チョコレートネイル
《内部に間諜疑惑 聖女の動向が敵部隊に筒抜けか? ……アンバー王国幹部は、今後のことを鑑みて、聖女ナズナを王都に帰還させる》
朝刊の紙面に眉をひそめたリリーだが、サロンに入ってきた人物を見ると、読んでいた新聞を横に押しやって、ゆっくりと笑顔をつくる。
聖女ナズナは、気だるそうにヴェールの脱ぎ払い、部屋に入ってくる。その後ろから、
「聖女様、自分がおともいたします」
閉まる扉の隙間から、なんとか体を滑り込ませようとする一人の男性の姿があった。
金色の流れるような髪の毛を一つにまとめた、いかにも貴族の出自らしい雰囲気をまとわせた男性だ。
白い騎士服を着ているので、聖女の護衛騎士なのだろうが、ずいぶん熱心なのだと思う。だが、そういった行動をナズナがそれを嫌うのも知っているので、
「ザハリアーシュ。大丈夫ですから。扉の向こうで待っていてください」
「ですが、聖女様……」
「待っていてください」
ぴしゃりと言い放ち、扉をしっかりと閉めると、ふうと、息を吐いて、リリーの方にゆっくりと歩みを進める。
「お久しぶりです。ナズナ様」
リリーは立ち上がって、ナズナの座る席、一人がけのソファーを整え、彼女を迎え入れる。
「本当にやっと、久しぶりに休暇がとれて王都に戻ってこれましたの」
ナズナは聖女として、今まで前線に出ていたのだが、他の聖女のとの交代でようやく王都の一時帰還することが出来た。
「王都に戻って来た時の隊列に聖女様がいらっしゃったのを道端から見ておりました。戦場は大変だったのだろうと思いながら」
聖女を引き連れた隊列が戻って来た時、リリーはちょうど用事があって外出をしていた所だった。特に聖女帰還の隊列を見に行こうと思っていた訳ではなく。そもそも帰還の時間はもっと早い時間を予定していたのだが、予定が押して、リリーが外出した時間とちょうど重なったと言う訳だ。
聖女ナズナには多くの護衛騎士が周囲配置され、ものものしい雰囲気を漂わせていた。
これが勝利の帰還であれば、もっと民衆も盛り上がっていたのだろうが、残念ながらそうではない。騎士服は皆薄汚れ、破損している騎士服をそのまま身に着け、俯いた表情で隊列を組んでいるものもあった。そして、大量の荷馬車。
戦火に伴いアンバー王国内の物流が滞っていると言う。
そのため、聖女の様な高位の方の帰還と合わせて、大量の積み荷も一緒に運んでいるのだと、話には聞いていたが、実際のにその光景を見たのは初めてだった。
そういえば、その中に、今、サロンの方まで押しかけてきた若い騎士――ザハリアーシュとよばれた男性の顔もみたような気がした。
「ようやく戻って来たと言う感じですね。私の家のベッドの上で手足を伸ばせた時は、本当に帰って来たと思いました。久しぶりによく眠れた感じで」
「前線はどんな様子です?」
「阿鼻叫喚。なんとも特筆しがたいですね――――とっ、せっかく王都まで戻って来て、久しぶりのネイルなので、別のお話をしてもいいですか」
「失礼いたしました」
ナズナに膝にかけるブランケットを手渡し、リリーは自身の席に戻ると、
「今日はどんなデザインにしますか?」
ナズナの両手をとり、爪の状態を確認する。荒れた肌に擦り傷が目立つ。
「お菓子みたいな甘そうで可愛らしい感じで出来るかしら?」
「ニュアンスでよろしければ。甘いものがお好きでしたっけ?」
ナズナは少し恥ずかそうな表情でこくりと頷いた。
「もともと好きですし、食べれなくなると食べたくなってしまって……本当はこっちに帰ってきてから、沢山食べるんだって意気込んでいたのですけど、なかなかそうもいかないのが現状で」
「お忙しいのです?」
「いえ、そう言う訳ではないんですけれど、なんだか疲れてしまっていて、食べる気力がないと言うか」
確かに見た目からしてもナズナは疲れているのはわかった。澄んだ瞳はいつもよりも覇気がないし、陶器のような白い肌も、白というより蒼白く見える。
アリを呼び、疲れが取れる様なハーブティーと食べやすい甘いお菓子を持ってくるように伝えた。
爪にやすりをかけて、形を整える。以前の長さは残っていないので、今ある長さを揃える程度。
