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ジェルオフ 2、

「ユーリさんのメモに書いてあったのは、ここですね」

 アリは路地の先にある、古びた看板を指した。

 ”パブ 赤い馬”

 ここに来るのは初めてではない。以前、アリ自身のスキルで変装して、この店にサイの調査に来た事を思い出した。

「行きましょう」

 リリーが意気込み、一歩踏み出すのを見て、アリは扉を開ける。

 周囲に最大限に警戒心を張り巡らした。

 本当はアリ一人だけで来るとリリーに進言した。理由は危険だから。

 しかし、すげなく却下される。


 一人で家にいたって、心配で仕方ないもの。


 真剣な瞳でそう言われてしまえば、アリは引き下がるしかない。だから、今回はリリーの侍女として、いつものアリとしてのの姿でそこに居た。

「ごめんください」

 店内は、がらんとしており、かえって拍子抜けしてしまった。

 唯一いたのは、カウンターの向こう側、バーテンダーの男性。

 金色の長髪を一つに結い上げて、口元は微笑みをたたえているのだが、瞳は鋭く、凶悪さを秘めている。

「いらっしゃいませ。何を飲まれますか?」

「メロンクリームソーダ」

 バーテンダーの笑みが消え、アリは一瞬身構えたが、後ろの棚に手をやると、がちゃん。と、音がしてカウンター隣の食器棚が大きく動き、ぱっくりと口を開けた際に通路が現れる。

「どうぞ」

 バーテンダーは口角を上げて、その入り口を示した。

「どうも」

 リリーはドレスの裾をつまみあげ、ぽっかりと開いた入り口に向かう。アリは通路の入り口にトラップなんかがあるのではないかと、ひやりとしていたが、そんなことはなくすんなりと中に入ることが出来た。

「ユーリさんの指示通りでしたね」

 ユーリはこの場所と合言葉についてメモに書いて教えてくれていた。

 しかし、この先のことは書かれていない。

「こんな場所では、何かがあっても簡単には逃げられそうもないわね」

「おしゃる通りです」

 アリもそのため、いつも以上に気を張り詰めているのだが、

「もう、こうなったら出たとこ勝負ね」

 なんてリリーが言うので、ため息をついてしまうのは仕方ないだろうと思う。

 奥に歩いて行くにつれ、音色が聞こえる。

 ピアノの音だ。

「これがあの方の……かしら」

 リリーがつぶやいた所で、大きな広間に出た。

 きょろきょろと周囲を見回す。規則正しく置かれた椅子と机。窓はないが天井から煌々と明かりが差し込む。

「すみません」

 控え目だが、はっきりとしたリリーの問いかけに、ピアノの演奏が止まる。

「はい?」

 振り返った男は、あの時から変わらず、美しい顔をしていた。

「すみません。ユーリさんに紹介されてこちらに伺ったのですが……」

 一般的な女性、男性であってもそうだが、サイに見つめられただけで、頬を染め、猫なで声になるだろうと思う。しかし、流石はリリーと言うべきか。表情も声色も一切変わらず、サイを真直ぐに見つめてそう言い切った。

 そんなリリーが、物珍しかったのだろう。ちょっと目を見開いた後、彼は笑った。

「はい。聞いています。入会希望だと聞いたけれど、なんとなく違いそうですね」

 探りを入れる瞳にもリリーは動じることはない。

「代表の方はいらっしゃいますか?」

「いるにはいるけれど、そちらの意図を把握できない限り、会わせる訳にはいかないんだ」

 サイは挑戦的な笑顔を向ける。

 リリーはその視線を受け流して、貴族的なカーテシーを見せる。

「私はリリー・アスセーナスと申します。ユーリさんに紹介を受けて……」

 パタリ。

 ドアの開く音がして、顔をのぞかせた侍女には見覚えがあった。

「お待ちしておりました。こちらへ」

「あの……貴女、フローレンスさん?」

 リリーの言葉にはっとして思い出す。

 彼女はフォックス公爵家の侍女であると同時に、リリーネイルのお客様でもあった。

「お久しぶりです。何度がリリーネイルに伺いたいと、気持ちはあったんですが、ばたばたとしておりまして」

「フォックス家の方は大丈夫なんですか?」

 リリーの言葉にフローレンスは眉尻を下げる。

「フォックス家のことで本当は、リリーさんに謝らなければならないことがあって。……フォックス公爵家は他国と通じており、この国の情報を流していました。あの時、発覚したのは氷山の一角にすぎません」

