サマン重工 幹部の証言
レック・ナービスについて? …………、はい。もちろん存じております。特に隠しているつもりはありませんでしたが、あえてこちらからお話する必要もないかと思いまして、おっしゃる通り彼は私の親族です。
彼が、何をしたか知っているか?
もちろん。人としてはやってはいけない罪を犯してしまったとわかっております。
彼が逮捕された時にどうして、名乗り出なかったのか? それはもっともな質問であると思いますが、当時の私は行きたくとも行くことができませんでした。私は仕事でモーゼルに行っていたのですから、自分の都合だけで、アンバー王国には帰ってくることが出来ませんでした。おっと、勘違いされないでいただきたいのですが、皆さまが考えているようなことには、私は一切、関与しておりません。まさか、私が引き起こしたとか、そんなことを思っていらっしゃるのでしょう? まさか、役職はついていますが、しがない会社員である私にそのようなことは力はりあませんし、出来ません。じゃあ、なぜ都合よくモーゼルに行っていたかですか? 恐らくご存知でいらっしゃるのでしょう? 以前に新しい魔鉱山が発見された件です。
魔鉱山が発見されたのは、ナービスの逮捕よりも、もっと後のことではないと思われるかもしれませんが、私達とマンロー氏とのやり取りが取り沙汰されたのは、割と後のことでして、本当はもっと前から様々なやり取りを行っていたのです。
争った? いえいえ、違いますよ。マンロー氏はもちろん魔鉱山の採掘に意欲を示されていました。しかし、如何せんその方面には実績のない方でして、アレはやり方を失敗すると、時限爆弾に他なりません。ですから、私共が手を貸して差し上げたと言う話です。
損失だとは思わなかったのか? 初期投資で、損失を被ることなど、どんな事業でも当たり前にある話ですよ。しかし、魔鉱山はその損失以上に民の暮らしを豊かにしていく資源です。どちらを取るかと言われたなら……アナタでしたらどちらを取ります? 自らの安寧か、少々無理をしてでも国と国民の繁栄を願い、多少の傷を負うか。
――そもそも、マンロー氏は畑は異なりますが、ご自身で商会を持っていらっしゃるんです。多少の損失の補填はその商会の方で、充分可能なんですよ? それを考えればねぇ。やはり慧眼をお持ちのアナタでしたら、この状況からどちらを選ぶかなんて、答えは決まり切っている様なものじゃあ、ありませんか。
でも、魔鉱山の採掘権はサマン重工になっていると?
ええ、確かにその部分については大変心苦しいのですが、致し方ない部分でございます。つまりですね、採掘権がなければ行使できないいくつかのことがありますので、マンロー氏がどれだけ手をつくされても、やはり物事には限界がありますから、私共が致し方なく……と、この辺りで、私がどうしてモーゼルへ行ったのか、目的をわかっていただけたでしょうか? それでしたら幸いでございます。
ですから、レックが騎士団に捕縛され、取り調べを受けていたころを私は知る由もなかった訳です、はい。
ん? こちらは、えっと、どこから入手したのです? これについては、私は何一つ存知あげません。これがレック・ナービスとサマン重工と宝石強盗事件を結びつける証拠ですって? 馬鹿馬鹿しい、そもそもこれが本物であると証明できるのですか? 出来ませんでしょう? 私が思うに、輝かしい功績を納めるサマン重工に対して、良からぬ感情を持つ、何者かの仕業に違いありません。私はそんな手紙をレック・ナービスには渡しておりません。宝石強盗の指示をしていたなんて、そんなはずありません。だいたいですね、申し上げますが、その宝石を集めてどうすると言うのです? サマン重工の経営は盗んだ宝石に頼らなければならないほど傾いてはおりません。仮にその宝石を必要としていたとして、その宝石をその後どうすると仰るのです? 売り払ったところで、希少な宝石ばかりです。すぐに足がつくに決まっています。それが例え売り払った先が他国だったとしてもですよ。
え、……宝石を媒介とするスキル保持者ですか?
一体、アナタ方はどこまでお知りになっていると言うのですか?
……
……
……
……黙っていても仕方ありませんね。
仰る通りです。
私どもの職人の中に、宝石を媒介として、大きな爆発を引き起こせる特殊なスキルを持った者がおります。その爆発の大きんさは宝石の希少さによって異なっておりました。ええ、魔鉱石は非常に硬いので、掘り進めるには大変な労力が必要です。大きな爆発を用いることが出来れが非常に作業が捗るのです。ですから、その者がいれば大幅に時間を短縮して作業を行うことができるものですから。この話から、どれだけ宝石を必要としていたか察していただけるでしょう。はあ……そうですね、魔鉱山をまともに稼働させるには本当に色々と大変でして。




