第七十一話「急襲」
「索敵何してた!!」
「すみません! 人事異動の隙を突かれました!」
ミーシャ、ナターシャ、ティ・トークは指揮所に駆け込んだ。
ミーシャから激が飛ぶ。
「八時の方向より編隊を組み飛来する物体を確認! 敵機射程距離までおよそ十分!!」
「おそらく、帝国のグリフォンです!」
「思ったより足が速い……」
ナターシャとトークがミーシャに語りかける。
「数は!?」
「目測でおよそ三十!」
<こちら第三艦橋! 敵機後方にこちらに向かってくる物体を確認! 詳細は不明ですが、数は約二十! グランドタートル級と思われる物体が三! 速度から会敵まで三十分!!>
「対空戦闘発令!!」
<対空~戦闘~!! ラッパ鳴らせ~!!>
ミーシャの号令で対空戦闘を知らせるラッパが鳴り響く。
「メアリは!?」
「中将は現在『扶桑』にて指揮を執っています!」
「全機銃群準備完了まで五分!」
「扶桑、伊勢、共に準備中! 航行可能まであと一時間!!」
「現在『龍驤』が技術部の兵器積み替えの為に起動状態で右舷に接舷しています!! 龍驤の艦首は反対方向を向いています!」
「伊勢にて第一航空隊発艦準備中! 発艦まであと三十分はかかります!」
ミーシャの耳には悲痛な報告が次々に飛び込んできた。
初動が遅れ、全てが後手に回っている。
「サンライズ! 両舷最大船速! 取り舵いっぱい!!」
「両舷最大~船速~! 取~り舵いっぱいっ! 急~げ~!!」
「龍驤も前進! 取り舵を取っています!!」
「龍驤にてペペル機以下四機が発艦準備中! 飛行甲板に機体が見えます!」
「龍驤に発艦を止めさせろ!! 龍驤で回頭中の発艦は無理だ!!」
ミーシャは通信士に向かって叫んだ。
航空母艦『龍驤』は飛行甲板が狭く、海面からあまり高さが無い、艦のバランスも悪い為にパイロットからは『回頭中の龍驤の発艦は困難で、横目に海面が見えた』と言われる程だという。
「第四機銃群配置良し!!」
「高角砲機銃配置良し!」
「二番砲塔配置良し!!」
指揮所には次々に配置良しの伝令が飛び込んでくる。
「主砲三式弾装填!」
「主砲三式弾装填! ……っ!? 大変です! 一番砲塔で揚弾装置異常! 装填不能!」
<こちら三番砲塔! 砲塔旋回装置に異常! 現在復旧作業中! 作業完了まで三十分!>
「このっ! ……くっそ忙しい時にっ!!」
無理やり召喚した代償が現れていた。
******
「……なんてデカイんだ」
ガゼル帝国グランドタートル級航空母艦『ロビンソン』から飛び立ったグリフォン隊、隊長のティマー・バートンはサンライズを見てそう呟いた。
「マストみたいなのはあるが……帆がない……」
鳥の上半身と獅子の下半身を持つグリフォン、その背に乗ったバートンはサンライズを注意深く観察していた。
この世界の常識を超える巨体、禍々しくも神々しくも見える灰色の船体、船体に生える筒状の何か、想像を絶する巨体が風の力を受ける事なく、かなりの速度で前進していた。
「隊長! ジョーンズ隊が先行します!」
僚機の言葉にバートンは視線をサンライズからそらした、そこにはサンライズに向かって行くグリフォンが十騎。
彼の直属の部下であるジョーンズの隊だ。
バートンは叫んだ。
「ジョーンズ! 気を付けろ! 嫌な予感がする!!」
ジョーンズはバートンの言葉が聞こえたのか、片腕を挙げて応えた。
その行動に、ジョーンズを息子の様に気に掛け、一端のグリフォン乗りに育て上げたバートンには『心配無用』という意思が感じられた。
バートン以下、グリフォン隊が抱える魔法爆弾、軍艦すら一撃で撃沈するその爆弾にジョーンズは絶対の信頼と必中の腕を持っている。
(気のせいなら良いが……)
「我々は手負いの帆船を狙うぞ!」
そう言ってナナル王国戦艦『グリム』に向かおうとしたバートンはサンライズを一瞥して動きを止める。
「……なんだありゃあ?」
そこには、さつきまで艦首を向いていた『筒を二本突き刺した箱』がゆっくりと向きを変えつつあった。
その筒の延長線上には……。
「ジョーンズ!!!」
そう叫んだ時、二本の筒が火を噴き、爆音が轟いた。
「隊長!! ジョーンズ隊が!!」
次の瞬間、十騎居たジョーンズ隊の半数以上が粉々に砕け散り、または火達磨になって落ちて行く。
しかし、残ったジョーンズは真っ直ぐにサンライズに向かって行く。
「やめろ!! ジョーンズ!!」
バートンの叫びは届かない。
巨大な船に所狭しと並べられていた大量の筒が次々に火を吹いたのは同時だった。
目に見えない速度で打ち上げられた砲弾は次々と空中で炸裂する。
バートン達が知る由もないが、練度の低いサンライズが対空目標に主砲三式弾を命中させたのはもはや奇跡である。
しかし、壁の如くばら撒かれる対空砲弾の嵐の前にジョーンズ隊は次々と撃ち落とされて行った。
「……こ、この化け物があぁぁ!!」
一瞬、ジョーンズの叫び声が聞こえた様な気がした。
たった一騎、サンライズに肉薄したジョーンズは爆撃に成功する。
限界まで魔力を使い強化したグリフォン、そして強力な破壊力を持つ魔法爆弾。
魔法爆弾はサンライズに吸い込まれる様に落ちて行った。
サンライズの甲板で激しい爆発が起こり、爆炎が上がる。
しかし、喜んだのも束の間。
ジョーンズは対空砲の嵐に呑まれた。
「……ジョーンズ……!」
バートンはサンライズに釘付けになっていた。
ジョーンズが与えた最後の一撃。
その成果は……。
「馬鹿な……ば、化け物!」
そこには、多少甲板が傷付くも全く問題無い様な巨艦が居た。
速度も、対空砲の数も変わらない。
むしろ激しさは増していた。
「隊長! こちらが狙われて居ます!」
「この距離でも撃って来るのか!? 各騎散開! 距離を取れ! 早く!」
(坊主、いや、司令が言っていたヤツがアレか!!)
バートンはグランドタートルを追い払った巨艦の話を思い出していた。
最初は獲物を逃がしたマヌケの戯言と聞き流していたのだが。
今やグリフォン隊が持っていた空の優位性は消え果て、攻撃も通じず、今や右往左往と逃げ惑うだけになっていた。
「何か飛んでくる!?」
「今度は何だ!?」
対空砲の炸裂音でかき消されていたが、ブゥゥゥンと言う妙な音が聞こえてきた。
「なんだあれ! 鳥!?」
グリフォン隊に向かってくるのはペペルの駆る九六式艦上戦闘機であった。
13.11.10 超大和型の主砲は45口径51cm砲”連装”3基なので主砲の表現は”筒が三本”ではなく”筒が二本”でした。




