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第百二十一話「世界には似てる人が三人は居るって言うよね」


私はふとナターシャとの会話を思い出していた。


『そういえば、ナターシャ。私の髪と瞳の色は黒なんだけどさ、初めて会った時あんまし驚かなかったよな?』


『え? あぁ、私は黒髪の方に会ったことはありませんでしたが、まぁ、いらっしゃるんだろうなとは。ゴンじいも昔は黒髪だったらしいですし』


『へー、魔王伝承とかないんだ』


『東大陸の魔界でしたっけ? 西大陸(こちら)に魔界はありませんからね。ただ、髪の色に魔法の属性が表れる、なんて話もありますからあまりいい扱いではないと思いますよ』


なんて会話をしたっけ。

いつ頃したかはおぼえてないけど。

つーことはこのクリソツ少女は物珍しさか厄介払いか、はたまた犯罪でもしでかして売っぱらわれてんのかな?


私はクリソツ少女の頬を摘んだままで考え込んでいたが店の中からヒョロいおっさんが出てきた為に中断された。


「お客かぁ? ……っ!? て、テメェいつの間に外に……って、あれ? え? あれ?」


おっさんは檻の中のクリソツ少女と私を見てキョドっていた。

まぁ、生き別れの双子の片割れって言われても信じるレベルだけどさ。

残念なことに私は双子じゃないし、妹は居るみたいだけど今頃は西大陸(あっち)で王女やってるはずだからな。

間違いなくこの少女と血の繋がりはない。


「おっちゃん、この子さ、何をしでかしてこんなところで売られちゃってるわけ?」


「あ? あぁ、そいつはスリだったのさ。親もいねえ裏町の孤児だからよ、こうやって盗んだもんの代わりに売られてんだよ」


「へぇー」


「っと、どうせ買えねぇんだからとっとと帰った帰った! テメェなんかと喋ってたって小銅貨1枚にもなりゃしねぇ」


言うやおっさんは私を追っ払おうと迫ってきた。

そこで私はポケットからある物を取り出し手で弾く。


「まぁ、そう言うなって。お互いイイ取り引きできるかもしんないんだからさ? 一銭を笑う者は一銭に泣くって言うしな?」


「一銭って何だよ、ってうを!?」


思った通り、おっさんは私が弾いている物を見て

目を見開いた。

そう、私の手でさっきからピンピンと弾き上げられている物はコイン。

それも金貨である。

1枚10万円相当の金貨が無造作に跳ねあげられている。

私は反対の手で大きな財布(金入れる布袋)の紐を持って振り回した。

若干、昭和の成金的な感じだが、この手のおっさんには一番の特効薬だからな。

私はおっさんの懐に金貨をねじ込み。


「あー、喉乾いたなぁー、歩き疲れたなぁー」


「お嬢様、お茶とお茶菓子などいかがでしょう? こらそこの! こちらのお嬢様を応接室にご案内しろ! 一番良い茶葉とお茶菓子もお持ちしろ、お疲れのご様子だからな! 大至急だぞ!」


