第百十三話「あれは象ですか?」
<<前方! 目標地点!>>
先頭のBT-7からの無線に師団の歌声が止んだ。
「閣下、ポイント地点です」
「うむ」
師団の中心を走るオブイェークト279での会話。
部下の声に短く答えたのは、美しい女性だった。
キューポラから乗り出した彼女の灰色のウシャンカの耳当てと透き通るよう淡い金髪は風になびきパタパタと、そしてキラキラと輝いている。
服装はクリーム色のギムナスチョルカ野戦服、色白で、淡いブルーの瞳。
キューポラから乗り出しているので分かりにくいが身長もそこそこ高い。
余談だが、彼女の胸囲は初対面時にミーシャが『おっ◯いぷるんぷる〜ん!!』と叫んだ程だ。
「エカテリーナ師団長、南下すると暑くなります、ウシャンカを取られては?」
「Нет(ニェット)! これは、同志書記長から直々に頂いたものだ。書記長は私の北方訛りにいたく感動されたみたいでな。師団員に歌わせているのも書記長から教えて頂いたものだ」
「私はてっきり師団長の故郷の歌かと。ウチの師団は北部生まればかりですから、覚えやすいですし」
因みにここでエカテリーナがミーシャの事を書記長と呼ぶのは、ミーシャが国会(元老院)の政党、自由共生党党首(書記長)であるからだ。
自由共生党のモットーは『自分の自由を探求し、他人の自由を尊重し、共に人生を楽しむ』である。
「師団員に歌わせるのは私なりの忠誠の表し方でもあるのだ。我々は同志書記長の期待に応えねばならない。……同志諸君! Внимание(ヴニマーニイ)!」
少しの沈黙の後、エカテリーナがマイクに向かい注目と叫んだ。
『同志諸君。我々の任務は、目前の敵軍を殲滅し公国を攻め落とすことである。王国初期、彼らは我々の軍靴の音に怯えていた、今度はエンジンの唸りに戦慄するのだ。諸君らの技術と熱意を持ってすれば、必ずや天地は逆転し、数の劣勢は覆るだろう。我々の戦車は神速の進撃によって彼らの都に接近し、彼らの賛美歌が驚愕の色に染まるとき、我々はすでに優雅に凱旋しているのだ。そこには美酒に美食、美女達が君たちを待ちわびているだろう』
「「「「Урааааааааа!!!」」」」
この演説に多くの兵士が喜びの声を挙げた。
多くの男性兵は女性兵から白い目で見られていたが。
『諸君! 忠勇なる同志諸君! 祖国は我らが為に! 我らは祖国が為に! いざ自由と誇りを掲げ、戦車前進(Танки впть)!!』
エカテリーナの号令に各車一斉に合唱が始まった。
『自由なる祖国の揺るぎ無い発展を
偉大なるヤマトは永遠に約束する
果てしない探求心に建国された
団結した強力なヤマト帝国万歳!
雷雲を貫いて自由の太陽は我々に輝き
そして偉大なるミーシャは我々に航路を照らした
マシリーは我々を育てた
人民の忠誠を
開拓へそして偉業へと我々を奮い立たせた!』
BT-7快速戦車
T-34中戦車
T-35多砲塔重戦車
T-38水陸両用戦車
T-40水陸両用戦車
T-44中戦車
T-70軽戦車
IS-7(オブイェークト260)重戦車
オブイェークト279重戦車
などなどのソビエト戦車はさらに歌声を大きくし橋へと突き進む。
もちろん、装甲車や自走砲もいるがここでは割愛させていただく。
この第二師団の突撃に後方の第一師団では。
「少将(Generalmajor)! 前方、赤軍(第二師団)が速度を上げました!」
「エカテリーナめ! このままでは武功を盗られてしまうぞ! 黒軍(第一師団)! 全車全速!」
「しかし、それでは重戦車が落伍してしまいます!」
「ぐぬぬぬ! 重戦車は軽、中戦車に押してもらってでも着いて来い! 戦車前進(Panzer vor)!!」
この号令に足の遅い戦車の後方に足の速い戦車が群がる珍光景が出来上がるのだが、第一師団(ドイツ戦車師団)も速度を上げた。
各車からは第二師団に負けじと歌声が上がり始める。
『嵐の日も、吹雪の日も
太陽、我らを焦がす日も
灼熱の真昼も、極寒の夜半も
顔が泥に塗れようと
我ら心は快晴ぞ
我ら心は邁進ぞ
戦車は猛然と爆風の中から現れ出でる。
敵の軍勢眼前に、現れ出でれば全力で迎え討つ!
