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第六十七話「初の会談」

ナターシャ達は呆然と立ち尽くしてしまった。

圧倒的科学力と攻撃力をもつ戦艦、その最高責任者にして国家元首が、まさか7歳の少女とは。


「……ごほんっ!」


サンライズ艦長のメアリの咳払いで我に返った三人はナナル王国式の挨拶で返した。


「……わ、我輩がナナル王国海軍提督『ティ・トーク』だ、この度は敵艦撃退、救難支援と数々のご厚意痛み入る。して、我が国に如何様な?」


「立ち話もなんです、席にどうぞ。まずは貴国の領海を犯した事を謝罪します。我々は東の国より出発し、新たな国を立ち上げる為に旅をしています」


「東の国? 新国家を樹立すると?」


「そうです、過去に冒険家『マーティ・ノックス』が見つけた島々、我々は『ケブラー諸島』と呼んでいますが、そこに新たに国を築こうと国を出たのです」


「ケブラー……おそらく我がナナル王国王都から沖合に位置する『ガダナル島』の事であるな。我々はガダナル島を中心に5つの島々の事を『ガダナガナル諸島』と呼んでおる。確かにガダナガナル諸島はここから北西に進んだ先だ。しかし、特に資源も無く、戦術的価値も無い為にただの無人島だ。我が国に協力をするのであれば領土の譲渡もあり得るかもしれん」


「そうですか、では本艦も王都にご一緒しても?」


「かまわん。むしろ今回の海戦の報告のためには必要な事だ」


ミーシャとトークの会話は続く。


トークによれば、西の大陸の名を『アジーナ大陸』と言い、北のナナル王国を含む『連合国』は南の『帝国』と戦争中だそうだ。

アジーナ大陸はナナル王国と一部の帝国領土を除き、海岸線が断崖絶壁になっている。

なので海軍が有るのは実質ナナル王国と帝国軍のみ、今は制海権が帝国に移り、同盟国は海からの空襲に晒されている。


立地的には北から

ナナル王国(ガダナガナル諸島)

同盟国群(同盟国とナナル王国の境にて今回の海戦)

帝国

(カッコ内は海)


今回は一時的に危機を脱したものの、ナナル王国が陥落すれば連合国軍は北と南からの挟み撃ちに会う。


「なるほど、帝国とは?」


「帝国は南の大国である。唯一神ガナーダを崇める、『ガナーダ教』を国教にしておるが、ガナーダの教えは『ガナーダを崇めぬは人に非』でな。しかも、帝国民は自らを『ニューマノイド』と呼び、全世界はニューマノイドとガナーダの教えによって導かれるべきだ、と主張しておる。馬鹿げた話だがな」


トークのこの発言にミーシャは『選民思想の上、一神教とか完璧詰んでるわ〜』とか考えていた。


「詳しい話は王都でするのが良いだろう。残念な事に国王陛下はご心労が祟り、謁見はできないが。国家会談は第一王女様がおいでになるはずだ」


そこまで話、トークはナターシャに目配せをした。


「……ところでミーシャ総統。無理を承知でお願いがあるのだが?」


トークの言葉にミーシャは内心首を傾げながら答える。


「我々に出来る事なら……」


「うむ、実は貴艦に乗艦させてもらいたい。怪我人では無く、特使として、私が乗艦しておることで入港がスムーズになるだろう」


ミーシャは、これはサンライズの技術を盗む為だろうと推測した。

トークも思惑が見透かされるなどわかり切った事なので断わられる可能性が高いと踏んでいた。

しかし。


「えぇ、構いません」


ミーシャはあっさりと受け入れた。

確かに長い目でみれば、技術流出は脅威になるだろう。

しかし、もし現代人が宇宙人にUFOを見せられて『明日までに原理を理解して同じ物を作れ』なんて言われても不可能だ。

この超大和型戦艦とトーク達とではそれ程、常識がかけ離れているのである。


もし、帆船に鉄の装甲をつけたら?

もし、魔法でエンジンを再現したら?

もし、大砲を自力で開発したら?


