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第七十三話「大洋に巨体は沈む」

瞬間、この世の終わりかという程の爆音が大洋に響いた。


ガゼル帝国艦隊グランドタートル級三番艦『ロビンソン』に向かいサンライズの砲弾が降り注ぐ。


帝国にとっての悪夢は始まった。


着弾した弾頭はグランドタートルの分厚い甲羅を紙切れの様に貫通し、炸裂。

特撮などではよく必殺技をくらった敵怪獣がバラバラに砕け散るが、まさにロビンソンはそれだった。

直撃弾はたったの一発、しかし、不幸な事にロビンソンの甲羅の上、飛行甲板には大量の魔法爆弾が積まれていた。

さらに、グランドタートルが絶命の瞬間、大量の魔力を大気中に放出し、爆散で肉片と共にばら撒かれた起動済み魔法爆弾は味方艦隊に降り注ぐ。

肉片だけでもかなりの質量を持ち、直撃すれば帆船などひとたまりも無いのに爆弾まで降ってくる。

後続の艦艇は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。


しかし、他のグランドタートルからみれば一瞬で絶命したロビンソンの方がマシだった。


扶桑と伊勢から発射された砲弾がガゼル帝国海軍グランドタートル級二番艦『ガスプ』に着弾する。

しかし、致命傷に至らなかったガスプは痛みで洗脳魔法が解けてしまった。

我に返ったガスプは咆哮を上げてのたうち回る。

艦隊は回避行動もままならない状態でグランドタートルを迎撃しなければならない。

結局、ガスプは痛みにのたうち、次の直撃弾まで帝国艦艇を沈め続けた。


そして、総司令部であるガゼル帝国海軍グランドタートル級一番艦『センタープライズ』。

直撃弾こそ無かったものの、前回の海戦でのダメージもあり航行機能は著しく低下していたセンタープライズは他艦より遅れていた為に今回も大きな損害は無かった。

しかし、確実に精神的なダメージは蓄積されていた。


「な、なんだ! 航空隊は!? ロビンソンはどうした!? 艦を後退させろ! いや、前進だ!」


指揮所で喚いているのは、総司令のザムスである。


「ロビンソン轟沈! ガスプも制御不能! 各艦も被害を受けています! 残存艦艇はあと八、いや、五隻!」


「バカな、バカなバカなバカな!!! 我々が、神に選ばれし『ニューマノイド』である我がガゼル帝国が蛮人などに遅れを、いや、被害を受ける訳が無い!」


「司令……もはや戦闘は不可能です。撤退を!」

「……なに?」


艦長らしき人物がザムスに進言する。

しかし、ザムスはそれに抜刀で応えた。


「……艦長、私の聞き間違いか? 今、撤退と聞こえたが?」

「し、しかし……」

「我が帝国に撤退なぞ無い! 敵前逃亡なぞする敗北主義者はこの艦にはおらんはずだ! 私の部下ならばなおのこと、弱卒なぞおらん!!」


ザムスは今にも切り掛からん剣幕であった。


「艦長……艦を潜航させたまえ。あの忌々しい船にぶつけてやる!!」

「……不用意に潜れば、二度と浮上出来なくなり……っぐぁ!?」


その時、ザムスの放った鋭い突きが艦長の右肩を貫いた。


「……潜航だ!!」

「……い、イエス・サー!!」


ザムスの怒声に操舵員は潜航を開始した。



******



大和帝国海軍航空戦艦『伊勢』指揮所。

ヴィーナとマシリーが沈み行くガゼル帝国艦隊を眺めていた。


「あ〜あ〜、わややなぁ〜」

「まるっきり、他人事じゃの」

「実感湧かんわ、ちょっと大砲撃っただけで二十隻の艦隊がボロクソやで?」


ヴィーナは双眼鏡を覗きながらボヤく。

マシリーは裸眼だがシッカリと見えている様だった。


「のう、ヴィーナ?」

「なんや?」

「『えすえふ映画』の『宇宙闘争』を知っておるか?」

「前にサンライズの視聴覚室でやっとったヤツやろ? 別の星から来た『タコ』……『うちゅ〜じん』やったっけ? アレが暴れ回るヤツ。ウチは『独立記念日』の方が好きやったわ」

「ガゼルの者から見れば、我々が宇宙人であろうな……」

「せやったら、ウチらは風邪引いて全滅するか、ボコられて終わりやな」


マシリーは少し間を置いてヴィーナに問いかける。


「もし、和平を申し出てヤツら受けると思うか?」


その問いにヴィーナは双眼鏡から目を離しマシリーを見た。


「……ありえへんわ。何処ぞの『だいとうりょー』みたいに『和平』とか『共存』なんて言い出す脳みそお花畑やったら、一神教の狂信者で選民思想の馬鹿帝国作らんわ。阿呆は何遍死んだかて阿呆や」

「……ミーシャと同じ様な事を言っておるな」

「ミーシャはなんて?」

「民も自国も他国も全部巻き込んで、全部めちゃくちゃにして、みーんな敵にして、自分のケツに火を付けて、帝都が燃え尽きて、断頭台に立つまで止まらない、立っても治らない、思想や宗教とはそんな病だと言っておった。信じる事で周りを見ない、見せない。頭を挿げ替えるまで永遠と国獲りを続ける。狂信者は死んでも狂信者だと」

「……ほんま、恐ろしい七歳児やで……」

「……自分も『理想に狂った狂信者だ』ともな……」


マシリーの最後の呟きは砲撃音にかき消された。


「グランドタートルが一頭、潜航しました!」


部下の報告にヴィーナが問いかける。


「沈んだんとちゃうか?」

「いえ、目立った外傷はありません。直撃弾や至近弾も確認できず」


「……やっこさん、何するつもりや?」




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