魔王、勇者と対峙する5
様々な思想が入り乱れる勇者到来当日。魔王達は玉座の間にいる。
「遅い」
魔王が呟いた。マリアがそんな様子の魔王にため息を吐きながら言葉を返した。
「遅いも何も魔王様。まだ予定の時間ではありませんよ?」
「そうだけどさぁ……?」
魔王は玉座にだらしなく座っている。マリアがそんな魔王を咎めた。
「魔王様、だらしないですよ。もっとシャキッとしてください」
「そうは言うけどさー」
ぶーぶーと魔王が文句を垂れる。マリアはそんな様子の魔王を気にした様子もなく言葉を続けた。
「いいですか。魔王様は魔族の手本になるべき存在です。それがだらけていてどうするんですか」
「はいはい」
気のない返事を返す魔王。マリアはため息を吐いた。しばらく静寂が続く。その静寂を破るのは扉を開ける音だ。ようやく来たかと身構える魔王の目に映るのは国に帰ったはずのテールだ。
「テール!?帰ったんじゃないの?」
驚いた表情、声で魔王が言う。テールはしてやったりと表情を変えると転移札を取り出し目の前で破って見せた。
「残念、俺が選んだのは地位も捨てずに魔王と動画を取ることだ」
「どうして!テールにだって自分の暮らしがあるはずだよ!」
「約束したからな」
テールが笑う。魔王が驚いた表情を見せた。
「一緒に動画をとるって約束したからな」
「……うん!」
魔王が驚いた表情から戻ると、嬉しそうに頷いた。
「仕方ないなテールは!じゃあ僕ととことんまで目指そうか!」
魔王が胸を張っていう。
「トップ動画配信者に!」
「いや、資金を調達するんだろう?」
どうにも締まらないコンビ再結成の瞬間だ
「さぁテール!まずは僕の勇士を見ていてくれ!」
「わかった、分かったから落ち着け」
どこか興奮している魔王を宥めつつ、あれから少しの時間が立った。どうにも落ち着かないテールが魔王に聞いた。
「なぁ魔王。本当に大丈夫なんだろうな?」
テールの言葉に魔王は椅子に座りなおし、背筋を正すと少し偉ぶるように答えた。
「それはもちろん!僕を誰だと思ってるの!」
「一応魔王」
「一応って何……」
魔王はテールの発言に凹み前に項垂れた。マリアが肩を竦めて言う。
「魔王様に威厳がないからですよ」
「どうしたら威厳って出るんだろうね……」
マリアの指摘に魔王が顔を上げて疑問を口にする。その様子にテールは苦笑いを返した。魔王は背筋をただし足を組む。
「まぁ、テール安心して負けるつもりは一つもないから」
魔王は微笑む。それはみるものを魅了する蠱惑的な笑みを浮かべるが少女の姿でしかない魔王は背伸びをした少女に見える。
「似合わないぞ」
「知ってる」
テールの言葉に今度は子供らしい笑みを浮かべた魔王。テールも笑みを魔王に返した。
「そっちの方が似合ってるぞ」
「そう?ありがとう」
テールが笑顔を褒めると魔王はお礼の言葉を言う。どうしたものか、とテールは思考を廻らせた。
「お二方、お茶でもいかがですか」
マリアは何処からともなくテーブルを持ってくる。テーブルの上にはカップが二つにお茶菓子の乗った皿、そしてティーポットが乗っている。マリアが椅子を引くとテールと魔王は椅子に座る。マリアは椅子に座ったのを確認するとポットを手にとってカップにお茶を注いでいく。
「今日の紅茶はカモミールです。お茶菓子はクッキーを用意してみました」
「ありがとうマリア」
「あぁ、ありがとう」
テールと魔王はカップを受け取った順番にマリアにお礼を言う。
「えぇ、どういたしまして」
マリアはそのお礼の言葉を聞くと二人に対してお辞儀を返したのだった。
紅茶を一口口に含む魔王。ふぅっと息を吐き出した。
「ふふ、マリアの紅茶は美味しいね」
