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第二十六話「デジャヴ」

 ミーシャ一行は翌日アドバーグを出発し、既に目的地である『アーコード』まで残りわずかの距離に来ていた。

 本来ならギルドに報告した時点でアドバーグ支部の支部長がすっ飛んできて事情聴取が行われるハズだったのだが。

 ミーシャ達が狼狽える受付嬢を上手い事誘導、さっさと手続きを完了し報酬はギルドカードのATM機能に貯金、その日一日宿に篭もり翌日そそくさと出発、ドラゴン討伐のお祭り騒ぎの中誰にも気づかれずにアドバーグから旅立ったのだった。

 と言う訳でギルドはいきなり現れてドラゴンを討伐した期待の新人を血眼で探している。

 しかし、登録名が偽名かもしれない上に素顔も不明。

 『筋肉隆々の大男とダークエルフの幼女を連れた笠を被ったチビ』という怪しいを絵に書いたような格好なのにアーコードに到達するまでギルドに捕捉されていないという幸か不幸か女神(アル中)の気まぐれなのか、よくわからない状況に陥っている。


 ちなみにドラゴンの討伐報酬である大金貨10枚(=日本円にして1億円)と言う大金を所持しているので、道中ではギルドカード決済(クレジット機能)やアドバーグで引き出しておいた所持金などで旅をしている、もちろん金目の獲物は進んで討伐して剥ぎ取りを行っている。


 しかし、グリーンドラゴンだと思っていたオロチがまさか本物の『ヤマタノオロチ』だったので、定期的に入手できる『大蛇の涙』がおいそれと売りに出せなくなってしまった。

 一応は魔力の結晶であるが、もし一般流通させてしまって何かあっては遅いのだ。


 そしてもう一つの問題が『時空魔法』である。

 学のあまり無いゴットンや、一般知識に若干疎いニャルには『そんな魔法もあるんだ〜』程度の認識ではあるが、一般的には『有り得ない魔法』なのである。

 時間停止魔法や空間制御魔法の使用は気を付けなければならない。


「はぁ・・・・・・、めんどくせぇ・・・・・・」


 ギルドが自分たちを追いかけている事は知らないが、能力的に問題が山積みである。

 ミーシャはそんな現状に重いため息をついて来た。


「どうしたんすか?だん・・・・・・、お嬢?」


 ゴットンがミーシャの様子に気づいて声を掛けてくる。


 彼はあの温泉事件の時にミーシャが怒りの鉄拳をぶち込んだ為、一時的に記憶の欠如が見られた。

 ミーシャは馬小屋で目を覚まし宿に戻って来た彼に自分が女であることを正直に打ち明けていたのだ。

 そのほか髪の色や目の色については詳しくは教えていない。

 実際に黒っぽい髪の色や黒っぽい瞳の色の人間は多数存在する、しかし日本人特有の漆黒の様な黒で、しかも髪と瞳の色がセットであるのは例の『クロ』として非常に風当たりが強い。

 しかし、バッチリと現場を目撃していて一緒に入浴までしてしまったニャルについてはあれ以来かなりビクついていて今までの様な意志の疎通は出来ていなかった。


「・・・・・・なんでも無い・・・・・・」


 やることは腐る程あるのだ。

 少し気落ちした様子でゴットンに返事をするが、そこでミーシャはしまったと自分の頭を叩きたくなった。


「・・・・・・・・・・・・・・」


 横にはうつむいて肩を震わせるダークエルフが居た。

 彼女はドラゴン討伐戦でミーシャがクレイジードラゴンを蹴り殺すのも見ているし、黒色火薬でバラバラに吹き飛ばすのも見ている、しかも一般的に『クロ』と呼ばれる存在である事も知っている。


「・・・・・・ニャル? 大丈夫か?」


 極めて優しく声をかけて見るが、声をかけられた方はびくりと肩を震わせ汗を大量に流しながら涙目でこちらを見ている、明らかに目は泳いでいた。


(・・・・・・こりゃあ時間が掛かるなぁ・・・・・・)


 明らかに警戒されていた。

 例のアル中(女神)に出会ってから低下していたミーシャの機嫌のせいも有り、ニャルは目の前の主のご機嫌を取るために必死だった、目の前に居るのが『人の姿をした異形』にしか見えないのだろう。


(いろいろと考えて行動しないとな)


 今更自分が規格外である事を再確認したミーシャである。


 そこで『ご褒美』と言うか『労働賃金』をお供の二人に与えようと思う。

 そこそこ長い旅でもあったし資金もある、目的地も目の前なので息抜きにはちょうどいいだろう。

 もとより目的不明でついて来たゴットンと成り行きで雇った(というか奴隷なので『所持』と言うのがこの世界では正しいのだが)ニャルはこの後どう扱えばいいのか激しく悩む所でもある。


 アーコードに到達すればガーデルマンから紹介された師匠に弟子入りし、魔法知識を蓄えなければならない。

 魔法を理解・制御する事で絶望的な魔法適正値を底上げするのが目的だ、もちろん魔力爆発を防ぐ事にもなる。

 その期間は学校入学までの3年間。

 その間、いや、入学した後も含め、この二人をどう扱うべきか・・・・・・いっその事アーコードに店でも構えて何らかの仕事を任せるのも有かもしれない。


「ゴットン、ニャル。目的地についたら休暇を取ろうと思うからこれで遊んでくるといい」


 そう言って俺は金貨を一枚ずつ渡す。


「お、お嬢!? いいんですかい!? 100万Eも!」


 ゴットンが若干裏返った声で問い掛けてきた。


 ちなみに彼の言う『Eイー』は『円』と同じ。

 銅貨一枚=100E=100円である。

 もちろん銅貨以下の金額の商品もある、銅貨以下の貨幣は玉銭と呼ばれるパチンコ玉の様な銅の塊(表面にEと掘ってある)になる、これが一つ1Eである。

 

 ちなみに硬貨は別であるが、玉銭は一つの重さが決まっており1E=1グラムと言ったように重さで金額を計算する場合が主である。

 しかし、精製技術の未熟な世界なので玉銭一つの大きさはまちまちで重さだけは均等に揃えられている。


 そんな思考を中断させてニャルの様子を伺ってみると、渡された金貨を両手に持ちそれを凝視したまま動かない。


「・・・・・・ニャル?」


 ニャルの肩を少し叩いてみるが反応は無い。

 今度は少し強めに揺すってみるがこちらも反応が無い。


「お嬢・・・・・・それ、気を失ってますぜ」


「あ、あぁ」


 そのダークエルフは見事に気を失って昇天していた。

 後ろから声を掛けてくるゴットンも体も声も震えているし禿げ上がった頭部からは汗が湧き出している。


 金を持って逃げ出すもそれはそれで良し、何か一山当てようと工面するも良し、この休暇で彼らの様子を見てみようと思うミーシャだった。


「・・・・・・ん?」


 そんな事を考えているミーシャの所に何かが焦げるような臭いが漂ってくる。


「お嬢・・・・・・」


 ゴットンもそれに気づいたのか彼の獲物である斧に手をかけアーコードへと続く道の先を睨みつけている。


「ゴットン、お前は気絶してるニャルを抱えて来い・・・・・・俺が先行して様子を見る」


 そう言ってミーシャが前進したのと進行方向から少女の悲鳴が聞こえたのはほぼ同時だった。

13.10.17 一部修正しました。ご指摘ありがとうございます。

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