第七十話「大和艦隊誕生」
カレー騒動の後、甲板に集められた人々を眺めるナターシャが居た。
「これから何が始まるんです?」
ナターシャは隣に立つラビーに問いかける。
この問い、ミーシャであったなら『大惨事大戦だ!』とか言いそうであるが、それはさておき。
「人事異動の発表みたいですよ?」
(人事異動? この海の上で?)
ラビーの答えに首をかしげるナターシャだが。
「我、発言である! 傾聴!!」
マシリーの発言により、ナターシャを置き去りに、式は開始された。
「……では、人事を発表するぞ!」
マシリーが発表した人事は。
「新型艦三隻を編入につきサンライズ乗組員より3000名を割り振る。なお、乗組員を正式に大和帝国軍に編入、メアリ・ノックス大佐は中将に昇進。海軍長官に任命する。続いて、新たに組織する帝国空軍長官にヴィーナ・パーム中将、以下航空隊100名、ガルフ・ペペル大尉を航空隊指揮官および教官に任命、少佐に昇進。ヴァルヴェルト・ブーン中将、以下陸軍300名。技術試験隊からオリヴィア・マイ技術大尉以下10名。以上の者は新型艦に異動を命ずる!」
マシリーは声高にそう宣言した。
「新型艦内訳は『扶桑型戦艦』一隻、『伊勢型航空戦艦』一隻、『龍驤型航空母艦』一隻である。旗艦は引き続き超大和型戦艦『サンライズ』とし、海軍仮本部を扶桑、空軍仮本部を伊勢、陸空軍の訓練艦、及び技術試験本部として龍驤を割り当てる。各艦艦長は……」
マシリーの話は続く。
「甲板長……いや、技術大尉も移動なんだ」
ラビーは『クイーン』の時の上司、当時の甲板長を見てそう呟いた。
「……まだ船も作り始めて無いのに人事異動とは……気が早い」
いつの間にか横に並んでいたティ・トークの一言にナターシャは答える。
「確かに……しかし、皆、さも当たり前の様に……この雰囲気は一体……」
「あぁ、その船ならもう『出した』みたいですね」
いぶかしむナターシャに気付いたラビーは、海をチラッと確認するとそう言った。
「……な、なんとぉーっ!?」
海を見たティ・トークが奇声を発する。
そこには灰色に鈍く光る巨体な船が三隻、浮かんでいた。
******
サンライズ艦内、旧電算室跡。
今やほとんどの電算機、探知機が第三艦橋にあるサンライズにおいて元の電算室はあまり重要では無く、室内は思いのほか機材は少ない。
しかし、機材以外の物、本やお菓子、酒にレコード、ブラウン管テレビにビデオデッキ、レーザーディスクやら旧型ゲーム機、映写機もあれば洗濯板から仙波漕ぎ、大きな古時計、一部は何に使うかすらわからない物が所狭しと並べられ……いや、放置され、山と積まれている。
ここは雑貨屋、通称『購買部』と呼ばれている。
もともとはミーシャが自身の力を確認する為に、やたらめったら召喚しまくった物品が置かれている。
もちろん、危険な物は削除されているが、安全と判断された物は娯楽として販売されていた。
「……だるい」
購買部のカウンターでダラける人影が一つ。
ミーシャである。
人事異動の発表と新型艦の召喚、披露は終わり、式典をマシリーに丸投げしたミーシャは一人この部屋でぼーっとしていた。
「……まぁ、これで甲板もちっとは片付くだろ……」
ミーシャは甲板の惨状を思い出し呟いた。
まず、現状でこのサンライズにはイース王国脱出組5000名、魔族1000人、そしてナナル王国のけが人が1000名の総勢7000名。
戦艦大和の最終乗組員が3332名、陸軍兵士や物資を輸送したという記録もあるが、明らかな定員オーバーである。
実際に甲板の一部にテントが乱立し村が出来上がっていて、艦内から溢れ出した人々が暮らしている。
もうひとつの問題が、今回の異動で龍驤に移る『技術部』だった。
ミーシャにして『機械狂い』と言わしめた技術大尉オリヴィア・マイを筆頭とする10名からなる技術部。
もともと、機関部の管理を行っていた彼女達はいつしか機械化中の陸軍車両まで整備しだした。
やがて整備は改造に、改造は魔改造に発展。
後部甲板には一部の兵士から『合成獣の墓場』と呼ばれる兵器が並んでいた。
8.8cm砲を搭載したチハ、通称『チィガー戦車』。
魚雷発射管をぽん付けした大発艇。
ガトリング砲を取り付けた水偵。
戦車砲を取り付けた回天。
……などなど。
召喚すれば類似品はたくさんあるのだが、技術部の暴走は続いた。
設計図、思想段階止まりの陸上戦艦、列車砲を転用した80cm二連装砲搭載戦艦(大和級双胴戦艦で前後二基)など、どれも運用不可能であり、発砲すればひっくり返る、重量過多で動かない。
車両、船舶の爆発事故ならまだマシで、改造航空機の墜落事故も多発した、海上の為に被害は軽微であった(パイロットが頑丈な魔族であった事も幸いした)。
技術部はミーシャから航空機の改造は全面禁止を言い渡されている。
今回の異動で陸海空の知識を吸収してまともな物が作れればいいが……。
ミーシャがうつらうつらしながらカウンターに突っ伏していると。
「(ダァンッ!!)ミーシャ総統はこちらか!!?」
「!!!」
勢いよくドアが開きナターシャ、ティ・トークが飛び込んできた。
ミーシャは飛び起きた猫の様に固まっている。
「ミーシャ総統! あ、あ、アレは一体なんなんだ!?」
「い、いきなり船が! 船が!!」
ふたりは こんらん している。
「お、落ち着け! 一旦落ち着こう!? ほら、座って! 深呼吸して!」
二人を落ち着かせるのに十分ほどの時間を要した。
ミーシャは二人に自身の力を一部説明する。
「……つまり、アレは総統が召喚したと?」
ナターシャはゆっくりと、噛みしめる様に問いかけた。
その問いにミーシャは黙って頷く。
「……なんと非常識な……」
ティ・トークが呟いた時……。
<緊急警報! 緊急警報! 敵機襲来! 繰り返す! 敵機襲来!!>
けたたましい警報音と監視員の悲鳴が艦内に響き渡った。




