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魔王、勇者と対峙する3

「一桁……一桁……」

 午後。午前ほどの元気さを魔王は持っていない。ただ自分の動画の結果に愕然としている。

「あー、なんだ。これから増えていく可能性もあるんだから、元気出せよ」

 テールはそんな魔王に慰めの言葉を掛ける。依然と魔王の思考は動かない。どうしたもんかとテールが思考を廻らせる。

「……魔王」

「あー……?」

 テールの呼びかけに力なくも魔王が答えた。テールは頭の後ろを掻いた、

「なぁ、魔王、もっと再生数が伸びるもんだと思ってたんだろう?」

 魔王が頷く。

「あー、その、どんまい」

 テールのその言葉を聞き、魔王が糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちた。テールはその様子を気にしつつも言葉を続けていく。

「魔王はここで崩れ落ちたままでいいのか?」

 ピクッ!魔王の体が反応する。

「俺といい動画取るんだろ?」

 魔王が顔を上げテールの顔を見る。

「いい動画を取った。そう思ったんだけどね……」

 ぼそり、魔王が呟くように吐き出した。テールはその言葉に力強く頷いた。

「あぁ、魔王が頑張っていたのは一緒に動画をとった俺が知っている。だから、今やることって落ち込むんじゃなくてさ、反省することなんじゃないか?」

「反省?」

「そう、反省。何が駄目だったとか、ここをこうしたらいいとかそういう話をいかないか?」

 テールが手を差し伸べる。魔王はテールの手を取ると立ち上がる。

「反省……反省ね……」

「ここで終わるわけじゃないんだろう?」

 その言葉に魔王が頷く。

「じゃあ、俺も一緒に反省するから、今から反省会といかないか?」

「うん」

 テンションは決して高くないが、確かな表情で力強く魔王が頷いたのだった。


「テール様、魔王様、夕食の時間です」

 夕日も沈み辺りが暗くなる時間。マリアが二人を呼びに来た。

 魔王とテールの反省会は実に6時間も行われた。動画を見返したり意見を出し合ったりと二人にとっては有意義な時間だったのだろう。二人が時間を認識したのはマリアに声を掛けられてからだ。

「うわっ!テール見て!外が真っ暗!」

「本当だ。もうそんなに時間が経っていたのか」

 二人のこの反応も仕方のないことなのかもしれない。マリアが再び声を掛ける。

「夕食の時間です。すでに食事の用意ができていますので席に座ってお待ちください」

「はーい」「あぁ、わかった」

 テールと魔王はほぼ同じタイミングで返事を返した。そしてマリアの言う通りに先に席に着き夕食の準備を待った。マリアの言葉通り夕食の用意はされており、すぐに用意がされたのだった。

