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第二十話「ギルドにて」


「まいったな・・・・・・」


 実家を飛び出してから1週間。

 俺は頭を抱えたい衝動をこらえて道をゆく。


 悩みの種は3つ


 俺の隣を歩くゴットンの暑苦しさ


 出会った時以来、一切の感情を表さない常にジト目のニャル


 そして三人を養うだけの旅費が既に無い事


 護衛の青年カッシュを適当な町に置いてきて、相変わらず暑苦しいゴットンを連れ、首の傷のせいで一切声を出せないニャルの鍛錬をしながら既に目的地まではあと1週間だ。

 ゴットンは盗賊の頭だった訳だが、所詮貴族のおぼっちゃまの私兵扱いでありゴットン自体が何か盗賊として名を売っていたわけではないので旅に問題はなかったのだが・・・。

 ここに来て資金が底をついてしまった。実家を飛び出して来た手前、援助を受けるあてもない。

 最悪、オロチが作る大蛇の涙を売れば旅費など一瞬で作ることが出来るが目立ちすぎる。

 この国に普通はいないグリーンスネークの秘宝、しかもそれを売っているのが筋肉隆々のオッサンとダークエルフを連れたチビとか怪しさ満点だ。

 よからぬ輩に襲われるリスクを作る様な事はしたくない。


「やっぱり『ギルド』・・・かぁ・・・」


 そう、お馴染みのギルドである。

 この世界にもギルドは存在する。

 『冒険者ギルド』は国中に存在し大小の支部をあちこちに抱えている、今までの町ではギルド登録すら出来ない末端派出所程度しかなくこれから向かう『アドバーグ』には支部が構えられているはずだ。


「なぁゴットン、これから向かう『アドバーグ』には何があるんだっけか?」


 これから行く場所の情報は少しでも欲しい、その手の情報はゴットンが得意だろう。


「ん? アドバーグ・・・アドバーグ・・・特に特産がある訳でもねぇ街だなぁ・・・中継地点としてはそこそこの規模で栄えてるようだが。ああ、そういえば少し離れた場所から水じゃなくて湯が沸いてるのを見つけたらしいな、結構な量が沸いてるとかで・・・」


 その一言を聞いた瞬間俺は思考が停止した。


「・・・・・・・」(プルプル)


「「?」」


 うつむいて震えているミーシャをゴットンとニャルは心配そうに見つめている。(ニャルに表情は無いが)


「お・ん・せ・ん・・・っキッターーーー!!!」


 いきなり空を仰ぎ見て叫びだしたミーシャにゴットンは引いているし、ニャルは目を見開いて飛び上がった。


「だ、旦那?落ち着いて・・・」


「お、おぉ、そうだな、すまん」


元日本人として温泉という言葉には過剰反応してしまうわけですよ。


「あぁ、それと湯が沸いてる近くにやけに臭い黄色い石がある場所があるとかで・・・旦那?」


 俺は膝を地面に付いて両手でガッツポーズをしていた。所謂「プ○トーンのポーズ」である。

 神よ私はあなたを愛しています、I LOVE YOU

 まさか欲しいモノがこんなに手に入るなんて。


「オラァ! ボケっとしてんじゃねーぞ!? さっさと付いてこいやぁ!!」


 俺はスキップをしたくなるのをこらえ先を急いだ。



―――――



「・・・なに・・・これ?」


 俺はそこで我が目を疑った。


「過疎ってるってレベルじゃねーぞ・・・」


 今の時間は昼過ぎ、本来なら人がいるはずの通りである。

 それが・・・・・・。


「人っ子一人いないんですけど?」


 まさにダンブルウィード(西部劇とかで転がってるアレ)がカサカサと転がるレベルで人がいない。


「旦那、何かあったのかもしれねぇ。先にギルドで情報を集めた方がいいですぜ」


「そう、だな・・・。これじゃ風呂どころの問題じゃない」


 こうして三人はギルド支部へ向かうのだった。



―――――



 アドバーグ冒険者ギルド支部。

 木造の大きめの建築物で街中にいてもそこそこ目立つ大きさだ。

 正面入口の上にはギルドのイメージである2本の大剣を交差した文様が描かれている。

 

 ギルドに入ると左手に依頼を張り出す掲示板が、右手の広いスペースにはいくつかのテーブルが置かれ冒険者パーティの雑談などに使われるのだろう。

 正面には窓口が並ぶ、俺は適当な窓口に向かい職員に声をかけた。


「あー、ギルド登録をしたいんだが・・・」


「へ?・・・・・あ、あぁ! 登録ですね!?」


 職員の女性(20代中盤と言ったところか?)はやけにキョドっている。


「なぁ、姉ちゃん。随分と街にもギルドにも人がいないが・・・何かあったのか?」


 俺は質問をする。

 本来なら休憩所でもあるここのギルドだ、この時間帯ギルドにはかなりの人数の冒険者が居るはずなのだが・・・。

 今ギルドには人っ子一人居ない、街中と同じようなありさまである。


「えーと、街から少し離れたところに湯が湧いたのはご存知ですか?」


「あぁ、聞いた」


「実はそこにドラゴンが住み着いちゃいまして」


「ドラゴン?」


「ええ、『クレイジードラゴン』が『2頭』ほど・・・」


 受付嬢がそこまで言った時だ。


「旦那、今すぐここから離れましょう!」


 ゴットンがそう言って腕を掴んでくる。

 ニャルも反対側の腕を掴んで必死に引っ張っている。


「ちょっと待て! なんだその『クレイジードラゴン』って?」


「旦那、クレイジードラゴンってのは空こそ飛べやしませんがれっきとした中級ドラゴン、1体だけでも騎士団が動く程なのにそれが2体も住み着いたとあっちゃあ並みの冒険者じゃ太刀打ちできませんぜ」


「なんだお前、詳しいな」


 まぁ、要するに。

 

 『クレイジードラゴン(狂竜)』

 体長は10メートル前後。頭部に一対の角、発達して巨大化した四脚を持つ中級クラスのドラゴン。

 気性はかなり荒く縄張りを持たず不定期に移動を繰り返す。

 基本的に一体だけで活動し、自分以外の動物を餌か敵かのみの認識しかしない。

 またドラゴンではあるが翼は退化し飛行能力は無い。

 その気性ゆえか格上の上級ドラゴンにすら食らいつく凶暴性を持つ。


「そして、一番危険なのがヤツは魔力の無い火炎攻撃を仕掛けてくるんです!」


 そこで一つ引っかかる。


「魔力の無い?」


 別に魔力の無い攻撃があっても良いんじゃないだろうか?


「魔力の無い属性攻撃なんて普通ありえませんぜ?」


 ここで大事な事を思い出した。

 この世界では魔力があるのが当たり前。

 攻撃魔法はもちろんの事、調合も薬草をすりつぶしたりせずに魔法で調合するし、畑仕事に至っては神への供物を畑に混ぜる程の文化である。

 つまり、魔力の無い攻撃とは超常的な何か、という扱いになるのだろう。

 この世界には『魔法学』という言葉はあっても前世で言う『科学』は無い様だ。


「発動に生ずる魔力を感じる事も出来ないし、魔力を封じても意味がない」


 まぁ、それはそうだろう。

 おそらくクレイジードラゴンの攻撃は科学的な物だろうから。


「だから旦那、ここは別のやつに任せて」


「嫌だ」


「へぇ!?」


 ゴットンが素っ頓狂な声を上げる。


「俺が欲しい物を目の前にして指なんぞくわえてられるか! まぁ、見てな」


 俺はクレイジードラゴンを倒す為に行動を開始するのだった。

13.10.17 一部修正しました。

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