エピローグ
お騒がせ勇者ご一行退場後も魔王の仕事は終わらない。港の復興に人材を派遣したり物資の輸送、また別に勇者の被害がないかの確認をしている。資料や報告を確認するだけとはいえ魔王には普段の仕事もある。机の上に溜まった書類は魔王に休憩を許さない。
「あぁ……なぜこんなに書類が……」
そうぼやくベルだが口だけ動かしても書類が消えるわけではない。しっかりと腕も動いている。
「魔王様、失礼します」
「……あぁ、マリアか」
そんな中、マリアが部屋に入ってきた。
「仕事の進み具合はどうですか?」
「見れば分かるでしょ?全然だよ」
そうぼやくベルの表情はどこか恨めしそうにマリアを睨んでいる。
「これが終わったらテールと川くだりしてやる」
「えぇ、構いませんよ。終わらせた後でしたら」
「はぁ……」
魔王は疲れたように溜め息を吐き出した。
「魔王様、休憩がてら、いい報告と悪い報告どちらが聞きたいですか?」
マリアが魔王を気遣いながら聞く。
「いきなりどうしたのマリア?」
ベルは怪訝そうな顔でマリアに聞いた。
「報告があるので、今しましょうかと」
「あ、そう……じゃあいい報告でも聞こうかな?」
魔王は少し悩んだがテールを見習いいい報告を聞いた。
「では魔王様。パソコンのほうに」
マリアは急かすようにパソコンに座るように要求する。椅子はマリアが引いた。ベルが座る。
「う、うん。座ったよ?」
マリアはマウスとキーボードで操作をする。ベルの動画が画面に映された。
「これ、僕の街動画」
「魔王様、この動画にコメントがつきました」
「えっ!」
ベルが驚いた表情をする。マリアは画面を指差し、コメントを読む。
「とても綺麗な風景です」
ただその一言だけだ。ベルの頬が緩んでいく。
「嬉しそうですね。魔王様」
マリアが言う。
「嬉しい?……うん、そうかもね」
ベルはマリアの言葉に頷くともう一度画面を確認した。
「……えへへ。コメントって、嬉しいものだね」
「そうですか。では、次のコメントの為にしっかりと続けていかないといけませんね」
「うんっ!」
ベルが大きく頷いた。そして指で点を指して言う。
「目指せ!有名配信者!」
「魔王様、目的が変わっていますよ」
マリアの言葉も、今のベルには届いていない。
こうして遠回りではあったが、勇者テールと魔王ベルの動画の頂点を目指す物語が始まった。
後日談として、ベルはしっかりと悪い報告も聞いた。
「それで、悪い報告は?」
「えぇ、魔王様の感動に水を差すようで悪いですけど」
マリアが溜めて言う。
「実はまだ、お金を手に入れられるほど再生されていないんですよ」
「……確かに、少ないもんね」
そんなマリアの言葉に魔王は、がっくりと肩を落としたのだった。