まず、開発費は圧倒的数字が出るだろうし、機械生産が無いこの世界では職人の手作りになる。

ネジの一本まで手作り、しかも、エンジン内部などはミリ単位の設計だ、量産は不可能。


彼等が独自に開発している間にミーシャは魔力の続く限り、無資源で、無費用で、無尽蔵に、一瞬で作り出せる。

もし、兵器が奪われた場合も、ミーシャが生み出した物は、ミーシャの意思で消去できる。


多少の技術流出はむしろ圧倒的力量の差を見せつける機会だと踏んでの判断だった。

まぁ、彼等が『予備知識無しで理解できれば』の話ではあるが。

現代で、全く車に乗らない人にエンジンルームを見せて、適当に指差し『このパーツの役割はなんですか?』と言うようなものだ。


閑話休題それはさておき


ミーシャの予想外の答えに驚きながら、トークは続ける。


「……では、我輩と……秘書であるナターシャが乗艦する」


ミーシャはナターシャを見ると少し悩み。


「わかりました。……え〜っと……そうだな……提督には武装親衛隊指導者のゴーザス・ベックマン中将を、ナターシャさんには第三艦橋水中探知室室長のラビィナ・ワイズマン特別伍長を付けましょう、ご用命は彼等にされるといい」


「ご厚意感謝する」


こうしてナターシャはサンライズに乗艦した。




******




彼は艦内を歩く。

サンライズ水上偵察機隊隊長ガルフ・ペペル大尉である。


「おーい! ペペル〜!」


ペペルは通路の向こうから声をあげる友人に手を上げて答え、近づいた。


「なんだ、トムズ。居残り組の文句か?」


ペペルは苦笑しつつ、友人、トムズ・ワーカス少尉に話しかけた。

彼とは、まだペペルが『魔族統合軍』だった時からの親友だ。


「ばっか、ちげーよ。それより、聞いたぞ? 初の実戦で敵艦撃沈だって?」


龍騎兵だった時は対地攻撃が主だったが、それでも攻撃方法は手持ちのランスと攻撃魔法、乗騎のブレスくらいであった。

対艦攻撃をしたとしても、良くて足止め、撃沈などあり得ない。


「あぁ、あの『すいてい』ってのはすげーよ」


「流石は『我らが総統マイフューラー』だな、はっはっはっ!」


談笑しているとトムズが気になる一言を発した。


「まぁ、あっち行っても頑張れよ!」


その言葉にペペルは首を傾げる。


「なんだ? その『あっち』って?」


「おまえ『艦内掲示板』見てないのか? おまえ……」

「あぁ、おったおった。ペペル大尉!」


トムズが何かを言いかけたちょうどその時、通路の向こうからヴィーナが近づいて来た。


「「ヴィーナ中将! お疲れ様です!」」


ペペルとトムズは慌てて姿勢を正して敬礼する。


「おぉ、ご苦労さん。……んでや、ペペル大尉。はい、これ」


すると、ヴィーナはペペルの腕に大量の書類を持たせた。

どさっと置かれたそれを引きつった笑顔で見ながら、ペペルはヴィーナに質問する。


「……中将? 戦闘報告書と偵察報告書は提出しましたよ?」


「ちゃうちゃう。それはそれ、これはこれや」


ペペルは書類をめくる。


『発艦報告書』

『着艦報告書』

『艦載機使用証明書』

『後部甲板カタパルト使用証明書』

『艦載機装備換装詳細報告書』

『艦載機燃料使用詳細報告書』

『艦載機弾薬使用詳細報告書』

『爆撃に関する詳細報告書』

…………以下略。


ペペルは自分の顔が青ざめていくのを感じていた。

書類の最後の方には『艦内食堂の料理アンケート』なるものまで混ざっている。


「それと、これ」


ヴィーナは更に書類を追加する。


『航空部隊拡張に伴う空軍設立の隊員選抜書』

『新型機導入における調査書』

『階級昇進に関する詳細書類』

『航空部隊育成の為の詳細書類』

『人事異動に関する詳細書類』

『特別任務任命状』

『乗艦移動に関する手続き書類』

………などなど。


「とゆうわけで、準備が出来次第新しい船に移動や。あと、航空部隊育成主任教官の特別任務が出てるから、親衛隊と陸軍から何人か抜擢してな」


「……あの、拒否権は……?」


「なに言うてんねん、そんなん、勿論……」


ペペルの消え入りそうな声に、ヴィーナは満面の笑みで返した。


「あるわけないがな。ほな、よろしゅうたのんまっせ! ペペル”少佐”」


ヴィーナはペペルの形を叩き、去って行った。

その場には書類を抱えて立ち尽くすペペルと同情の眼差しを向けるトムズが残されていた。

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