「うすうす、感じていました。フォックス家では時々、スキャンダラスなニュースがあって、――例えばミネラ様のこともそうです。最近のあの方は、私が知っているミネラ様とは別人の様な方だなと思ったことがございました。でもそれらは、あえてフォックス家の醜聞をさらして、本当に隠したい事を閉じ込めるために起こしたことなのではないかと思ったりもして」

 リリーの言葉に、フローレンスはこくりと頷く。

「もしかして、環境推進委員会のトップは……?」

「フォックス家の大旦那様、本人です」

 リリーは息を飲んだ。

 噂をそれとなく聞いたことはあった。国に対峙する、反分子の組織は大抵、国家反逆罪の罪を着せられ、投獄、解散に追い込まれるのが常であるが、環境推進委員会がここまで国家からの圧力を受けずにいるのは、それなりの重鎮がトップについているのではないかと言う話。だが、それが誰かまでは知れなかった。だから、フローレンスからフォックス家の大旦那様と聞いた時、驚いた気持ちと同時に、なるほどなと納得する気持ちも強くあった。

「不謹慎でしたらすみません。いつも、ネイルサロンでは案内される側なので、リリーさんとアリさんを案内するのは、なんだか新鮮ですね」

 振り返ったフローレンスは、くったいのない笑みを見せる。

 フォックス家の内部に不穏な動きがある――そんな噂はアリもずっと聞いていた。しかし、その真実については誰も知ることができずにいた。流石は公爵家と言うべきか、内部情報を入手し得ることが難しい。できなくはないのだが、入ってくるのは、薄っぺらい表面上の情報だけ。

 逆に、不祥事だのなんだの、問題を起こしていたのは、リリーが言うように、本当に知られたくない情報を隠すための、カムフラージュだったと聞いてアリは思わず頷いた。

「確かに、フローレンスさんにここに来て、案内してもらえるなんて思っても見ませんでした。――ここも公爵家の所有なんですか?」

「はい。表むきの名義は異なりますが」

 そうだろうと、アリは言葉にせず、ただ頷いた。

「入口からは想像できないほど、中は広いのですね?」

 リリーはキョロキョロと辺りを見回している。歩き始めて随分経つが、まだ目的地に到着する気配はなかった。

「今となっては面影はありませんが、元々は、公爵家が運営する修道院だったそうです」

「こんなところに修道院が?」

「かなり昔の話だと聞いておりますので、私も詳しいことは分かりませんが――なんでも、昔、王族の方で慈悲深い方がいらっしゃって、身寄りのない方を修道院で面倒を見ていたとか。その方が初代フォック家の当主様だった方のようです。しかし当時、他の王族から見ると、あまり良い話ではありませんよね。その方の名声ばかりが上がるのですから。だから、次第に修道院は形骸化し、使われなくなりました。そして、公爵家の情報収集の拠点として、現在、ここにあると言うことでございます」

 アリは話を聞きながら、そういえばフローレンスの生家の男爵家は、昔から、公爵家に忠誠を誓っていた家柄であったこと。そして、聡明なフローレンスが婚姻せず、公爵家に奉公に出ていることには、それなりの意味があるのだとふと思った。