ささくれと甘皮を丁寧に処理していると、
「本当は言うのをためらっていて、忘れてしまおうと思ってたのですが……やっぱりどうしてもあの時の光景が思い出されて、リリーさんにすこし打ち明けたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
顔を上げると、ナズナは神妙な顔で見つめていた。
「私でよければもちろん。お話を伺うことしかできないのですけれど、現地で何かあったのですか?」
リリーもしっかりとした返答を出来る自信はなかったが、大変な中から帰ってきたナズナの言葉を無碍にすることもできなかった。
「戦地のことではないのです――いえ、戦地では確かに色々なことがあって、正直私の胸だけに収めておくのが難しい出来事も沢山ありました、ただ、あのことについては、なんとなく嫌な予感がして……」
「一体何があったのです?」
ナズナはこくりと息を飲んで、視線を落とす。
「………………私、殺人現場を見てしまったのです」
「殺人?」
リリーは思わず声をあげた。
「見たことは間違いないのです。自分の目には自信があります。視力も割といい方ですし。ですが、その、被害にあったと思われる女性の方の死体が見当たらないのです」
リリーは順を追って話をして欲しいとうながした。
「ごめんなさい。頭が混乱していて――戦場から、王都に戻って来る道沿いのある町でのことです。戦地から二つか三つの町を抜けて、王都の一歩手前にある町の宿屋で一泊しました。私は聖女だからと、その町の中では一番いい宿で良い部屋に泊まりました。けれど、私に付き添う護衛騎士や他にも部隊の兵隊たちが多くいる訳ですから、私がいる宿だけで泊まり切れる人数ではないので、他の宿にも分散して泊まっていました。次の日の朝早くに出立が決まっていたので、私は早くにベッドに入って、目を閉じたのですが、真夜中に目が覚めてしまって。戦地に居た時は朝も夜も関係ありませんでしたから、その延長線上だと体が起きてしまったのだろうと思います。目がさめるとなかなか寝付けなくって、ふと月明かりに誘われて、カーテンを開け、窓の外に目をやりました。通りを挟んで正面も宿屋だったんですけれど」
ナズナがそこまで話した所で、ちょうどアリが部屋に来てハーブティーと手でつまめるサイズの小さいチョコレートをお皿にあけ、隣のサイドテーブルに置いた。ナズナはアリの方を見ず、ただ会釈だけしてハーブティーを持つ。
「本当に大丈夫です? あまり無理なさらない方が」
リリーの言葉に、ナズナはただハーブティーを飲み、一旦カップをおくと、今度はチョコレートを口元に運ぶ。もう一度、ハーブティーを飲んでようやく人心地ついたと言う表情を見せた。
「大丈夫です。その話をどうしても誰かに聞いて欲しかったので、話を続けてもいいです? それで――――カーテンを開けた先に見えた、通りをはさんで正面にある宿屋の部屋、ちょうど窓際で、女性が首をしめられているのを見たのです」
「その女性に見おぼえは?」
「いえ、全く。その王都に向かう部隊は、私達を含め、確かに人数は多いですが、何日も一緒にいるので名前はわからなくとも顔は見知っているものがほとんどです。特に女性は人数がすくないので、名前と顔は全てわかります。ですが、全く見たこともない方で」
「誰が女性の首を絞めていた人物の顔は?」
「それは見えませんでした。部屋が薄暗かったのと、カーテンの向こう側に犯人がいた様だったので。翌朝、殺人ということは伏せて、私の正面の部屋に体調が悪そうな女性がいたと言って様子を見に行かせたのですが、誰もいなかったのです」
「誰が宿泊された部屋か、そういったことは調べてみましtか?」
「それが、ちょっと言いにくいのですけど……」
ナズナは言いにくそうに視線を揺らめかせた。リリーはその仕草に首を傾げる。
「その……男性は特に、その町で春を買うといいますか」
「ああ」
「そのための部屋だそうです。ですから、一種のそう言った遊びだったのではないかと、からかわれてしまって。確かにそう言われてしまえばそれまでなのですけれど。でも、目を閉じた時に浮かんでくる、あの女性の苦痛と恐怖の満ちた表情は本物だったと。確かにあの場所で殺人が行われたと、私はそう確信しているのですが、如何せん、肝心のその女性の姿が見当たらなくって……」
