第二十五話「女神さま何様?」
やぁ、諸君。
私だ、ミーシャだ。
さて、今私は真っ白い空間に立ち尽くしている。
え? いきなり過ぎて状況が把握できないって?
奇遇だな、私もだ。
とりあえず、ここまでのあらすじ・・・・・・もとい経緯を説明しよう。
〜あらすじ〜
現代日本でしがないサラリーマンとして働いていた俺は駅のホームで酔っぱらいのおっさんに突き落とされて・・・・・・
ん? くだらない尺稼ぎはやめろ?
ふむ、これは失礼。
正しくは。
アドバーグの街の周辺に住み着いたクレイジードラゴンをなんやかんやで討伐した俺たちはとりあえず目の前の温泉に入浴することにする。
そこで褐色のロr・・・・・・もとい幼女と入浴した俺(俺は七歳で性別は女なので何も問題は無い)はそこに乱入してきたロリコン・・・・・・もとい筋肉ムキムキマッチョマンのロリコンであるゴットンを蹴り倒し、戦利品と変態を引きずりながら街まで帰った。
街のギルドで唖然とする受付嬢を尻目にさっさと手続きを終わらせた私たちは変態を馬小屋に放り込み、俺たちは宿屋で休憩していた。
・・・・・・で、目を覚ましたらこの空間に居た。
何が起こったのか自分でもわからない。
魔法とか超能力とか、そんなちゃちなもんじゃ断じてねぇ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ・・・・・・。
っと、まぁ悪ふざけはこの辺にして。
ここはどこなのだろう?
見渡す限り真っ白な空間だ。
まるで果なぞ無い様に思える。
とりあえず二度寝でもしてみるか?
(起きなさいミーシャ)
・・・・・・なんだろう?
誰かに呼ばれた様な気がする。
残念だが私は二度寝をする所なんだ。
(起きなさいミーシャ)
うるさいな・・・・・・。
第一に俺は命令されるのが嫌いなのだ。
(あの、ごめんなさい、起きてください)
・・・・・・・・。
(・・・ぐすッ)
わかった、わかった。
起きる、起きるから泣くのはやめて欲しい。
俺はあからさまに不機嫌な顔を作り辺りを見回した。
するとそこには薄い布を体に巻いた美人が一人、ふわふわと浮いているではないか。
・・・・・・ただ半泣きではあるが。
(はじめましてですねミーシャ。私はこの世界の管理を任されている女神です)
美声が頭の中から聞こえてくる、念話というやつだろう。
「女神? それって転生する前の段階とかで出てくるのが普通なんじゃねーの?」
そう問いかけると女性は途端にシュンとしてうつむいてしまった。
(そうです。本来ならば貴方があちらの世界で亡くなった時点でこの場に呼び込みお話をするつもりでした)
俺も前世では転生やトリップの小説などは読んでいたのである程度把握はできるが。
女神が出てくるといえばほとんどの場合、何らかのミスで誤って死なせてしまったり、もしくは世界を救うために呼び出されたりである。
出来ることなら後者であって欲しいが死んで転生しているので前者の可能性は大だ。
(その通りです、貴方は本来あそこで死ぬべき人ではありませんでした。あそこで酔った男性が死ぬはずだったのです。しかし、書類整理中に誤って事故死の手続きをしてしまいまして。本来なら貴方は別の場所にいて別の世界に召喚され魔王と戦うはずだったのです)
「・・・・・・ん? いや、ちょっと待て、どっちにしろ異世界には行く予定だったの?」
(そうです。貴方が死んでしまったのでその調整で手間取ってしまい、事情の説明が遅れてしまいましたが。本来召喚されるはずの異世界へは別の者を送ってあります。そして本来この世界に来るはずだった者の代わりに貴方を転生させたのです)
まぁ、調整は済ませたと言うことらしい。
(しかし、本来こちらに送られるはずだった者と貴方とでは思想や能力が決定的に違います。そこで貴方には我々から能力を授けてあります)
「能力と言うと、圧倒的な魔力容量と時空魔法の事か?」
(いえ、違います。もともとあちらの世界では魔力を消費する事が出来ないので一方的に溜まってしまうのです。そして魔力は魂に蓄積されます。今回ごたごたで魂の浄化をせずに転生させてしまったので前世の記憶と知識、魔力が魂に刻み込まれているのです。今回授けた力は『幻想を具現、使役、行使する能力』です)
「あれ? 時空魔法は?」
(それは能力による物です、本来なら御伽話の中にのみ存在するべき魔法ですから)
「え〜と、つまり時空魔法という幻想を力として使っていると?」
(その通りです。授けた能力は貴方かこの世界の人々が幻想や空想と思っている物ならなんでも具現化します。例えば貴方は黒色火薬を生成しましたね?)
