第四十五話「あなたはだーれ?」
「ラビーっ! 逃げろぉっ!!」
声がする。
「か、甲板長!?」
あれ?
そうか、これは夢だ。
周りは薄暗い船内、貨物室の様に見える。
そこには確かに甲板長と私が居た。
そう、私が居た。
私は私を見ている、少し高い位置から。
薄暗い船内なのにはっきりと人が認識できる。
私は何も出来ないまま目の前で起こっている事を見守る。
貨物室の薄暗い部屋に数人の男達がなだれ込んでくる。
「こんなところに居たか!! こっちに来い!!」
男の一人は、その太く大きな腕で入口近くに立っている甲板長の腕を掴んだ。
「な! 何をする貴様!! 離せ!!」
甲板長は海の女だ。
しかし男たちの筋力には敵わない、抵抗むなしく引きずられてしまう。
「貴様もだ!」
「きゃあっ!!?」
男が私の腕を掴んだ時だった。
どぉおおん!!
船体が大きく揺れた。
船底が何か大きなモノにぶつかったのだろうか。
すると貨物室の壁に大きな穴が空き大量の海水が流れ込んできた。
「っく! 生きろよ!」
衝撃で拘束を解かれた甲板長が私の腕を掴む男に体当たりする。
「うぉ!?」
男はよろけていたところにその一撃を受け、たやすく私の腕を離した。
「かんぱ……!」
私は次々と崩壊する貨物室の穴から海底に放り出された……。
「……っ……!!」
声が聞こえる?
「……だ……ど……る……だ?」
聞き覚えの無い声だ。
コレは夢では無いような気がする。
私が初めに感じたのは寒さだった。
海に放り込まれたためだろうか、体温が下がっているのだろう。
私は恐る恐る目を開けてみる。
そこで私の目に飛び込んで来たのは眩しい光だった。
「……?」
その光景に私の全感覚が圧倒的な違和感を表す。
風の感覚、そして臭い、それらは間違いなく船内、もしくは屋内だと告げている。
「ん? なんや起きたみたいやで?」
私の耳に飛び込んで来た美しい女性の声。
その声に私はゆっくりと目を開けた。
「…………っ!??」
そこで私は絶句する事になる。
「なんだ? どうしたのだ?」
まずは小さな少女、ドレスを来たお嬢様の様なその少女は間違いなく魔族だ。
「まぁ、寝起きに魔族なんぞみたら、そらぁこないなるわなぁ」
もうひとりは獣人族の女性、明らかに友好的ではない感じだ。
「だから俺ひとりで見てるって言ったのに」
そして、一番問題なのがこの黒髪の少女だった。
幼い子供だって知っている、黒髪が嫌われる理由。
「ま、ま、魔王っ!!?……っきゅう〜」
そして私は意識を手放してしまった。
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「ふーむ」
ミーシャは気を失ってしまった目の前の女性に困り果てていた。
先ほどまで波間を漂っていた女性、明らかに遭難者である彼女を助けた事に後悔は無い。
しかし、ここは魔族のたまり場の様なところである、常人を連れ込んで良いものか。
なにより、この女性、白い長い髪の毛に頭の上から生えた長い耳。
どう見ても兎系の獣人族である。
「なぁ、なんでこの人お前をみて驚いてたんだ?」
ミーシャはヴィーナに話しかける。
最初に目を覚ましたとき、女性は確かにヴィーナにも驚いていた。
「ワケありやろ? 部族を捨てたか、それとも人に言えへんような事しとったか……な?」
「とりあえずは、回復を待つしか御座いませんな」