我らが帝国の為、
この命燃え上がらん、この命輝かん
祖国の為に散るも、そは最高の栄誉なり』
この第一師団に第三師団でも。
「Shit! 全車前進(Go aheae)! Go! Go! Go!」
「Sir Yes Sir!!」
『愛する者を戦争の荒廃から
絶えず守り続ける国民であれ
主に開かれた土地が
勝利と平和で祝福されん事を願わん
国家を想像し育てたもうた力を讃えよ
日の出を受け栄光に満ちて輝きはためく
帝国旗よ永きに渡り翻らん
自由の地 魔王の故郷の上に』
「「「EOY! EOY! EOY!」」」
(Empier of Yamato の 略)
第四師団でも……。
「全車突撃ぃ! 万歳ーーっ!」
「少将! 先行している大総統閣下より入電です!」
「何事か!?」
「はい、『バカな事をやってないで、自走砲の射程圏内でしょ? 使えよ。バカなの? 死ぬの?』です」
「…………」
こうして、各師団の自走砲は砲撃を開始したのだった。
******
「な、なんだ!? 何が起きている!!?」
「わ、わかりません! 私にはただいきなり倒れた様にしか……」
対岸では橋の上の出来事に驚愕し、右往左往している軍勢がいた。
無敗を誇った騎馬隊が”なんかわからないけど”一瞬で落馬したのだ。
それは後ろから見ていた者にとって、予想外の極みであり、非現実的な、まるで喜劇の様な光景であった。
司令部も同様であり目の前の光景を脳みそが処理しきれていない。
すると、対岸を監視している部隊の兵が走って来た。
「伝令! さらに敵後方より接近するもの有り!」
この報告にリンド侯、ローレンス伯は対岸を注視する。
公国軍は司令部を小高い丘に、本隊を丘から橋までの斜面に配置した。
対して、王国帝国連合軍側は窪地や林があるものの平均的には平地である。
すぐに伝令の言うとおり見た事の無い物が此方に来るのが見えた。
地響きの様な音と声? だろうか、重なり合い増幅した声の濁流はすでに轟音になっている。
「な、なんだ、あれは」
「ローレンス伯、私はあれを見た事があるぞ?」
リンド侯の言葉にローレンス伯は無言で続きを促す。
「あれは、象だよ、ローレンス伯。南の蛮族が手懐けたのを見た事がある。あの長い筒は鼻だ」
「……その『ゾウ』は鼻から火を噴くのですか?」
対岸では象もどきが次々と筒から火を噴き出していた。
「そういう種類なのかもしれん」
少し遅れてから腹に響く轟音が聞こえる。
すると布を裂くような音がして、空から何かが降って来た。
それは雨の様に降り注ぎ、落ちた場所の兵士が馬も装備も何もかもと一緒に宙を舞う。
「ゾウは魔法を使うのですか!?」
「そういう種類かもしれん!」
この攻撃に公国軍はますます混乱に陥る。
退却する訳にもいかず、かと言ってあの得体の知れない物に突撃もできず。
まず、この降って来る攻撃に各部隊が身動き出来ない状態だった。
一部ではしゃがみ込み神に許しを請う者まで居る始末だ。
あの象もどき達は次々と川に近づき、橋を渡り始めている。
一部など川を泳いで渡って来ていた。
しかし、公国軍に幸運の女神がちょっとだけ微笑んだ。
轟音と共に橋が崩れ落ちたのだ。
橋が脆くなっていたのか、今橋を渡り始めた象もどきが重かったのか。
橋は使えなくなってしまっていた。
「ぜ、全軍に伝達せよ! 川を渡りきった象もどきから各個撃破せよ!」
なんぞこの多国籍軍。
異世界風に歌詞を大改変して変更してお送りしております。
元の歌詞がわかったキミは凄い!