「確かにクレイジードラゴン戦に調合したが・・・・・・?」
(本来なら作り方を習った程度の素人がおいそれと作ろうとするとそれなりの危険が伴う物です、本来なら調合中に爆死もありえましたが能力のおかげで調合に補助が付き無事に完成させる事が出来たのです)
・・・・・・やべぇ、俺死ぬとこだったのか。
今度からは気を付けよう。
「でも、具体的にはどんな事ができる能力なんだ?」
(例えばこの世界に存在しないモンスター・・・・・・貴方にとって馴染みの深い幻想である『妖怪』と呼ばれるあちらの世界のモンスターなども召喚することができるでしょう、既に貴方は何体か召喚に成功していますし)
?
俺にそんな記憶はないが?
(最初に召喚したのは一匹の蛇、そしてその次に召喚したのは二羽の鳥でした)
「え? 最初に召喚って?」
(貴方がグリーンスネークと思っているあの蛇の事です)
「あぁ、オロチの事か? でもグリーンスネークじゃなかったら・・・・・・」
(そうです、正真正銘の『ヤマタノオロチ』です、次に召喚したのも間違いなく『シャンタク鳥』と『八咫烏』です。八咫烏は天照様が肝心な時に居ないと困ってましたよ?)
「あぁ、なんかすんませんした・・・・・・と言う事はもしかしてニャルは!?」
(いえ、彼女は正真正銘本物のダークエルフです。ニャルラトホテプとは無関係です)
それを聞いただけでほっとする、もしあれが『這いよる混沌』『無貌の神』などと呼ばれてる物だったら俺は狂気と混沌に飲まれてしまう。
「でも他の魔法が全然使えないのは一体?」
(それはもともと貴方に素質が全くないからです)
ぐふっ!
ちょっと精神的にダメージが・・・・・・。
「だ、だいたい誰なんすか? その書類間違えたやつ?」
そう問いかけると女神はあからさまに視線をそらした、口笛のおまけ付きである。
「おい、こっち見ろ」
(わ、私だって徹夜明けで意識が朦朧としていたんです! 女神だってミスの一つや二つあります!!)
「いや、あんた女神だろ!」
(大体、残業代も出ないで来る日も来る日も働きっぱなしですよ!? そりゃあ土地神の方とかなら管理が忙しいでしょうけど!? なんでうちの部署はあんなに忙しいんですか!? だいたい部下の天使が・・・・・・)
なにか別のスイッチが入ってしまったようで、自称女神さま(公務員)はやれ部下の天使がどうのだの上司の神からセクハラがどうのだの次から次へと愚痴が出てくる。
俺はただその愚痴に呆然と立ち尽くすしかなかった。
(おっと、思ったより長居しすぎてしまいました。これから高天原で飲み会があるので私は失礼します)
「お、おい! ちょっと待て! つーかまるっきりOLだよね!?」
(今日の飲み会の会計は天照様持ちなんです!)
「ひとの国の太陽神にタカってんじゃねーよ!!!?」
(なんか今日はイエス様のお父様もいらっしゃるらしいですよ?)
「ちょっと高天原オープンすぎない!?」
(最近息子さんが地上で暮らしてるらしくて心配してらっしゃるみたいですし)
「それ明らかにブッダと二人暮らししてるよね!?」
(来週はトール様持ちで飲み会ありますし、では!)
「仕事しろやアル中駄女神がああああ!!!!!!」
俺の叫びは無限の空間に虚しく響き、俺の意識は薄れていった。




