗りも音も無く首を狩られた。


ワンス達は速やかに防水された袋から一○○式機関短銃とマガジン、南部式拳銃を取り出し装備する。


「……作戦開始だ、全進!」


******



所変わって、航空戦艦『伊勢』、飛行甲板。


「ふぁっはっはっは! 腕がなるのォ!!」


発艦を今か今かと待っている艦上爆撃機『彗星』そのコックピット。


「リッチス大尉! サンライズから発煙弾! 作戦開始です!!」

「リッチーで良い! ペペ坊が最高の舞台を用意しおった、期待に添えようかのォ?」


後部座席から部下の声が届く。

するとリッチーはその『空っぽの瞳』に闘志と歓喜の炎を灯した。

リッチーこと、リッチス・ウィリッヒ・ルーデンス大尉はそのあだ名の示す通り『リッチ系』の魔族である。

正しくは人語を理解し、生前の記憶や理性があるスケルトン種をリッチと呼ぶ、ミーシャの前世ではリッチとは死んで白骨死体となった魔道士の魔物なのだが、この世界では異なるようだ。


航空衣袴、俗に言う飛行服に身を包んだ骸骨。

それは戦死した旧日本軍の戦闘機乗りの亡霊のようだった。


リッチーは発艦許可が下りた瞬間、瞬く間に伊勢を飛び立ちナナル王国王都に向かう。

彼に与えられた任務、それは北の広場に展開する敵部隊へのピンポイント爆撃である。

非常時と言えど首都を攻撃するのだ、誤爆は許されない。

的確に広場に爆弾を投下できるパイロット、ミーシャの要求にペペルはすぐにリッチーに命令をくだした。

大和帝国空軍、いや、帝国軍一の急降下爆撃狂い、『空の魔骨』、それがリッチーだった。


リッチーの彗星は爆弾を抱え広場に向け飛んで行く。



******



軽空母『龍驤』飛行甲板。


「総員! 装備を確認しろ! 戦車隊はいつでも動けるようにしておけ!」


龍驤の甲板に並ぶ陸軍の兵士たち。

九五式重戦車五台、九七式中戦車十台、一式半装軌装甲兵車二十台、そして、陸軍兵六百人。


「いいか! 第一部隊は扶桑からの対地艦砲射撃終了後、転移魔法にて上陸、速やかに港に展開する反乱軍を無力化して北の広場に向け進軍する! 第二部隊は港の確保の後ティトーク殿と防衛部隊と接触、城まで移動、正面で敵を食い止めろ!」


指揮官が作戦を再度確認する。


「敵は約三千の一個連隊であるのに対し、こちらは一個大隊にも満たないわずか六百! 兵の数では圧倒的不利である! しかし! 我々が閣下より授かった勝利を約束された武器の数々の前には無力に等しい! 閣下のご命令は完全なる勝利である! 総員欠ける事なく任務を全うせよ! いいか!!」


「「「閣下万歳!!」」」


こうして、大和帝国最初の大規模作戦は開始した。

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