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勇者、魔王と対峙する4

 時は少し遡り、二日目の朝になる。

「うわぁ、酷い有様」

 魔王が呟く。魔王が着いた時には港は酷く荒れていた。崩れた建物の中から見える家具の手入れの具合から、つい最近まで人が住んでいたことがわかるが、街の様子だけなら人が住んでいるとは考えられないくらいに壊れていた。

「魔王様、申し訳ありません……」

「いや、君達が無事なら嬉しい」

 魔王は酷く疲れきった表情の男にねぎらいの言葉をかける。男の表情が少し緩やかになった。

「ありがとうございます……幸いにも死者が出ていないので、誰一人悲しい別れをしていませんが、復興のことを考えると……」

「それは仕方ない。後で手伝いを派遣しておこう」

「ありがとうございます」

 男は深々と頭を下げた。

「いいよいいよ。困った時はお互い様だ」

「はい」

「じゃあ、案内お願いできる?」

「かしこまりました。こちらです」

 男はそう言うと歩き出す。魔王はその後ろを付いていった。

「これは、予想よりも被害が酷いかな……」

 魔王の呟きは、誰の耳にも入らなかった。魔王の視線の先には怪我をした人や休む場所をなくした人々で埋め尽くされた難民所だ。

「食料の方は?」

「それが……勇者達に根こそぎ持っていかれまして……」

 男が表情に影を落とす。難民に回る食糧事情の心配の色が伺える。

「食料の方は僕が用意しよう」

「重ね重ねすいません」

「いいよ。今は非常事態だ」

 頭を下げお礼を言う男に魔王が言う。

「さて、後は勇者だけかな」

 魔王はそう呟くと住人一人一人の様子を伺いに向かった。


 所変わって港から遠く生茂る木々の中、背の小さい男、背の高い男、太った男の三人組が木に座っている。

「おい!モチ!」

 背の小さい男が大きな声で太っている男に怒鳴る。びくんっとモチと呼ばれた太っている男は体を跳ねた。

「なぁに、兄貴!」

「お前一週間分の食事全部食っただろ!」

「そそそ、そんなわけないだろぉ?」

 兄貴と呼ばれた背の小さい男に指摘された内容に、モチはどもりながら答えた。

「まぁまぁクズの兄貴!モチだって悪気があったわけじゃないんだから」

 背の小さいクズと呼ばれた男を、背の高い男がモチを庇うように宥める。

「ちっ!別にモチの食欲考えれば仕方がないのは分かるがな!一週間分だと街で漁った時に俺は言ったよな!」

 クズは頭をかきむしりながら言う。

「い、いいんだキリの兄貴……食べた俺が悪いんだな」

 モチも背の高いキリに自分が悪いという。

「あー!もう!」

 クズは唸るとモチを攻めることは止めた。

「キリ!食料の目処は立っているんだろうな!」

「そりゃもちろんだ、兄貴。街で余分に確保しといたよ」

 キリはそういいながら腰にかけた袋から食料を取り出す。モチは自分はこれ以上起こられないと安どの表情で頷いた。

「キリの兄貴は、さ、流石なんだな」

「おいモチ!今回は許すが次、同じ事したらどうなるか分かってんだろうな!」

 そんなモチの態度にクズが怒鳴る。モチはおどおどしながらも返事を返した。

「は、はい!わかっています!」

「まぁまぁ、兄貴も落ち着いてさ」

 キリが再びクズを宥める。クズは舌打ちを返すとキリに手のひらを差し出す。

「キリ!俺の食料!」

「はいはい、今渡しますよ」

 キリは慣れたという態度と手馴れた手つきでクズに食料を渡す。クズはその食料を掻き込んだ。

「あ、兄貴。味わって食べないと背が大きくならないよ」

「うるせぇ!俺の年でこれ以上大きくなるか!」

 モチの言葉にクズが怒鳴り返した。キリはその様子を笑いながら自分の分の食料を食べる。

「にしても、ここまで来たんだな……」

 キリが呟く。クズはそんな様子のキリを鼻で笑うと言葉をかけた。

「当たり前だろ?俺達には金がいるんだ」

「あ、兄貴。その言い方はお金の亡者みたいだ」

「うるせぇ!」

 モチの指摘にクズは怒鳴り返した。キリは笑いながら言う。

「確かにモチの言う通りだ。金の亡者みたいだぞ、兄貴」

「はんっ!なら何も間違いないんじゃないのか?俺達の目的の為にお金がいるのは分かりきったことだ!」

 クズは続けて言う。

「魔王を倒せば金が手に入る!俺達はその金が必要なんだろ?違うか?」

「いいや違わないさ」「うん、そうだね」

 キリとモチが同時に答えた。クズはその返事を聞き嬉しそうに頷いた。

「なら食料のあるうちにさっさと魔王を見つけて倒し、ずらかろうぜ」

「おう」

 こうして勇者三人組の夜が更けていく。魔王との死闘はすぐそこだ。

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