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第三十一話「女子力」

 チハタン食堂の一階。


「ガツガツガツガツ、ハムハム、んぐんぐ!!」


 必死にお粥を掻き込む美女がいた。

 青い髪の20代中盤位の女性、かなりの美人さんなのだが、残念な事にこの食べっぷりを見た男性はドン引きするだろう。


 事の発端は数十分前。


 ミーシャがニャルに引きずられていくと食堂の前にブッ倒れる女性が一人。

 息を切らし汗だくになったニャルを見るにどうやらここまで引きずってきたらしい。

 詳しい事はよくわからないがニャルの慌てようからただ事ではないと思う。

 なによりニャルの目が「これって私のせい!?」と物語っている。

 視線は泳ぎオロオロとしているニャルをとりあえず椅子に座らせ、落ち着かせてから女性の状態を確認する。


ぐぅ〜っ!


「おk、理解」


 容態:疲労と空腹 QED


 という事で消化に優しい物を急いで作り準備してやると・・・・・・。


「食べ物っ!!!!」


 と叫びながら飛び起きた女性はお粥を掻き込みだす。


 これがここまでの流れだ。


「んぐんぐ・・・・・プファーッ!!」


 どうやら食べ終わった見たいなので話を聞こうか。


「・・・・・・それで一体何があったのか教えてもらいましょうか?」


「おお、そうだね。実は街中でその子とぶつかっちゃってね、それ以前に空腹と疲労でまいってた私はその場で倒れちゃったんだよ。いやぁ助かったよ、ありがとう」


「どういたしまして」


「ところで・・・・・・ラダッドって名前・・・・・心当たり無いかな?」


 ん?


「ラダッドなら俺の両親だけど?」


「なるほど、貴方がミーシャね」


 なんだこの人藪から棒に。

 俺は警戒しながら言葉を続ける。


「ラダッド家に何か御用で?」


「いやいや、そんなに警戒しなくてもいいわよ。先生と姉さんに聞いてた通りの子だわ」


 いきなりの展開に状況の整理が出来ないが・・・・・・。


「えーっと・・・・・・、お名前を聞いても?」


「あぁ、私はニッキー、ニッキー・ノーズ。よろしくね」


「ニッキー・ノーズって・・・・・・。魔法を教えてくれる先生じゃないか!?」


「そのとおり! 美味しいご飯も食べられたし、あなたにも会えたし、今日はツイてるわね。しかも数日ぶりのご飯がお米だなんてもう最高よ!!」


 お腹がふくれたせいか元気いっぱいの女性にすこし気後れしながらも会話を続行する。


「先生はわかるんですが、姉さんって?」


 村の知り合いに『ノーズ』なんて人は居なかったはずである。


「んふふ〜、当ててご覧なさいな〜」


 そう言うと彼女の雰囲気は一変し、間延びした声とのほほんとした雰囲気に包まれる。

 この感覚・・・・・・。


「えーと、もしかしてミランダさんの?」


 そう、孤児院の管理人のミランダさんにそっくりなのだ、顔つきもよく似ているし、髪の色も若干違えどウェーブの掛かった髪なども似ている。


「そのとおり〜、姉さんとは長いこと会ってないのだけれどね〜。手紙はお互いよく出し合っているのよ〜」


 彼女はミランダさんの様な間延びした声で続ける。


「まぁ、姉さんは教会に入るために村を出て行って苗字を変えてしまったし、私は学校に行くし、よく似ていると言っても気づく人は余り居ないのだけれど」


「アーコードの出身ではないので?」


「まさか、私たちは南部の出よ。だからお米なんて数年ぶりに食べたわ〜」


 そう言って顔をほころばせるニッキーさん。


「南部の・・・・・」


「そう、フェルナンデス族って言う部族なんだけどね」


 南部は南部でも南米の出身ではなかろうかと思う。


「いやほんとにうれしいわ、Graciasありがとう


「ほんとに南米の出じゃねーの!!?」


「ん? 南部の出身だけど、南米なんてのは知らないわ?」


「いや、どう聞いてもスペイン語です、本当に・・・・・・」


「あぁ、思わず方言がでてしまったわ。スパニー語って言うの」


 思わず南米か欧州南西から国家ごと飛ばされたのではないかと疑ってしまう。


「と言う訳で、わたしもここに住まわせてもらうわね。大丈夫よ、家賃と給金の分、家庭教師と従業員、しっかり働かせてもらうから」


 本当に突然言い出す人だ。

 しかし、店の経営がある程度軌道に乗ったらゴットンに丸投げをしようとしていたミーシャには、修行をしつつ店の様子も見れる好条件だった。


「分かりました、では賃金や就業規則などは後ほど・・・・・・それから修行のお話も「ちょっと待った」・・・・・・え?」


 ニッキーはミーシャを遮って話し出す。


「修行の前に最優先でするべき事があるわ。あなたに足りないものはなんだと思う?」


 会って間もないのにもうこちらの欠点を見抜いたのかと関心半分困惑半分のミーシャである。


「・・・・・・知識でしょうか?」


「そうねぇ、それもそうだけど。あなたに足りないものは・・・・・・」


「・・・・・・」


 師匠の言葉を聞き逃すまいと集中するミーシャに告げられたのは次の言葉だった。


「そう、女子力が足りないっ!!!」


「・・・・・・は?」


 いきなり何を言い出すのだろうか。

 確かに生前男性だったせいも有り、あっちの世界の祖父から男、いや、おとことしてのこころを叩き込まれている俺にとっては、七年間女性だった程度で心までそう簡単に女にはなれない。


 思わぬ一言に硬直するミーシャを横目にニッキーは話し続ける。


「言葉遣いダメ、態度ダメ、センスダメ、行動内容ダメ、おまけに人生設計までダメダメね」


 あまりのダメ出しに涙目になりそうである。


「男の娘っぽいのも悪くはないけれど、この先の人生をちゃんと考えるなら女の子の嗜みくらいちゃんと覚えなさい。ニャルちゃん的にも考えてお姉さんっぽい感じの方がいいのよ、そうその方が心にくるものがあるわ!」


 最初の方はソレっぽい事をのたまっていたニッキーであったが後半は息遣いが荒くなり顔を赤い気がする。


「とりあえず、今日は二人と一緒にお風呂に入るわ!!!」


「てめーもロリコンかぁああああ!!!!」


 この日、この時を持って『女子力アップ修行』と言う名の地獄がミーシャは味わう事になる。

魔王関係と俺TUEE関係のイベントはもう少し後になりそうです。

皆様、もうしばらくお待ちください。


13.05.14 一部修正しました、ご指摘ありがとうございます。

13.10.17 誤字修正しました。ご指摘ありがとうございます。

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