↓ここからおまけ
新作発表(未定)
洋画予告風ver
そいつら、間違い無く……『最強!!』
限界集落のさらに奥、山の上に住まう老夫婦。
その前に一人の異国少女が現れた時、物語の歯車は回り出す。
山の上の稲荷神の小さな分社、その鳥居から飛び出して来た少女はこう言った。
「あの! こ、ここに住まわせてください!」
少女を受け入れ、生活を始める老夫婦。
少女と過ごす日本の田舎。
川で冷やした胡瓜に山の様に実ったトウモロコシ。
数々の出来事に驚き戸惑う少女。
そんな平和な時も唐突に終わりを迎える。
山の奥から現れた異世界の軍勢。
「その娘をわたせば命は取らないでやろう!」
軍馬に乗った騎士の言葉に、少女は涙ながらにこう言った。
「おじいさん、おばあさん。ありがとうございました。さようなら、ごめんなさい……」
こうして少女は元の世界に戻り、老夫婦にもいつもの生活が戻った、
かに見えた。
「おじいさん、こんな夜中に何処に行くんですか?」
「……鶏小屋を見てくる」
「はいはい、道具は納屋の地下ですよ。皆さんには私から連絡しておきますから」
「……ふん」
こうして、奴らが動き出す。
今度、異世界に殴り込むのは、最強のぉ……老兵!?
「アレじゃアレ、アレじゃよ……あれ? 何じゃったかな?」
『不死身の軍曹』
船浜 寛 陸軍軍曹
88歳
「三十六計、逃げるより攻めろ」
『不屈の大軍師』
秋川 義弘 陸軍大尉
92歳
「船はえーのぉ……」
『海の鬼神』
市角 利介 海軍中佐
95歳
「山暮らしが長かったからじゃなぁ」
『最高の隠密』
小野川 裕雄 陸軍少尉
90歳
「ワシャあ、前ん出て闘うんがえンじゃあ」
『最強の一人一個師団』
大和川 頑徹 (やまとがわ がんてつ) 陸軍大佐
98歳
伝説の老兵達が、異世界で暴れまくる!
爆発が違う!
(ここで中世の砦が爆発で吹き飛ぶ)
筋肉が違う!
(酒樽を持ち上げて投げつける老兵)
年季が、違う!!
(白い髭を蓄えたジジイのアップ)
悪党どもには容赦しねぇ!
若い奴には負けやしねぇ!
驚異の異世界アクションコメディ!
『The Old Soldier 〜伝説の老兵〜』
ジジイ舐めんな、ファンタジー!
「ミチコさん晩御飯はまだかの?」
「サチコです」
******
邦画予告風ver
『森を抜けるとそこは……別世界でした』
異世界に迷い込んだ少女の物語。
「あの、私、帰る家が無いんです!」
山奥に暮らす老夫婦との田舎暮らし。
「これは?」
「軽トラじゃあ、早よぉ乗れぇ」
日本の夏、異世界での夏。
「お山の神さんが、いーっつも見てごしとるんよぉ」
「お山の神さま?」
優しい人々。
「お嬢ちゃんも苦労しとんなぁ、これウチで採れたキュウリ。食べんせぇ」
「おじさん、ありがとう」
異世界の常識に戸惑いながら暮らす少女。
しかし、迫り来る驚異。
「ドーモ、大和川サン。アナタノ山、買イ取ラセテクダシイ」
現代日本の戦いに少女が巻き込まれる。
「社長、あの老夫婦に外国人の孫など居ません」
「……A sweet,Who are you?(可愛いお嬢さん、あなたは誰なんだ?)」
今、社会の脅威が平和な田舎を脅かす。
「立ち退きだって!?」
「先祖代々守って来た土地じゃぞ!」
少女の決意とは……。
「私! おじいさんと、おばあさんと、ここで暮らしたいんです!!」
日本の山奥から送る、ハートフル田舎ストーリー。
『Oh My Hone』
「異世界だけど、私、元気です」
******
スピンオフ無いの? 的な感想があったの思い出して書いてみた。
予定は未定よ〜。




