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第二十三話「刹那に見るは過去の夢」


 俺の前には男の子が居た。

 歳は小学校低学年かそこそこの男の子。

 俺はこの子を見たことがある。

 ・・・・・・そうだ、前世の『俺』だ。


(これは夢か?)


 突然の事に少し戸惑っているが、さっきまでクレイジードラゴンの討伐をしていたはずだ。

 これは間違いなく夢だろう。


 ぼんやりとしていた周りの景色がはっきりと見えるようになってくる。

 どうやらここは山の中の様だ。


(じいちゃん家の裏山か?)


 夢見心地で(というかまんま夢の中なのだが)そんな事を考えていると。


「なぁにをボサっとしとるんじゃあああぁぁぁぁ!!!!」


 とてつもない大声が響いてきた。

 重低音ではあるがしっかりと広範囲に響き渡るその声に過去の経験か体がすくみ上がる。


 俺がビクッ! となるのとほぼ同時に男の子も飛び跳ねて驚いた。


(あぁ、間違いなくあれは俺だ。という事はこの声は・・・・・・)


 そう思い近くの木の陰を見るとそこから一人の大男が飛び出してきた。まぁ、男と言うか老人なのだが。

 老人は手に持つ木刀で男の子に襲いかかる。

 少年はなすすべ無く吹き飛ばされていた。


「いついかなる時も油断するべからずと教えたじゃろうが!」


 さっきから大声を張り上げるこの老人。

 見た目はファンタジーで出てくるドワーフ(チビでヒゲもじゃで筋肉ダルマなアレ)に2メートル超の身長を与え、まさに鬼かオーガの様な体格と威圧感に包まれたこの老人。

 

 そう、俺のじいちゃん、名を大和川 頑徹と言う。


 大戦中には停泊中の米軍艦艇に泳いで近づき航行不能にしたり。

 塹壕に一人残り一個師団相手に一進一退の攻防を繰り広げたり。

 ジャングルの奥地で竹槍と一本のナイフで戦い抜いたり。

 時速20〜30キロで突進してくる重量30トンのM4中戦車シャーマンを腕で押しとどめたり。

 太平洋で潜行中の潜水艦に泳いで忍び寄り制圧したり。

 800Kg爆弾を背負って野戦陣地を強襲したり。

 酸素魚雷にしがみついて軍艦に接近、乗り込んで白兵戦を展開したり。

 軍の高級将校に『大和川を相手にするのであれば戦術兵器の使用もやむなし』と言わしめた人物である。


 なんでこの人いて負けたのか不思議で仕方ないが。


 ちなみに終戦後サイパン周辺の『海底』に潜んでいたらしい。


 そんな化物が俺のじいちゃんである。


「良いかぁ、我がご先祖様はなぁ、異国の地で巨大な邪竜と激戦を繰り広げ・・・・・・」


 いつものじいちゃんのご先祖自慢が始まる。

 いや、ご先祖様もだけどあんたも大概だ。


(竜っつーか、クレイジードラゴンとなら将来戦うんだけどねぇ)


 もしかしたらご先祖様もあの世界に行ったのかもしれない。

 後世に伝わっているという事はご先祖様は無事に帰ったのだろうか。


 そんな事をなんと無しに考えていると。


「話しを聞かんかバカモンがああああぁぁぁぁ!!!!」


 そういえば当時適当に聞き流してたっけと思いながら視線を戻すと。

 

 少年の背中がこちらへ吹き飛んで来ていた。

 そして追撃にこちらに突っ込んで来るじいちゃんと。


「ええええええぇぇぇぇぇ!!!?」


 そこで俺の意識は途切れてしまった。



------------------------------------------



「・・・・・・・・・・! ・・・・・・・・んな!!」


 誰かが声を掛けてくる。


「旦那!!!」


「じいちゃんごめん!!!! ・・・・・・・ん?」


 俺はとっさに飛び起きていた。

 そこには心配そうに見つめてくるゴットンの顔があった。


「旦那? だ、大丈夫ですかい?」


「お、おう、だ、大丈夫だ、大丈夫」


 そう言いつつ俺はヨロヨロと立ち上がる。


(やっぱり夢だったか)


 だんだんと意識が覚醒していくと。


「・・・・・・うわ! くっさ! なにこれ血なまぐさっつーかくっさ!!!」


 嗅覚が正常化した瞬間に強烈に襲い来る血の臭いと臓物の臭い、それから焼け焦げる肉の臭い。

 強烈に臭い、正常化した嗅覚が一瞬で麻痺してしまう。


 俺はとりあえず自身の体に異常がないか確認する。

 よし、五体満足で大きな怪我はない、擦り傷くらいはあるが。


「ゴットン、ニャル、大丈夫か?」


「俺は大丈夫ですが、ニャルが・・・・・・・」


 ゴットンが気まずそうにそう言ってくる。

 まさか・・・・・・。


「どうした!?・・・・・・・・あぁ」


 急いでニャルの安否を確認するが。


「・・・・・・・・(((ブルブルブル)))」


 そこには両手で耳を塞ぎ、体育座りでうつむいて、褐色の肌を白くして震えているニャルが居た。


「あー、その、なんつーか・・・・・・ゴメン」


 まあ、あんな大爆発を引き起こしたらそりゃあこうなるわな。

 まさにSAN値が直葬状態である。


「とりあえず、ゴットン、討伐証明部位をとって帰ろう。向こうのは大丈夫だろう」


 今はとりあえず街に帰る事とにしよう。

 ちなみにクレイジードラゴンの討伐証明部位は牙である。


「旦那、こっちのやつも大丈夫ですぜ」


 ゴットンが指差す方を見ると衝撃でちぎれ飛んだであろう頭部が岩に叩きつけられていた。


「素材は一体だけか・・・・・・」


 少し惜しい気がしたが、やっちまったのは仕方ないとしてとっとと帰ろう。


 俺とゴットンはいそいそと素材収集を始めるのであった。

ご覧いただきありがとうございます。

今回少し短くなってしまいました。

早く学園編に入りたい・・・・・。


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