第四十九話「決意と野望と」
大和型戦艦の甲板。
そこに大の字で寝転がるミーシャの姿があった。
彼女は考える。
女神のミスで事故死した挙句、未知の異世界で第二の人生をスタートさせられた。
ファンタジーお約束の魔法は魔力ばっかり増えて攻撃魔法はからっきしだ(チート能力持ちではあるが)
第二の青春を過ごそうと学校入学の為に大きな都市に出てみると訳のわからない理由でお尋ね者になり、気が付けば魔王と祭り上げられ魔物の軍団と共に行動している。
そして、今度は自分はこの国の”元”姫君であると言う。
「わけわかんねーよ」
ミーシャはぼそりと呟いた。
まず、第一に女神の行動が不可解だ。
最終的に何をさせたいのか。
能力の一部が制限(万能薬などの具現化)されているのも”面白くないから”とか言う理由だったな。
ミーシャは静かに空を睨む。
夕暮れ時の茜色の空に手でちぎった様な雲が幾つか流れていく。
「力……か……」
ミーシャにはチート能力がある。
魔王軍という部下もいる。
アルフォンスなどのコネも、一応ある。
この国を全て見たわけでは無いが。
かなり腐っているように見えた。
何人もの貴族の腐敗は至るところで耳に挟んできた。
果たして、このまま海の向こうに逃げるだけでいいのか。
逃げるというのは何か嫌だ。
爺さん(前世の)も言っていた、世界を動かすくらいの目標を持てと。
力が有るのに活用しない奴は玉無しだ! とまで言っていた気がする。
まぁ、ミーシャには玉付いてないが。
「くすぶってちゃジジイに殺されるかもな……」
この世界に本人がいないのであり得ない事だが、あちらの世界であれば……。
「……」
壁に叩き付けられたトマトを幻視したミーシャは顔面蒼白であった。
「お嬢、顔色が悪いですぜ?」
夕暮れ空を眺めていたミーシャを暑苦しい筋肉……もといゴットンが覗き込む。
「うぉわぁっ!?」
突如として視界を覆った筋肉にとても少女とは思えない悲鳴を上げて飛び起きるミーシャである。
「いきなり現れて暑苦しい筋肉晒すんじゃない!!」
「いや、筋肉否定されると何も残らないんだか……」
少女に怒られちょっと落ち込んで小さくなった(それでもデカイが)筋肉ははたから見るとシュールである。
そういえば、ゴットンもニャルもついでにニッキーも魔王軍と一緒について来てしまっていた。
「……いいのか? こんなとこまで着いて来て……」
ミーシャの独り言の様な問いにゴットンは一瞬驚いた様たが、彼はゆっくりと視線を海へ向け語り出す。
「良いか悪いかで言えば……良いんでしょうねぇ……成り行きとは言え自分の意思で着いて来てんすから」
ゴットンのその言葉にミーシャは静かに耳を傾ける。
「お嬢。 俺は”お嬢”が”旦那”だった頃から心底惚れ込んでる。 それに、お嬢やニャルと居るとまるで娘と過ごしてるみたいで……かなり居心地良いんでさぁ」
「……ロリコン……」
「うぇえ!? なんでそうなんだ!? 第一、俺は一児の父ですぜ!?」
「お前が父親とか……ねーよ、どっから攫って来た? このロリコン!」
「いや、ガチですって! ……俺には娘がいんでさぁ 、住んでた村がなくなった時に生き別れちまいましたが……」
「それで? 娘探しのために盗賊やってたってか?」
「まぁ、そうなりやす」
その返答にミーシャは眉をひそめた。
「オマエ、こんなとこで油売ってていいのかよ……」
ゴットンは悲しそうに俯く。
「俺がお嬢に着いて来たのは娘が見つかる可能性があるからだ……でもね? 俺は正直、楽しんでた……」
「……」
「自分でもわかってた、分かってて認めたく無かったんでしょう。あれからかなり経っちまった、娘と会える可能性なんてもう無いんすよ。 もし、会えたとしても盗賊崩れの俺じゃあもう……(ゴガンッ!)プゲラッ!?」
ゴットンが言いかけた時、ミーシャの飛び膝蹴りが炸裂する。
ミーシャの膝は的確にゴットンの顎を捉えていた。
「テメェ、根性叩き直してやるからそこになおれや!!」
ゴットンはもんどり打って甲板に崩れ落ちる。
「ちょっ、ちょっと、ちょっと!? 何事よ!?」
「アルジ!? ソレ以上イケナイ!」
遠巻きに見ていたのだろうか、ニッキーとニャルが慌てて駆け寄って来た。
しかし、そんな周りを一切気にせずミーシャは続ける。
「テメェ、何まだ助かるかもしれないヤツほっといて見殺しにしようとしてやがる!! 決めたよ、決定、確定だ! テメェ残れ」
「ミーシャ!?」
ニッキーが驚愕の声をあげる。
「……五年だ」
「お、お嬢……」
ゴットンが顎を抑えながらミーシャの言葉を待つ。
「俺が、俺たちが西で力を付けてこの国に戻って来るまで五年。それまでに娘を見つけてこの国に土台を作っておけ!」
「ミーシャ! いきなり何を!?」
「俺もお前と一緒だゴットン。出来やしねえと決め付けてた。出来る力も、仲間も、頭も有るのにだ。お前に気付かせてもらったよ」
そう言うとミーシャは何処からか一本の槍を取り出した。
そう、チハタン食堂ののれんかけ扱いされていた【神槍グングニル】それであった。
ミーシャはそれをゴットンに押し付けるとニャルに向き直る。
「ニャル、ゴットンを頼めるか?」
その問いにニャルは無言で頷いていた。
「何かあったら鴉を使え、必ず力になる」
「ちょっと! ミーシャ、まさかみんな置いてくつもり!?」
「師匠、これは師匠達だからこそ頼むんです。この国の何処が腐っていて何処が正常なのか、誰が味方で誰が敵なのか、見極めてもらいたい」
「だからって急すぎるわ! 第一に私たちに出来るかどうかもわからない!」
「アルやガーディルマンも居る、真意が分からないからあまり突きたくないけど、ラダッドの家もある。師匠、必ず戻って来ます。二人をお願い出来ませんか? これから先は、多分この国に居るより厳しいものになる」
ニッキーは俯き黙り込む。
しばらく佇んで居たがゆっくりと口を開いた。
「……五年よ、それ以上は面倒見れないわ。当分、南部の私の故郷に隠れるくらいなら力になれる」
「ありがとうございます」
「ミーシャ、あなたは一体何をしようとしているの?」
「……この世界の基盤を、政治や常識を、全部書き換える。超国家軍とは言わないが、俺はこの世界を一つにする! だからまずは西を、そしてこの国を、まとめて国連を作ってやる!」
ミーシャはこの中世ヨーロッパの様な世界に二十世紀の常識を構築するつもりであった。
何百年も掛けて作りだされたものを、人の一生、それも数年で基盤を作る。
普通では無理だろう、しかし、ミーシャにはチート能力がある、魔王軍がいる、何よりゴットンやニャル達がいる。
その野望を成す為にはまず。
「船乗りを勧誘しにいかないとな」




