第五十三話「魔王代行の昔話①」
「いやぁ、今日はスープがうめぇなあ……よっしゃ! 今日はスープ祭りだぁ!」
酒場の一角。
我こと、マシリー・ノイルンは注がれた人の酒を飲んでいた。
やはり、人族の酒は魔族には少しばかり弱い気がする。
「こら、マーティ! 少しは落ち着かぬか!」
我は熱々のスープを頭に乗せて馬鹿踊りをする馬鹿、マーティ・ノックス、通称『ダーティマーティ(汚れ屋マーティ)』をたしなめた。
ヤツは腕とここ一番の勘と悪運の良い冒険家である。
「なんだよマシリン! おめえもするか!?」
我の声にマーティは振り返った。
あぁ、そんな動きをすれば……。
(バシャ!)
「あぢいいいぃぃぃぁぁぁあ!!?」
普段はこのような馬鹿丸出しの男である。
我は熱さに転がり回るその馬鹿に一発蹴りを入れておく。
「ごふぅっ!?」
「馬鹿をしておるからじゃ。あと、次にマシリンと呼べばこれではすまんぞ?」
その馬鹿は我に蹴られ数メートル転がった末にヨロヨロと立ち上がる。
「げほっ! な、なんでニャンころはよくて、俺はだめなんだよ!」
そう叫んだマーティ(馬鹿)の顔に木製の皿が叩きつけられた。
もちろん、横向きに。
すかーん! という気持ちの良い音と共にマーティがすっ転んだ。
「今、われ、ニャンころゆーたか? のぉ? うちはトラやゆーとるやろが!! いてこましたろかぁ!」
発射したのは『ニャンころ』こと、ヴィーナである。
かなり酔っておるのか、顔がかなり赤くなっておるわ。
「なにしやがる! ねこ娘!」
「また、猫ゆうたな!? 上等や! ドタマカチ割ったる!」
「お二方ともおやめなさい、はしたのう御座います」
「止めるなゴーザス!」
「止めんなやゴー爺!」
ゴーザスが止めに入っていったな。
『この時、
マシリー・ノイルン:魔貴族ノイルン家当主
ゴーザス・ベックマン:ノイルン家執事長
ヴィーナ・パーム:マシリーの友人兼参謀役
である』
やれやれ、これでは話が進まん。
「マーティ! なぜ我らを呼んだのか、話さぬか!」
我がそう言うと二人は渋々席についた。
「わざわざ、この国まで出向いたのだ。それなりの理由があろうな?」
我の問いにマーティはニャリと笑った。
「聞いて驚け……なんと今回、国王から依頼があった」
「人族の王さんの命令なんぞ知らんがな」
「だから、依頼だ依頼。目的地は西の果て、資金に装備、船から人まで全部、国王持ちだ」
「随分気前がいいの?」
「今、権力関係でごたついてる。冒険について来る騎士殿も実は王家の血をついでるらしい。国王は自分と騎士の実力を示して跡継ぎ争いを確実にしたいのさ」
「まわりくどいな、魔貴族なら現王なり現当主の首をはねれば済む話だ」
「人間なんて体裁や世論を気にするもんさ……それで、三人にはその冒険に付き合って欲しい」
「それだけの待遇だ、一人で行けば良いだろう?」
「バカ言え、西の果てだぞ? ……面白そうな話だろ?」
そう言ってマーティはニカッと笑った。
もとはと言えばこの男、ふらっと魔界に現れて、気付けば住人達と友人の様に笑いあっておった。
いや、我が領地の者は既に友人なのやもしれん、我を含め、な。
いつぞやは、魔王城の厨房でまかないを食らっておったか、ぬらりくらりと恐ろしい男よ。
「……ふむ、確かにな」
「ちょっ!? 行く気かいな!」
「だろ? カッカッカッカッ!」
マーティはからからと笑っている。
「もちろん、報酬はあるのじゃろう?」
「……なにが欲しいんだ?」
我とマーティは頬杖を付きながら顔を突き合わせる。
「……貴様の血、でどうじゃ?」
我の言葉にマーティはきょとんとした顔で停止しおった。
「……カッカッカッカッ!!」
マーティはひとしきり笑切ると我の目を見つめ。
「いいだろう! 冒険に比べれば軽い対価だ! カッカッカッカッ!」
こうして、我ら三人の冒険参加が決まった。