リリーは、こくりと頷く。
「ナズナさんが嘘をつく女性だとは思いません。ですが、そうですね一度、その町の界隈で春を売っている女性で、失踪した人がいないかどうか調べてみましょう。それでなければ、確かにその、なにか遊びの一環だったと言うことになりますでしょうし」
リリーはそう言って、一度作業の手を止めると、ちょうど隣で待機していたアリに耳打ちする。
「かしこまりました」
小さく頷いたアリは、急ぎ足に部屋を出ていく。サロンの扉が開いた時、律儀に扉の前で難しい表情をして立っている、ザハリアーシュの姿が見え、扉が閉まる。
「では、それまでネイルの方を仕上げていきたいと思いますので」
「はい。お願いします」
ナズナはつきものが落ちたようにほっとした表情を見せた。
リリーはベースジェルを塗布し、白のベースの色をのせる。
「色とかは派手じゃない方がいいとかありますか?」
今更だったが、そう聞いてみた。彼女は聖女としての仕事をしっかりとこなしながらも、ネイルは自分の好きなようにいつもしていたので、大丈夫だろうとリリーは思っていたのだが、やはり念のため。
「もちろん。なにも問題ありませんよ。戦地から帰って来ている時くらいは、少し羽根を伸ばしたって、いいと思うの」
「わかりました」
リリーはその返事を聞いて、数本の指だけ、ココア色をベースとしてのせた。硬化すると、白ベースの指には、ココア色の。ココア色のベースの指には白を細筆に取って、ランダムに線を描く。金色の目たるスタッズや金箔をアクセントでのせる。
「かわいい」
思わずこぼれたナズナの笑顔と言葉に、リリーはほっとするも、その瞳いつものような生き生きとした生気は戻らない。
「やっぱり、お疲れですね」
「すみません。ぼうっとしてしまって」
「王都では聖女様は、新鮮なお野菜や海鮮などの食材と一緒に戻られたと話題になっていましたわ」
ナズナは、ふふっと笑顔を作る。
「長引く、この状況ですから、少しでも国民の皆さんが笑顔になってくれるのはありがたいことです」
「でもすごいですね? 結構な距離だと思うのですが、食材は全て新鮮だと伺いました」
「ええ。特別に作られた、ビニールのシートがあるのです。それに、食材をくるむと、鮮度を落とさずに、持ち帰ることができるんですよ」
リリーはその話を聞いた時に、低い声で唸り声を上げた。ナズナは少し首を傾げながらも、途切れた話を繋げ、
「そう言えば、リリーさんの所の執事さんも戦地に行かれているとか?」
そう話題を切り替える。
「ええ。そうなんです」
「どの辺りに?」
「それが……奇襲だか隠密部隊に所属しているらしくって、全くどこにいるのか消息がつかめないのです」
「まあ」
ナズナはそう声を上げて、まつげを伏せる。
「私もほぼ最前線にいましたけれど、その執事の方をお見掛けしたか、安全だったかどうかはわかりかねて……」
リリーはトップジェルを塗布し、ナズナにネイルライトの中に手を入れる様に促す。
「ナズナさんが気に病まれることではありません。心配は心配ですが、この状況下ですから仕方ありませんし――ネイルが完成しました。こんな感じです。いかがでしょう?」
「まあ素敵。やっぱりこうあるべきよね」
ナズナは今日一番の笑みを見せる。
リリーはネイルオイルをつけて、完成させたところで、机の上にだしていた道具を棚に仕舞う。その時に手が触れたのか、読みかけの新聞がぱさりと、机の真ん中に踊り出てた。リリーはそれに気づいて新聞を片付けようと思ったのだが、それよりもナズナが新聞の紙面をみて、「あ」っと、小さな声をあげ、目が釘付けになった。
「この人です。私が、見たのはこの人です」
「え?」
新聞の一面を飾っていた記事は、王都の貧民街の中でも更に人気のない一画で身元不明の女性の死体が発見されたと言う記事だった。女性の顔が全面に描かれ、身元不明と書かれている。しかし、女性は貧民街に住んでいるにしては、上等なワンピースをまとい、爪も化粧も髪の毛も、多少の乱れはあるものの、それなりにお金がかけられていたとのことで、万が一を考え、騎士団は身元不明のため女性の身元について情報収取を募っているとも記載されている。
