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魔王、勇者と対峙する9

 中庭に三人が集まっている。魔王とテールが座る形でマリアが魔王の後ろに立っている。

「本日の紅茶はローズマリーです。お茶菓子はタルトです」

「うん、ありがとう」

 マリアはいつもの手馴れた手つきで紅茶を入れる。魔王はマリアにお礼を言った。二人は紅茶を口につけた。

「それでどう?この姿は」

 魔王が紅茶のカップをソーサーに置くと、テールに聞いた。テールはじっくりと魔王の姿を確認する。魔王の現在の姿は女性といってもいい。角と尻尾の形は同じだが、大きくなっている。体型も変わり出る所は出て凹む所は凹んでいる。

「あぁ、大きく変わったな」

 テールはしみじみと頷いた。魔王はテールの反応に対して嬉しそうに頷いた。

「それで、ビデオカメラが使えなくなったんだが、どういうことだ?」

 テールがビデオカメラを魔王に渡す。魔王は何が聞きたいのか理解したのだろう。あぁ、と頷いている。魔王はカメラを受け取った。

「撮れなくも動かなくもなったんでしょ」

「そう、動かなくなったんだ」

 テールが頷く。魔王はビデオカメラのパネル部分を弄りながらいう。

「さっきも言ったように、今のビデオカメラがガラクタ同然だからね」

「あぁ、確かにそう聞いた。これはガラクタだと」

「実はこれ僕の魔力で動いてるんだよ」

 魔王がそういいながら機械に魔力を込めていく。数秒後、魔力を込め終わった魔王がビデオカメラの起動スイッチを押す。ビデオカメラは起動音の後、淡い光を放ちながら動く。

 テールはどういうことだと魔王の顔を覗き込んだ。魔王は得意げな声で話す。

「異世界の機械達は僕の魔力で動いていてね!普段から僕の魔力が込められているんだよ!」

「普段から?」

「そう!普段から!だからこの世界でも、問題なく機械が動くんだよ!」

「なるほど」

 テールが頷いた。

「つまり、魔王の力なくしてこの機械は動かないと」

「まぁ、そうだね」

 魔王はテールにビデオカメラを返す。テールはビデオカメラを受け取った。そしてパネル部分を触ると問題なく動いた。

「確かに動くな」

「動かなきゃ困るからね」

 魔王は苦笑いを返す。そして少し困った表情で言葉を続けた。

「僕の魔力で動いてるから、この機械達を使っている時は、僕は真の姿になれないって事」

「ほう、そうなのか」

 テールはマジマジと魔王を眺める。テールの目には魔王の姿が少し縮んでいるように見えた。

少しの後、ビデオカメラが動かなくなる。魔王の姿が少し大きくなったように感じた。

マリアが説明をする。

「魔王様は魔力の殆どを、機械を動かす為に使っている為、小さいお姿になるんです。魔王様は今、力を解放している為に機械を動かす為に魔力を維持していないんです」

「なるほどな」

 テールは頷いた。魔王と勇者の戦いは魔王のコンディション的に取れないんだと。撮影の途中でビデオカメラが動かなくなるんだと考えた。

 まぁ、魔王自身に戦いを撮るという考えはなかっただろう。テールはそう考えた。

魔王がいう。

「所でテール。君はいつまで他人行事なの?」

「うん?どういうことだ?」

 魔王の発言にテールが首を捻った。魔王が言葉を続ける。

「テールいつまで立っても僕の名前を呼んでくれないじゃん」

「呼ぶも何も一回も魔王の名前を聞いた事がないんだけど」

「そうだっけ?」

 魔王が首を捻る。そして顔を上げるとマリアに顔を向けた。

「マリア、僕ってもしかしてテールに名乗ってない?」

「はい、魔王様は一回も自分の名前を名乗っていません」

「ただの失礼な人じゃん!マリアも教えてよ!」

「テール様も気にしていないようでしたのでいいかなと」

 マリアはしれっとした顔で言う。魔王はマリアを睨んだ。しばらく睨んでいた魔王だがはぁっとため息を吐きだした。

「まぁ、マリアの性格は今に始まったわけではないからね」

「はい、諦めてください」

 マリアが頷いた。魔王はガクッと肩を落とした。マリアがテールに耳打ちをする。

「テール様、ここは男らしく聞いてください。」

「男らしくって?」

 テールが聞き返す。

「魔王様はテール様に名前を呼んで欲しいのです。ここはテール様から聞くのがいいとおもいますよ」

「ふむ、それもそうか」

 テールはマリアの言葉に頷いた。そして魔王に近づく。

「魔王」

「どうしたのテール?」

 魔王が首を傾げる。テールはそのまま言葉を続けた。

「魔王、遅くなったがお前の名前を教えてくれないか?」

 魔王は少しびっくりした表情をすると、すぐに嬉しそうな顔に変わる。

「よく聞いていてねテール!僕の名前は!」

 魔王が胸に片手を、腰に片手を当て、胸を張り言う。

「僕の名前はベル!ベルだよ!これからはしっかりと呼んでね!」

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