「そんなにすらすらと、公爵家の情報を話されて大丈夫なのですか?」

 歩みを緩めたフローレンスは振り返り、笑みを深める。

「どうぞ、こちらです」

 廊下に突如として現れた、貴族の屋敷で見る様な重厚なドアとは異なり、金属製のぴかぴかとした大きなてっぱんにドアの取っ手がついたそれは、見たこともないものだった。

「金庫、みたい」

 隣のリリーがあんぐりと口を開けて、その奇妙な扉を見上げて呟く。

「確かにそう思われても不思議ではないかもしれません。この部屋はシェルターとして使用できる様にも設計されているので」

「有事の際に備えて?」

「はい」

 フローレンスは至って真面目な面持ちだ。本当に言葉通りなのだろう。アンバー王国は現在、戦時下にある。

 王都にいる限り戦争の足音については、新聞紙面の情報以外からはほとんど感じ取ることが出来ないが、だからこそ、こういったシェルターを見ると、この国がやはり戦時下であるのだということを改めて感じた。

 フローレンスがゆっくりと扉を開ける。

 女性一人では、重いのではと、見た目には思われたが、なんの苦労もなく扉はゆっくりと開いた。

 中は床と、壁と、天井とが、金属で覆われ、わずかに通気口と思われる小さな穴(しかし、鉄格子によって外からの侵入を完全に閉ざしている)がいくつかあるくらい。

 部屋の真ん中にはソファーとテーブルが何脚か並べられ、一番奥に置かれたソファーに一人の男性が座り、目の前に資料を広げ忙しくしていた。

 小ぎれいなスーツに、グレイヘアー。顔には皺があるものの、実年齢より若々しく見える。

 実際に顔を見たことはなかった。しかし、目の前の人物の風貌から、前フォックス公爵家当主、その人で間違いないとアリは思った。フローレンスは一礼し、静かに扉を閉め、部屋を出て行った。

「お久しぶりでございます」

 案の定、その姿を目に咎めたリリーは真っ先に反応する。

 いくら、リリーが社交に積極的ではないと言っても、面識はあるのだろう。うやうやしくスカートの裾を持ち上げ、教本のようなカーテシーを見せる。

 前公爵はふっと顔をあげ、若々しい笑顔を見せた。

「アスセーナス子爵家のお嬢さんだね? ずいぶんとご立派になられて……失礼、最近は、若い人を見るとまるで親にでもなかったかのように見るくせがついてしまって」

「いえ、確か前にお会いしたのは、私が社交会にデビューして間もないころでしたので。その頃に比べましたら、――でも私のことを覚えてくださっていて、ありがとうございます」

 リリーが頭を下げると、前公爵はいやいやと、手を挙げる。

「そんなにかしこまらないでほしい。今、私はここに公爵家の人間としている訳ではないので」

 リリーはゆっくりと顔を上げた。

「では……環境推進委員会の”革命家”様とお呼びしたらいいでしょうか?」

 前公爵は頭を掻いた。

「まあ、確かにそうなんだが、……なんだか調子が狂うな。ここの組合員には、貴族籍の者はいないから、私のことをそこまで誰も知らないだろう? だから自由きままにふるまっているのだが、やはり顔見知りの人には、流石に分かってしまうよね」

 確かに”公爵家”を背負っている人ではあるのだが、息子に爵位を明け渡してから、前公爵は隠居したと言われ、ほとんど公の場に姿を現すことは無くなった。

 だから、もともと面識のある人以外は、会っても前公爵だとはなかなか気づかれないのかもしれない。彼の佇まいや言動から、それなりの地位に居る人なのだろうとは思うだろうけれど。