「まさか、そんな……いえ、間違いありません。私が見たのはこの人です、ですがなぜ王都で発見されるのでしょう? 私があの時に見たのは予知夢の様なものだったのでしょうか? いえ、でもあの表情はリアルだったと」
ナズナは混乱を起こしているようで、頭を抱えて目を閉じた。
「冷静に考えましょう。ナズナさんがその、王都に戻って来る途中の町で見たのが間違いなくこの女性だと言うのなら、二つ疑問が浮かびます
1、彼女はどうやって王都まで来たのか? ナズナさんがホテルの窓から見た通り彼女が殺害されなら、死体の状態で王都まで一人でに歩いてきたと言うことはあり得ませんから。そうすると誰かが運んだと言うことになると思うのです。あと、
2、どうして彼女は殺されなければならなかったかと言うことです」
リリーはその二つの疑問を提示した後に、腕を組んで唸る。
コンコン。
控え目なノック音と共に、アリがさっとサロンの中に入って来ると、
「大変お待たせいたしました」
小走りに、部屋に入って来るとリリーに数枚の用紙を渡した。
「ありがとう」
リリーは受け取ると、何度か頷きながら目を通し、ナズナを見た。
「ナズナさんのお話されていた通り、その町で失踪したダンサーの女性がいるそうです。名前はヴァナ。彼女は町一番の踊り子ともてはやされてたそうですが、聖女様――つまり、ナズナ様たちの隊列が町で一夜の休憩を求めた後、ヴァナさんの消息もぱったりと不明になったそうです」
「女性一人の姿が見えなくなったと言うのに、どうしてこちらにはその情報は全く入って来なかったのでしょう? だって、命がかかわっているかもしれないのに」
ナズナは感情をこめてそう言ったが、リリーはそれをたしなめるように、
「その、ダンサーの女性が時折、失踪することはそれほど珍しい話ではないようです。その……気に行った男性と意気投合して町を抜けていく女性もあるそうですから。当時町に滞在していたのは、聖女様つきの騎士や、精鋭部隊の兵隊の方々です。ですから、その内の誰かと恋仲になり、出て行ったのではないかと町では噂になったようでして」
「なるほどですね」
ナズナは先程の思わず感情的になってしまった自分を恥じる様に、頬を少し染めた。
「ですが、今回の場合はそうではないでしょう。そのヴァナさんと言う女性の外見的特徴をこの新聞記事にのっている殺害された女性の特徴と、照らしあわせてみても恐らくほぼ同一人物と言えるでしょうし」
「じゃあ……」
「王都で発見された女性はヴァナさんでほぼ間違いないでしょう」
リリーはそこで言葉を切って、腕を組んだ。
「あの、もしかしたら必要ないかもしれないとは思ったのですが、一部こういった情報もありまして」
アリは考え込んでしまったリリーを見かねて、もう一枚紙を差し出した。
「ヴァナさんに関する情報ね。ダンサー仲間の女性によると、『最近金回りがいいのか、非常に高価な宝石や下着、ドレスを身にまとっている。いいパトロンがついたのかと聞くと、ヴァナは満面の笑みを浮かべた。しかし、この町の男ではヴァナにそこまでのお金を用意するこは出来ないだろう。となると、誰? ダンサー仲間の間で議論されたが誰として正解がの人物を言い当てることができなかった。だが、金回りの良さを考えると高位の騎士のだれかだろうとはいわれていた。今回、姿をくらましてやっぱりと思った。多分金払いのいい男について王都に向かったのだろう。恐らく、その高位の騎士と』なるほどね。そうか……」
リリーはさらに新聞の記事をめくった。
「聖女様の動向を知っているのはどんな人かしら?」
ナズナは妙な事を聞かれ首を傾げる。
「私の動きですか? そうですね、アンバー王国の作戦本部の方で特に高官とか、あとは私の護衛騎士はもちろんだけど」
リリーはその言葉にはっとした。
「これを見て欲しいのだけど」
アリが最初に持ってきてくれた方の書類をナズナに向けた。
そこには、ヴァナが親しくしていた男の名前がずらりと並ぶ。
