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第九十八話「異世界昔話」


私は耳に飛び込んで来た日本語に驚き老人を凝視した。


『……なんじゃ、鳩が豆鉄砲でもくらった様な顔しおって』


『あ、いや。まさか気づいてたとは……』


反乱軍の鎮圧後、部下からの報告やナターシャの話に出たゴンザエモンという老人。

西洋の城で純和風の鎧甲冑を身に纏い、獲物は片刃の反りのついた長い剣、これは間違いなく日本刀、大太刀。

聞けば聞くほど疑問は確信に変わって行った。

この老人はこの世界の住人では無いと。


しかし、私が異世界人だとばれていたとは。

まぁ、あんだけパカパカ軍艦出したら見る者が見ればわかるか……。


『お主も日の本から来たのか?』


日の本って、日本の事だよな?


『あぁ、じいさんもか? いつ頃だ? 平成……は無いな。昭和くらいにこっちに来た感じか?』


『”へいせい”? ”しょうわ”? なにを言っておる』


老人は怪訝そうな表情で私を見つめた。


『儂がこの地に来たのが二十年ほど前。とすれば……』


……いや、まさか……。


『……慶長五年に決まっておろう』


……慶長?

え~っと……。


慶長……けいちょう……。


………………。

………。

…。


『せっ、西暦1600年だぁっ!!?』




******




「☆♪、☆¥%=〒○+^<+!!?」


何かを叫びならが立ち上がったミーシャに私は何度も頭の中で言葉を探した。


「やっぱり、聞いたこと無い言葉ね」


「アイシーちゃん、やめようよ。見つかったらどうするのさ」


隣でC組に入った幼馴染、ナピット・ポットー(通称ナピ)が不安そうに話掛けてくる。

ナピは非常に大人しく、中性的な少年だ。


「ナピ君、そこの皿取って」

「あ、うん」

「すいまっせーん! ジュースおかわりでー!」


「あんた達はなんで普通に食べてんのよ!?」


おまけで付いて来たパイルとジャックは普通に食事してる。

ここの支払い私なんだけど!?


