第五十五話「伸るか反るか」
「子孫であるお主には本当に申し訳なく思う、我らの力不足が招いたことじゃ。 我らは、我は友に拭いきれぬ汚名を着せてしまった……奴の無実を共に証明してはくれぬか? ……たのむ」
そう言ってマシリーは深々と頭を下げた。
魔王軍の最高権力者が、魔界魔王軍総統代行が深々と頭を下げたのだ。
「……よしてくれ。それならこちらから手伝わせてくれと頭を下げる事だ。しかし……」
言葉を言い切る前にメアリはゆっくりと崩れ落ち、ボロボロと泣き始める。
「……船長」
「……クイーンの」
「……ひっぐ! ……えっぐ!」
普段、強気な姿勢を崩さず。
弱音など以ての外な彼女が、あのメアリ・ノックスが人目を気にせず泣いている。
その光景をまのあたりにした船乗り達はひとり、また、ひとりと武器を納めていった。
「船長が乗るなら俺たちは一蓮托生だ!」
「……俺も、この話に乗る」
クイーン派の船乗り達は次々に参加を表明していった。
「…………」
一方、反対派の船乗り達はバツの悪そうな顔で佇んでいた。
「おめぇらはどうする?」
「……悪りぃが……おらぁ、あの船以外で海に出る気はねぇ……」
その答えに皆肩を落とす。
「……嬢ちゃん、船乗りは何人必要だ?」
「予定は3000人、希望者が居るなら受け入れは出来る」
「この酒場には10隻分、約だが6000人、大体は他の場所に散ってるがそれだけ居る。参加する奴は3000人程だが」
「街に居る船乗り達で今回の騒動に巻き込まれたのは?」
「そいつは把握しきれねえが……俺らを省いて、おそらく……あと4隻は摘発されてる」
「えーっと、1隻にだいたい600人くらいだから……あと2000人くらいですね」
「となると一隻増やすか……なら受け入れ出来るな」
「分かった……なら何人か走らせて連絡を取る。おめぇら! 他の奴ら叩き起こして夜明けまでに結論ださせろ! 憲兵には気付かれるなよ!」
部下に指示を飛ばす他の船の船長。
「……俺たちはもう海に出る気はねぇが……船取られて、船長殺られて黙ってはいれねえ! せめて暴れてからくたばってやるぜ!」
「おうよ! なんなら囮だって買って出てやる!」
「……領主がなんだ! 船乗り舐めやがって!」
残る事を決めた船乗り達は最後に一花咲かそうと武器を手に取る。
「この街の憲兵共は多くて500人、あとは軍艦の水兵共だが、領主の館の警備は憲兵の管轄だ」
「水兵が陸に上がって来なきゃ何とかなる!」
息巻く船乗り達にミーシャは声を掛けた。
「海の注意は俺が引くよ。……ありがとう」
「気にすんな嬢ちゃん! あんな事言ったがな、最後に萎んでくたばるより、違う死に方を選べたんだ! こっちがありがとうってなもんだよ!」
「俺たちゃ船乗り! 船は家で、船員は家族だ! なら家族の為に命懸ける!」
「本当に何者なんだかな、黒髪の嬢ちゃんは」
「陸に身内や後悔があるやつぁ居るか? 今ならまだ抜けれるぞ?」
「今のうちに別の酒場に行っとけ、もしくは身内連れて来い!」
そして、ミーシャと共に国を出る者、反乱を起こす者、愛人や家族を連れてウェンズレイポートを離れる者などが行動を開始したのだった。