魔王がマリアの紅茶を褒める。
「えぇ、ありがとうございます。お茶の葉にもこだわっているんですよ?」
頬と唇の間に指をあて片目を瞑りお茶目に言うマリア。その様子を眺めながらテールも紅茶を口につける。
「……あぁ、確かに美味しいな」
「でしょ!マリアは紅茶を入れるのが上手いからね!」
魔王はテールの呟きを自分のことのように喜ぶ。テールは笑顔を返した。そしてクッキーを一枚摘むと口に放り込んだ。サクッという音を口の中で立ててクッキーが砕けていく。テールが首を縦に振り頷きながらいう。
「うん、美味しい」
「ありがとうございます。甘さはどうでしょうか?」
「俺としてはもっと甘さ控えめでもいいけど、普通に美味しいよ」
テールは自分の意見を言いつつもマリアのクッキーを褒める。マリアは何処からかメモを取り出してメモを取っている。
「テール様は甘さ控えめが好き、と」
「はいはい!僕は甘いのが好きだよ!」
「えぇ、知ってますよ」
「むぅ~」
魔王が便乗するように自分の好みを言うがマリアは知っていると魔王の言葉を流した。魔王はむくれた顔でマリアを睨むがマリアは気にした様子がない。マリアはテールに話しかける。
「では次は甘さ控えめのクッキーを用意しましょう」
「あぁ、楽しみにしているよ」
テールは片手を振りながらそう返す。マリアはその言葉を聞き嬉しそうに頷いた。
「えぇ、楽しみにしていてください」
マリアはそういいながらその場を離れ、扉から出て行く。部屋には魔王とテールだけが残った。一口、紅茶を口につける。
「ふぅ……」
魔王が息を吐き出した。テールが魔王に質問をする。
「んで、こんな所で息を抜いていいのか?」
「いいもなにも勇者達はまだここに来ていないからね。やることがないのが現状だよ。他の作業をしても中断されるだろうしね」
はぁっと、ため息を吐く魔王。魔王の言いたいことは分かる為テールもこれ以上追求をしない。もう一口、紅茶を口に運ぶ。
「ふぅ……。紅茶の御代わりでも貰おうかな……」
魔王がそう呟いた時、マリアが扉を開けて入ってくる。
「どうしたのマリア?」
魔王はマリアに聞く。マリアは落ち着いた様子で魔王に言う。
「魔王様、予定よりも早いですが、勇者御一行が到着しました」
「うん、ようやくか」
よっと掛け声を上げ椅子から飛び跳ねる。そして指を鳴らすとマリアが何処からか着替えを出し魔王に手渡す。
「うん、ありがとう。さて、僕を待たせるなんて万死に値するよ」
魔王はそういいながらマリアに手渡された気が絵を袖を通す。黒のロングコートで、材質は皮だ。魔王の背丈に合っていない為、裾を引きずる形になっている。
「魔王、似合ってないぞ」
テールが言う。魔王は振り返り笑顔で返した。
「知ってる!これから似合う女になるからまぁ見ててって」
魔王はそういって前を向きなおすと扉から出て行く。相変わらず裾を引きずる形だった。
「テール様、では後ろに下がりましょう。見学をする許可は魔王様からいただいていますので」
「あぁ、わかった。……もう一度聞くけど、本当に魔王で大丈夫なんだな?」
心配そうに言うテールにマリアはくすくすと笑いながら言う。
「テール様って本当に保護者みたいですね」
「仕方ないだろ?魔王が強いところを想像できないんだから」
テールは照れ臭そうに回答を返す。マリアがテールの鼻を突き言う。
「心配なのは分かりますが過保護すぎますよ」
マリアが笑う。
「あそこにいるのは正真正銘、私達の王なんですから」
マリアはそう言うと扉から出て行く。テールは少しの間呆けるが、すぐに思考を切り替えるとビデオカメラを手に取りマリアの後を着いていった。