「それは私も一緒です。御顔を存じ上げておりますのに、知らんぷりしろと言われても、なかなかできるものではございませんので」

 フローレンスにソファーを勧められ、リリーはちょこんと腰掛けた。

「それで……今日、君がここに来たのは………確かとある組合員から『相談にのって欲しい人がいる』と伝言を承ったのだが、君のことかな?」

 リリーは神妙な顔でこくりと頷く。

 とある組合員というのは、言わずもがな、ユーリ・オリガの事だろう。

「君の様子を見る限り、どうも環境推進委員会に入会したいという訳では、なさそうだね」

 前公爵は苦笑いを浮かべる。

「はい、実は……前公爵様にまどろっこしい言い方をするのもとも、思いますので、ストレートに申し上げますと、情報が欲しいのです」

 リリーの言葉に前公爵は、先ほどまで浮かべていた柔ら中笑みを消し去って、ぐっと顔を引き締める。

「具体的にどのような?」

「モーゼル国のことや、戦況のことです。私達は人を探しに、モーゼルの方に向かおうと思っています」

 貴族の娘が人を探しに戦場に向かう。そんな突拍子もない話にも、前公爵は驚く様子もなく、ただ深く頷いた。

「具体的に、説明をしてもらえるから。私だって、一つの情報で若い女性が命も落とすかもしれないと思うと勝手なことはしたくない。話を聞いて見極めさせてほしいと思う」

「もちろんでございます。少し話は長くなりますが……」

 リリーはエドのことを話した。

 前公爵は話を聞きながら、何度か頷きながら、顔を顰める場面もあった。リリーが話を終えると、大きく息を吐き、

「話を要約すると、君は家族同然の人を救うためだけに、わざわざ自らの命も顧みず、戦地に赴くと?」

 リリーは前公爵の鋭い視線にも負けることなくこくりと頷いた。それを見た前公爵は、冷たく言葉を言い放つ。

「それは君だけじゃなく、戦地に家族を取られたものなら誰だってそう思うだろう。しかし、誰もが君と同じ行動をとらないのは、それが国のためであり、自分たちの大切な人のためであると思うからだ。君はその全てををわかった上で、発言しているんだね?」

「私はどうしても行かなければならないんです」

 リリーの声は前公爵に押し負けぬほどの、威厳と深い感情を湛えていた。

 前公爵は厳めしい顔を緩め、

「リリー・アスセーナス子爵令嬢。君は頭の良い聡明な女性だと話に聞いている。フォックス家で起こった様々な事件も、騎士団では対応できないとミネラが言い出して君に」

「ミネラ様が? じゃあ、事件は全て……?」

 前公爵はいいえ、とも、はい、とも言わず、困った様に笑った。確かに以前の事件でミネラ元王女に関わったことがあったが、あまりにも浅はかで短絡的な考えの彼女に、驚いたことをアリは思い出す。

「ミネラ様に、まだ公爵家に嫁がれる前に何かのパーティーでお会いしたことがございました。その時のご様子は王家の血族である、その立場を鼻にかけない知的な方だと、そんな印象を持ちましたので、あの事件の時には非常に違和感を覚えたといいますか……やはり、そうでしたか」

「全て私のためだったんだ。公爵の身分でありながら、こういった活動を秘密裏に行っている。他の貴族から見れば、目の上のたんこぶだろう。だからフォックス家を守るために、小さなスキャンダルを起こした。ミネラは自分が捕まったとしても、元王族と言う立場上、拘留程度で終わるだろうからと」

「では、事業の失敗に関しては?」

「失敗させたんだ。しかし、そこに気が付く君だ。どうしてそれほどの無理を押し通そうとするのか? 家族を助けたい。その気持ち以外になにか理由があるのか?」

「ただ助けたいだけです」

「うーん。その、エドなる人物は戦場ではどのあたりに?」

「エドは、隠密部隊に所属していたそうなのです。彼は……詳しく申し上げるのは個人情報に関わるので、はっきりとは申せませんが、確かにその部隊にはふさわしいスキルを所持していたのは確かです」

「では、戦場ではさぞかし素晴らしい活躍をされていたのでしょう。そんな従者が行方不明になったと言うのなら……」

「サマン重工に部隊ごと捧げられ、良い様に使われているらしいのです」

「は?」

 流石に驚いたのか、前公爵が大きく目を見開く。

「軍事物資の交渉に失敗したとかで、その様な取り決めがなされたようです。……もちろん、拒否権はなかったのでしょう」

「それはどこからの情報?」

「……言わないと、お約束していただけますか?」

「むろん、ここでの話しは、君も私も皆、なかったことになる」

 しばしの間があった。

 リリーはようやく口を開いて、

「聖女様です」

 聖女のうちの誰とは言わない。しかし、ここまで言えば、リリーと繋がりのある聖女が誰かというくらい察しがつくだろう。

 前公爵は腕を組んだ。

「私はあのサマン重工のスティーブン・シャーマン氏について、前々から良い感情を抱いておりませんでした。その理由を詳しくお伝えすることはできません。でも、向こうが手を出してこない限りは、私自身も自分の感情に目を閉じておりました。しかし、私の家族にまた、手を出したからには許しておけません」