「いや、悪いね〜、あっはっはっはっ」


とかなんとか言いつつ私は丁稚っぽいヤツに案内され奴隷商の中に入って行ったのだった。

ほんと札束燃やす成金じみてるけどさ。




******


さっきのおっさんと私は応接室で向かい合っていた。

そこそこのソファーっぽい家具にそこそこの机、それなりに手入れされた部屋。

ぶっちゃけそこそこの部屋。

奴隷商の店なんて小汚いか豪華絢爛かだと思ってたよ。


私が部屋を見て地味だと思っているとおっさん、いや店主が声をかけてきた。


「してお嬢様、どのような奴隷をお求めでしょう? 当店は美男子揃いですのでお気に召されるかと」


「いや、別に男が欲しいわけじゃないし。つか女のがいいし」


「あ、そちらのご趣味でしたか。これは失礼を。ではエルフなどいかがでしょう? 滅多に流通しない希少な奴隷でございますよ?」


「いや、うちにもうダークエルフが居るしなぁ」


「なんとダークエルフ! さすがお嬢様。我が国、いやこの大陸の全ての国ではエルフ系は希少ですからなぁ、獣系はそこそこいるんですが。いやはやお目が高い」


まぁ、ニャルは東大陸だけどな。

しかも買ったわけじゃなくて持ち主がすでにくたばってたんだけどな。

もちろん、そんなことは言わない。


「とりあえず、私が聞きたいのはさっきの子なんだけど?」


「え?」


一瞬店主の顔が引きつったのを私は見逃さなかった。

え? あんなのが欲しいの? 的な。

もっといいのあるのに? 的な。

悪かったなあんなのとクリソツで。


「よ、よろしいので? もっとメリハリのある奴隷も居ますが?」


「誰の体が貧相だコラ」


「あ、いや、あはははは……」


店主は苦笑いすると気を取り直して話だす。


「では連れてまいりましょう、他にご要望は?」


「んや、特にない」


私は出されたお茶を飲みながら答えた。

うん、普通にうまいなお茶。


しばらく待つとさっきの少女が連れてこられた。

全裸(すっぽんぽん)で。

思わずお茶を吹いた。


「ブフーッ!?」


「うわぁ!? 汚……大丈夫ですか?」


おい、今汚いって言おうとしただろ!


「な、なんで、ゲホッ、裸、ゲホッ!」


「奴隷商では商品に傷がないか見ていただく為にこのようにさせていただいております」


見れば薄汚れていた少女は小綺麗にされていて、体は怪我ひとつない綺麗なものだ。


「よその店では奴隷相手に鞭や拳で躾をしたり傷もののままで売却するところが大半ですが、当商会では薬を使って小さな傷でしたら修復してお渡ししております」


少々値段は張りますがね、と店主。


「わかったわかった。じゃあ値段はいくらだい?」


「この娘でしたら金貨10枚でいかがでしょう?」


その言葉に私はピクリと震えた。


「金貨、10枚だぁ?」


私の言葉に店主は汗を滝の様に流す。


「し、失礼しました! た、確かに10枚ではいけませんね。金貨8枚では?」


「減っとるやないかーい!!」


「え?」


もう、私はブチギレっすよ、ええ。

生き写しのような少女が金貨10枚、日本円で100万円っすよ。

少女の一生が100万円っすよ?

もうね、バカかと、アホかと。

よく考えてみ?

100万て、少女買うのが車買うくらいのノリですよ。


「奴隷相場なんて知らないけどさ、生き写しみたいな少女がだよ? 金貨10枚って不憫で仕方ないわ。とりあえず最初の倍、金貨20枚出しとくから。服とか用意してちょうだい。出来れば私の着てるようなやつね」


「い、いや、買っていただけるのならいいのですが……」


机に金貨を20枚出して押し付けた私と、それを渋々受け取る店主。

私としては20枚でも少ないんだけど、あんまし払うと後々経理の人に怒られるし。

いや、個人の買い物だからいいのか?