「これを見た時に、ちょっと思ったのです。あまり聞いたことのない名前ですし」
”ザハリアーシュ”
その名前を目にした瞬間にナズナはまさかと大きく目を見開く。
「アリ。ナズナ様の護衛騎士の増員を要請と騎士団の手配を。急いで」
「かしこまりました」
緊迫した、リリーの声にもアリは冷静に対処すべく、部屋の外に向かった。
悟られてはいけない。サロンの扉の外に、すぐそこにいるのだから。
パタンと何事もなかった様に扉が閉まるが、ナズナは硬直した様にその場から動けずにいた。
「大丈夫です。このサロンの部屋は防音設備が整っていますので、外部に私達の声が漏れることは万が一にもありませんから」
「でもどうして彼が……? 戦地ではずっと私に付き添って、いつも私が歩く道すがら守ってくれていたのに」
ナズナのそこの言葉からもザハリアーシュに対して、並々ならぬ信頼を寄せていたのだろうと言うことは、たずねなくとも感じられた。
「わかりません。ただ、事実だけを照らし合わせて言いますと、ヴァナさんの懐があたたかくなったのは、その町にいた人ではなく、外部の人間の存在によるものだと言うこと。ヴァナさんにそれだけ潤沢にお金を渡せると言う点ではザハリアーシュさんは条件に合致します」
「でも、もしかしたら、ザハリアーシュとヴァナは愛し合っていたのかもしれませんわ」
ナズナの悲痛な言葉に、リリーは無残にも首を横に振った。
「もし本当に愛し合っていたなら、この新聞記事を見てザハリアーシュさんは騎士団に飛んで行ったでしょう。今、あの扉の向こうに居る訳がありません。恐らく新聞なんて見なくとも、身元不明の女性の遺体があったことは、彼の耳にも、もう既にとどいているでしょうし」
「でもじゃあ……どうして彼が?」
「多分、ザハリアーシュさんは、ヴァナさんに弱味を握られて、お金を揺すられていたのではないかと。その辺りについては本人に直接聞いた方がよさそうですが……」
「でももう一つ謎が。リリーさんも仰っていましたが、もし、あの町で殺人が行われたとしたら、どうやって王都までヴァナさんは? それとも王都で殺害されたと言うのが正しいのかしら……」
ナズナは頭の中が大混乱しているのか、目がうろうろと所在なく彷徨っていた。
「騎士様と聖女様の隊列には沢山の食品たちが一緒でした」
「あ」
ナズナの叫びに、リリーはこくりと頷く。
「食品を新鮮なまま運ぶためのシートを、ヴァナさんにも使ったとしたら? あとは包装紙などに包んで、食品だと適当に積み荷に乗せてしまえばわからなかったのでしょう」
程なくして、ネイルサロンに到着した騎士団と護衛騎士によって、ザハリアーシュは捕らえられた。
開け放たれた、扉腰にナズナはザハリアーシュの一挙一動を見守っていた。
一瞬ナズナの方をみた時に、
「なぜ、こんなことをしたの?」
悲しい声色だった。
「俺はただ、早く戦争を終わらせたかっただけだ。戦争が長くなれば犠牲をしいられる人が、住民たちが多くなる。そう思わないか? 聖女の居所を知らせるだけで、戦争が終わるならそうしたいとだた思っただけだ。だがあの女は、俺のその動きに気付いたらしく。何度も、戦争を終わらせるためには必要なことだと説得したが、聞く耳をもたなかった。だから仕方なく」
その言葉にはっとしたナズナは、
「じゃあ、戦地で私の動きが敵上にあたかも全て読まれていたかのように先回りされていたのは、貴方が情報を流したからなのね?」
ザハリアーシュは否定も肯定もせず、ただ皮肉めいた笑みを浮かべる。
「そのせいで、どれだけの自国の兵隊が傷つき、命を落としたと思っているのですか? 貴方はそこにいて知っているはずなのに。それでも、その命の犠牲も戦争を終わらせるのに必要なことだと言い張るのですか?」
ナズナの言葉が最後まで言い終わらないうちに、ザハリアーシュは騎士達に捕らえられ、そのまま連れられて行った。
ナズナには、別の護衛騎士がつくように残った。
「信じていたのに……」
泣き崩れるナズナを支えるように寄り添う、リリーはどう言葉をかけていいのかわからず、ただ、肩をさすり、そこにいることしかできなかった。