 アリはリリーから目が離せない。彼女と長く一緒に居る中で、サマン重工に対して良い感情を持ち合わせていないことは知っていた。しかし、まさかこれほどとは思ってもみなかった。いや、気が付かなった。

 前公爵はしばらく腕を組んでいたが、リリーとアリをぎろりと交互に睨み、二人が全く動じていないことを確認すると、行きを吐き、手を解くと、まとわせた緊張感をけしさった。

「ここまで強情なお嬢さんだとはね。いや、もちろん良い意味でだ。アスセーナス家の末のお嬢さんは引きこもっているとか、お人形の様だとか体が弱いとか様々な憶測に基づく噂が飛び交っていたが、噂というのはやはり当てにならないものだね」

「そんな噂があるのですか?」

 リリーは素っ頓狂な声を上げる。

 アリは自身の仕事柄、リリーのその噂についてはもちろん知っていた。

 リリーはともかく社交界には、ほとんど顔を出さないので、色々な、時にはあらぬ噂をされることがある。それについて、本人はあまり気にしていない様子ではいたが、”全く気にしない”訳ではないだろうと、なんとなくそう思ったので、アリは特にリリーには何も言わないでいた。

 噂はあくまでも噂である。そこに振り回される時間の方が大変だと思ったから。

 そんなアリの脳内のことを知ってか知らずか、前公爵は豪快に笑った。

「あくまでも噂は噂だが、貴族と名のつく生き物の大好物でもある。だから、嘘でも真実でもなんでも言いたがる――とまあ、その話はさており、お二人は環境推進委員会には興味はないかね? 君がサマン重工と敵対するのなら、喜んで力になるが?」

「ありがたいお話ですけれど、残念ながら。私が抱いているこの感情は社会全体のためというような崇高な精神ではなく、個人的なモノですから。そのために崇高な精神をお持ちの皆さまのことを巻き込む訳には行きません」

「まあ、いいだろう、じゃあ、協定と言うのはどうかな? 君が家族同然と言える従者を助けるために、敵地の情報はこちらが知る限りにはなりが、教えよう。そのかわり、そちらが知りえた情報をこちらにも教えてほしい。そして、こちらの行動には口を挟まないでいただきたい。もちろん、こちらも、お二人の行動に制限をかけるようなことはしない。まあ、よっぽどの何かがあれば声をかけることがあるかもしれないが」

 かなりの好待遇だとアリは驚いて、リリーと目を見合わせる。

 リリーの瞳にはなにか裏があるのではないかと、疑惑をにじませているようだったが、

「本当に言葉の通りですよ。前公爵様は自分のお言葉には責任を持つ方ですから」

 紅茶を運んで来たフローレンスが、そう言うので、アリが抱いていた疑惑の色は薄くなる。

 断る理由はない。あとは決意を固めるだけだと言わんばかりに、リリー頷いたのを見て、アリもそれに応じる。

「そのお申し出、ぜひお引き受けしたいと思います」

 リリーの言葉に前公爵はにこやかに頷いて、右手を差し出す。

「ならば、交渉成立。と、いうことだね」

「ええ。若輩者ですがどうぞよろしくお願い致します」

 二人は笑顔で握手を交わす。

「契約書を取り交わそうか?」

 リリーは一瞬迷ったようだったが、

「お願いします」

 と、答える。

「いい心がけだ。口約束が一番信用ならないからな」

 前公爵は、控えていたフローレンスに指示を出す。

「君が欲している情報は後日、こちらから使者を差し向ける。それから、君が現地に行ってからの情報のやり取りも、どうするか……これから様々考えなければならないことがあるな」

 契約書を取り交わし、その日は解散となった。

 

お読みいただきありがとうございます。

評価やいいね、もいただきありがとうございます。

この場を借りて、お礼申し上げます

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