いや、やっぱり怒られるな。


「あとは彼女にいろいろ聞かせてもらうわ」


「はい、どうぞどうぞ」


私は立ち上がり少女の前に立つ。

少女は怯えているのか震えている。


「文字は書ける?」


「……い、いえ、か、書けないでひゅ!」


「文字は読める?」


「読めないでしゅ!」


緊張しまくりでカミカミである。


「んじゃあ、こっち来て」


少女をソファーの前に誘導し、私は対面の店主の隣に腰を下ろす。


「まぁ、とりあえず座って」


「「え?」」


これには店主も少女もびっくりだ。

私はいいからいいからと座らせた。


「んじゃあ、面接始めまーす。とりあえず、名前と歳、言いたい事ががあったら一言」


「え!? えっと! ミーリャ、8歳です! えっと! ま、魔法は全く使えません」


「はい、ミーリャちゃんね。まさか名前まで似てるとか……魔力は……あぁ、ほとんどないな」


私は魔眼でミーリャの魔力を測った。

一般的体内魔力容量がペール缶(20ℓ)から多くてドラム缶(200ℓ)なのに対しミーリャの魔力容量はせいぜい栄養ドリンク瓶(150㎖)程度。

あくまで一般的な容量なので個人差があるが。

彼女の場合、属性云々以前に取り込む魔力も吐き出す魔力も足りていないと言える。

ちなみにこの例えでいうと私はマンモススーパータンカークラス(550,000t)である。


「じゃあ、次に持病やアレルギー、重い怪我なんかは?」


「あれるぎー?」


「特定の物を食べたり触ったり匂いを嗅いだりした時に、かぶれ、喘息、くしゃみ鼻水などの症状が出たことは?」


「えっと、無いです。大きな怪我もありません」


「ふむふむ……」


手元のメモ帳に次々と書き込む私。

身体良好と。


「じゃあ、視力検査ね。片目を隠して、指差した記号の途切れているところが上下左右どこか答えて」


私は立ち上がり視力検査の板を持って壁際に立つ。

店主がどっから出したって顔をしてたけど完全に無視。

視力検査自体は一番下まで見えたので視力はかなりいいようだ。

ミーリャは両眼とも健在だし、オッドアイでもないからな。


「次は身長体重スリーサイズ測るから壁際に来て」


次に巻尺と体重計を持ってミーリャを壁際へ。


「……身長、私といっしょ。体重、私といっしょ。ヒップ、私といっしょ。ウェスト、私といっしょ。バスト……バスト……」


バストを測る手が震える。

なぜここだけ……。


「私よりちょっとデカイんじゃあ!!」


「ふにゃあぁぁぁぁ!?」


思わず両手で鷲掴みしてしまった。

私が無ならミーリャは貧程度の差であるが、胸があるのだ、微妙に。

しかももちもちツヤツヤの餅っぱいというやつだ。

非常に健康的で将来有望な胸である。


「ハッ! 失礼、取り乱してしまった」


すぐに正気に戻って手を離したが。

若干、名残惜しいな。

いい胸であった。


「……ゴホンッ! ま、まぁ、いい。ミーリャは確かに買い取らせてもらう。あと他にも2人程欲しいんだけど? そっちは魔法が使えるか、腕っ節の強いやつね」


「え、えぇ。でしたらちょうどいい奴隷が居ますよ」


店主は次の奴隷とミーリャの服を持って来るように丁稚に言いつけた。

準備が整うまでミーリャと会話をしたが、感想としては内面的には正反対な少女だった。

気が弱く、内気で引っ込み思案、まるで小動物のようだと思う。

とりあえずミーリャには服が届くまで大きな布を纏ってもらい、ついでに予備の眼帯を渡しておく。


あと、ミーリャのおデコに絆創膏を貼っておいた。

私って海戦の時にデコに怪我をして若干跡が残ってるからその違いで見分けが付くのだ。

なお、デコの怪我は皮が薄くなっているのか戦闘などをするとしばしば開くため私も絆創膏を貼っておいた。

これで服を着れば見分けがつかないだろう。

まぁ、服を脱いだら私は身体中がキズだらけだからすぐわかるけどね。

小さな頃から悪ガキで、7つで魔王と呼ばれたからね。

生傷が絶えなかったもんさ。


「準備が整いました。こちらが商品になります」


思い出に浸っていると店主から声をかけられた。

次に二人の少女が部屋に入ってくる。

歳はどちらも十代中後半だが耳が長く尖っているのを見るとエルフなので実年齢はわからない。

片方は金髪ロングで色白、華奢な身体つき。

もう片方は紺色のショートカットに褐色肌、筋肉質でシックスパック。

もちろん二人とも裸だ。


「白い方がヒルフェ。黒い方がテュッケ。ごらんの通り、テュッケはダークエルフですが、ヒルフェはハイエルフです」


ハイエルフといえばエルフの上位種だっけ?

設定がいろいろあるからな、この世界でのハイエルフの立ち位置がわからん。

とりあえず金額を聞いておこう。


「とりあえず、おいくら金貨?」


「二人で金貨800枚ですね」


「ブフーッ!!」


私は本日二回目のお茶吹きを披露し店主の顔面をビチャビチャにするのだった。

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