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第六十一話「大海を渡る」

どこまでも続く青い空、白い雲、見渡す限りの大海原。

そこに浮かぶは鋼鉄の船。

戦艦『サンライズ』は西を目指しひた進む。


「せいれ~つっ!! きを~つけ~っ!!」


ザッ!!


海原に響き渡るは野太い声だった。


『サンライズ』の甲板上で、隊長だろうか、声を張り上げ号令をかける。

その声に行動で応えるは魔族の兵士たち……だけではなく、非番の船乗りや最後列には船乗りの家族である女性、老人、子供達も居た。

総勢2000人は甲板に集結している。

隊長は大きく息を吸い込み次の号令を発した。


「『らじお体操第一』~っ! よ~いっ! 腕を振り上げ背伸びの運動~っ! はじめ~っ!」


い~っち! にぃ~っ! さ~んっ! し~っ!


魔族の兵士も人族の民間人も一丸となって励む『ラジオ体操』であった。

2000人のラジオ体操は続く……。


「しゅ~りょ~っ! 『スタンプカード』~っ! 押し方よ~いっ! せいれ~つっ!」


隊長の号令で老若男女、全員が並ぶ。

その先には……。


「は~い、お疲れさ~ん。はいはい、並んで並んで~」

「はい、お疲れ様です! 五日間連続ですか? 明日も頑張ってくださいね。あっ! み、耳を引っ張らないで!!」

「次、モタモタするでない! ん? 握手? 別に良いが? ほれ」


甲板に机を出して判子を押しているミーシャが居た。

右には親衛隊ファンクラブが殺到しているマシリーが居る、既に握手会になっているが……。

左には手伝いに駆り出されたラビーが、子供達に人気の様だ。


イース王国を出発してから、早半年。

途中に輸送艦や給油艦などを召喚し補給しつつ西へ進む『サンライズ』。

船員達が連れてきた家族も、魔族に対してかなり打ち解けており、操艦訓練や基礎学習などミーシャ主導の教育の場にも両種族がそろって真面目に受けていた。

しかし、今だ操艦は一部を除きミーシャの使役するヨモツイクサであり航行可能時間は半日、巨大生物の襲撃も回数が増え、あまり旅程は進んでいなかった。


そして、今回のコレは。

もともと、毎朝ミーシャがやっていたラジオ体操をポルとボルが真似をし、気付いたら艦内で朝の行事になっていた。

他にもミーシャの発案で艦内に七曜が使用されていたり、金曜日はカレーだったりする。


体操が終わり各々が動き出した時。

艦内の警報器がけたたましい音を出した。


<艦内放送。 第三艦橋、中央探知室より。 11時の方向より海獣の接近を感知。 乗組員は可及的速やかに配置に付け。 繰り返す、可及的速やかに配置に付け>


放送が終わるやいなや、甲板の一般人は艦内に退避を開始、兵士たちは戦闘体制を取るために移動を開始する。

この半年間、沖に出れば出るほど頻繁に襲撃され、かなり慣れてきた様だ。


<艦内放送。 第三艦橋、中央探知室より。 ラビィナ・ワイズマン室長は直ちに第三艦橋にお戻りください>


ラビィナ・ワイズマン室長

『音を聴き分ける能力』に目を付けられたラビーはミーシャの特訓のかいあってか今や第三艦橋の水中探知ソナーの責任者になっていた。

彼女の元にはソナー員達が数人、訓練中だ。


<艦内放送。 第一艦橋より。 ミーシャ・ラダッド総統、マシリー・ノイマン副総統は直ちに第一艦橋にお越しください>


「行くぞミーシャ。メアリを待たせるとかなり怖い」


そう言うとマシリーはミーシャの腕を掴んだ。


「でも、防空指揮所から入る方が怒られると思う……」


ミーシャの呟きを無視してマシリーは飛び上がった。



******



艦底に位置する第三艦橋。


「すいません、戻りました!」


ラビーに気づいた部下から報告の声が上がる。


「対象の方向と大体の位置は割り出しに成功しました、おそらく直線で50kmほど先に位置し依然こちらに向かって進んでいます」


ラビーは報告とともに差し出されたパッシブ・ソナーのヘッドホンを装着する。


「……ピンガーを打ちますか?」


「いえ、不要です。アクティブ・ソナーを使えば海獣を刺激し、こちらの位置を教える事になります」


アクティブ・ソナーとは水中に超音波ピンガーを発射、跳ね返って来た超音波を聞き取り相手の位置を把握する、そのため相手にもこちらの位置を教える事になり、場合によれば海獣を刺激する事になる。

反対にパッシブ・ソナーは海中の音を集音器で聞き取るのでこちらの位置を晒す事は無いが、音を出していない相手は探知出来ない。


ラビーが部下に指示した時、第三艦橋の通信機から声が聞こえた。


<発、第一艦橋。宛、第三艦橋。戦闘配備終了。状況報告、送れ>


「こちら第三艦橋……対象は11時の方向より……おそらく……15ノットで接近中……大きさから……グランドタートルと思われます……潜行深度は……いえ、ほぼ浮上しています」


第一艦橋からの命令に音を聴き分け返答するラビー。

しかし、通常ならパッシブ・ソナーでこれほどの情報を獲得するのはほぼ不可能であり、ラビーの特殊さがわかる。


(……グランドタートルの音でわかりにくいけど……他にも何か……?)


ラビーはゆっくりと口を開く。


「こちら第三艦橋。アクティブ・ソナー使用許可願います」


数秒の沈黙……第一艦橋もアクティブ・ソナーの欠点に悩んでいた。


<こちら第一艦橋。アクティブ・ソナーの使用を許可する>


「第三艦橋了解。アクティブ・ソナーお願いします」


「了解、アクティブ・ソナー、打てっ!」


ラビーの指示に部下はすぐさま応えた。

ピンガー特有の『コーン……』という音が響く。


コーン……コーン………コーン…………


ヘッドホンに意識を集中しラビーは音を聴き分ける。


「…………。……っ!? こちら第三艦橋! 対象周辺に人工物……船舶と思われる物が……約8隻! ……戦闘音が聴こえます!!」


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