「いやさぁ、燃えてるとこワリぃんだっけどもさ? 秘密を探るとか無理なんじゃ無いかなぁ〜とかねぇ?」

「ジョーカーの言うとおりだよ。そんな事より、食事を楽しんだ方が良いと思うなぁ」


ジャック、いや、通称ジョーカーがジュースをズズゥーと飲みながら椅子を傾けて天井を見ていた。

パイルは運ばれて来た料理を次々に平らげている。


「なに言ってんの! あんな非常識な存在ほっておける訳ないでしょ! 見てなさい! 今に正体を暴いてやるわ!」

「だからアイシーちゃん、やめようよ〜」

「そぉ〜れにもう気付いてんじゃねっかなぁ……」

「激しく同感だなぁ……」


ジョーカーとパイルが向けた視線の先。


「…………げっ!?」


ミーシャが苦笑いで手を振っていた。


「って、なんで手なんか振り返してんのよ!」

「……いや、だって……」

「……な〜んか悪りぃじゃん?」


私は苛立ちつつジョーカーを指差した。


「だいたい何であんたが入学なんてしてるのよ! ”小手先の魔術師”、”トリックマスター”、おふざけジョーカー!」

「んひひひ。あらら、僕って有名人?」

「地味が服着て歩いてる様な奴が、本性現したわね!」

「んなっ!? 人が気にしてる事をさらっと言いやがってぇ!」

「不毛だねえ、もぐもぐ……」

「あんたもよ、怪力パイル! 悪ガキの代表格二人が!」

「おっめぇだって、良いとこのお嬢様の癖して地元で悪さしてただろうが、ちびっ子マフィアの首領、俊足のアイシーさんよ」


私達は目的を忘れて言い合いを開始した。

おふざけジョーカーことジャック・デイヴィス、街の北側を荒らし回っていたちびっ子怪盗の悪ガキ。

怪力パイルことゴーマー・パイル、西側のチンピラをのして回った脅威の怪力を持つ悪ガキ。

そして、俊足のアイシーこと、アイシー・ルード・フィーリア、南のスラム街の子供を手懐けてファミリーを結成したちびっ子マフィアの首領。


予期せず、O組には癖のある生徒が集まっていた。




******




「は、はははは、はは……」


『随分と人気者のようじゃなぁ?』


『なんでかなぁ……』


見ればアイシー達の他に、教師陣までもテーブル席からこっちを見てる。


しかし、アイシー達は何かもめ出したようでもうこちらは見ていなかった。


『今はそれよりさっきの話だ。慶長五年なんてもう四百年は前の話だぞ?』


『たわけ、まだこの国に儂等が来てから二十年と経っておらんわ』


……ん?


『儂等?』


『……二十年前の事じゃ、儂は小さな国の君主に仕える忍びじゃった……』


〜〜〜〜〜〜


むかしむかし、あるところにお殿様がおったそうな。


天下分け目の大戦が迫る中、準備を進める殿様のもとに竜が暴れているとの情報が届きました。


竜は海の崖の下にある洞窟から現れ辺りの村々を襲っていると言います。


殿様は反対する臣下を押し切り竜の討伐に乗り出しました。


『民を護れずして何ぞ君主か! 必ずや竜の首を取り、戦場いくさばに駆けつけてみせよう! 各将はその時を信じ待っておれ!』


そう言い残し殿様は自分が一番信頼するお供を連れて竜が住まう洞窟に向かいました。


殿様とお供は洞窟の奥深くへと潜って行きます。


丸一日は進んだでしょうか、洞窟の出口が見えてきました。

殿様とお供は竜が居ない事に落胆します。


しかし、なんと洞窟から出た先では噂に聞く南蛮、紅毛の甲冑を着た武士たちが巨大な竜を相手に戦っていました。


『なんと奇天烈な! 竜が住まう洞窟は南蛮の地へと繋がっておったのか!?』


さらに驚く事に彼らは手から火や氷、雷を出し戦っているのです。


『彼奴等は仙人か妖か!?』


殿様が驚いていると一人の武士が声を挙げます。


「貴様らは何者だ!」


『何を言っておるかわからぬが……。我こそは我が国の民を脅かした悪竜の首を獲らんと剣を取りし者也! 義によって助太刀いたす!』


そう叫ぶや殿様とお供は竜に飛び掛かります。

お供が竜の動きを止め、殿様の刀が一閃。

竜の首を切り落としました。


『悪竜、討ち取ったり!』


一瞬の事に兵士たちは言葉を失います。


『殿! どうやらここは異国の地! 急ぎ戻りませねば!』


お供の言葉に殿様は渋々洞窟に走り込みます。


すると切り落とした竜の首が跳ね、洞窟の入り口に突撃しました。


『し損じたか!!』


竜の一撃によって洞窟は崩れ落ちます。


『殿! 御免!』


お供は殿様を洞窟の奥へ突き飛ばしました。


お供は異国の兵士に捕まりましたがその知恵と技術からやがて異国の家老に成りました。


〜〜〜〜〜〜


『つまり、それが儂じゃ』


その話を聞いた私は多分ものすごい間抜けな顔を披露していただろう。


『……あー、女神とかって会ったことある?』


『なんじゃそれは? 馬鹿にしておるのか?』


……この人、完全に別件だこれぇぇぇ!!

女神とか転生とか完全に関係ない人だったぁ!!


……ん?

そういやぁ。


『確か爺ちゃんが言ってたっけなぁ。ご先祖様が竜をぶった切ったとか、実家の近くに忠臣洞とかいう洞窟があって、たしか別名……』


私は老人の顔を眺めた。

たしか洞窟の名は。


『……ご、権左ェ洞門だったかなぁ……ちなみにお殿様の名前は?』


『儂が仕えた殿は、大和川 永八郎 和幸様じゃ』


…………。


『じ、爺ちゃんと苗字おんなじなんですけどぉぉぉ!!?』


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