「いただきます」

 食事の挨拶の後、3人は夕食に口をつける。一口二口と口を付けていき食事が進んでいく中、魔王が口を開く。

「テール、明日勇者がここに来る」

 ガタッ!テールが勢いよく椅子から立ち上がる。テールの表情は食事を口に運んでいた時とは打って変わって、緊迫とした表情をしている。

「こんなことしてる場合じゃないだろ!」

「落ち着いて」

 魔王がテールをなだめる。テールと魔王はしばらくの間睨み合うがテールが観念したのか、椅子に座った。

「テール、もう一度言うよ。明日ここに勇者がくる」

「あぁ、さっきも聞いた。勇者と戦うというのに暢気だな」

 テールの態度は不機嫌で言葉には棘が見える。魔王はその棘を気にした様子もなく話を続ける。

「そうでもないよ。ただ住人の避難も勇者の誘導も終わってるだけ」

「住人……?」

 テールが疑問を呟く。

「そ、住人。もう既に港が滅んでいるからね。死人が出ていないのが幸いだよ」

 魔王の言葉にテールは苦虫を潰したような表情を作る。自身も勇者の一人である事はテール自身深く理解している。テールは頭を下げた。

「それは……すまない」

「何、テールが謝ることは何一つないよ。悪いのは実際に滅ぼした勇者だ」

 テールの謝罪も魔王は気にした様子もなく流す。依然としてマリアは口を閉じたままだ。

「それで、そのことを俺に話してどうするんだ?手伝って欲しいとでも?」

「いや、テールにも勇者としての立場があるのはわかっているよ。」

 そういいながら魔王はテールに見えるように一枚の札を取り出す。

「だからテールには転移札で国に戻ってもらおうと思ってね」

 魔王はそうあっけらかんに言う。テールはテーブルを叩く。

「それはどういうことだ!俺が裏切るとでも!?」

「マリアも僕もテールが裏切るなんて思っていないよ」

「なら俺だって戦えるさ!これでも……」

「テール」

 テールの言葉を魔王が遮る。魔王の雰囲気が変わったのをテールは肌で感じ取った。

「僕はテールが裏切るとも戦えないとも思っていない。ただテールに今の立場を捨てて欲しくないだけだ」

「それは甘いんじゃないのか!」

 テールの反論。魔王は首を縦に振った。

「確かに甘いかもしれない。けど他人を気遣う甘さもなく誰かを引っ張れる立場に立てるとでも?」

「テール様」

 マリアが口を開いた。

「魔王様がテール様に頼んだことはなんでしょうか?」

「それは動画を取ることだろ?」

「えぇ、そうです。決して魔族の大陸に攻めてきた勇者を倒すことではありません」

 マリアの言葉にテールは少し考える。

「確かにそうだな……」

「はい、納得してくださいとは言えませんが、私達はテール様に戦闘を期待していません」

「うん。だからテール、僕と勇者の戦いに手出しをしないでくれ」

 テールは少し考える。そして納得していないという表情だがしぶしぶと頷いた。

「あぁ、分かった」

「うん、ありがとう。じゃ、どうぞ」

 魔王は力強く頷きテールに転移札を渡す。テールは転移札を受け取ると魔王に質問をする。

「にしてもどうして今まで黙っていた」

「やるべきことをやってて話す暇がなかった」

 魔王がため息を吐き出しながら言う。マリアが補足を入れた。

「魔王様は昨日の内に避難所を巡り住人の安否を確認していました」

「その間にマリアには勇者誘導の為の指示を兵士達に出してもらっていたんだよ」

「気がつかなかった……」

 確かに昨日、顔を合わせた時間は朝昼晩の御飯時だけで、それ以外の時間をテールは鍛錬や読書に当てていた。テールが気がつかないのも無理がない話だろう。

「ばれないように行動はしていたからね」

「それでも、気がつかれると思っていましたが」

 マリアの言葉にテールが首を捻った。マリアの言った言葉の意味を聞こうとするとマリアが明日わかりますといい、答える気はない。

「わかった。話す暇がなかったんだな。それにしては今日、相当肩の力を抜いていたようだが」

「安否の確認が出来てホッとしたのもあるし、回りつかれて息抜きがしたかったというのもあるかな?それに誘導はしっかり出来てるから、焦っても意味がないんだよね。気を張り詰めすぎたら明日まで持たないよ」

 魔王が言う。テールはそういうものかと納得をして頷いたが、少しの間の後、ハッとした表情で魔王の顔を見る。

「魔王……お前死ぬ気じゃないよな……?」

 魔王はテールの表情、言葉を見て嬉しそうに表情を崩した。

「まさか、勇者達なんかに殺されるわけないよ」

 魔王はそう肩を竦めていう。

「本当か?」

「本当本当!テールが僕の真の姿を見たことがないから心配なのは分かるけど、明日は僕の全力だよ」

 がおーっと両手を上げふざけている魔王。そんな態度の魔王にテールは文句を垂れる。

「ふざけている場合じゃなくてさ!」

 魔王は自身の唇に指を当てる。

「どんなに焦ったって変わらないんだから肩の力抜いてさ」

 そして落ち着くようにとテールにいった。テールは渋々と黙ると魔王が言葉を続けた。

「それにさ」

 魔王が笑う。

「死者がいないだけで僕の町を潰した相手だ。殺しはしないけど許す気もないんだ」

 そういう魔王の表情はテールの中で一番魔王らしい笑みだった。

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