魔王、勇者と対峙する2
2日後のお昼頃、魔王がスキップをしそうなほどご機嫌な様子で歩いている。その後ろをテールが着いていく。
「ふふふーん」
「ご機嫌だな」
テールが魔王に言う。魔王は振り返ると後ろ向きに歩きながら話す。
「楽しみだからね!」
その様子に肩を竦める魔王のご機嫌具合にはテールも心当たりがある。街紹介の動画をマリアが昨日の内にインターネットに投稿しといてくれていたのだ。魔王とテールはその動画の再生数を確認しに行く所だ。
「そんなに急がなくても結果は逃げないからな」
テールは魔王を宥める。魔王は体の向きを前に戻す。
「はーい、わかっているよー」
魔王はそう返事をするが足取りは変わらずだ。そんな魔王に思わずテールも苦笑いを浮かべた。
コンコン、目的の部屋の前に付くと魔王が扉を叩く。
「はい、開いていますよ」
そのノックに、先に部屋で準備をしてもらっていたマリアが答えた。マリアは既に午前の仕事を全て終わらせている。魔王が扉を開け、テールがそれに続く。部屋はこじんまりとしており、家具は机と椅子、そしてパソコンだけだ。
「いらっしゃいませ。そろそろ着く頃と思いお茶の用意は済んでおります」
マリアはそう言うとどこからかカップを取り出しお茶を入れていく。
「ありがとう」
テールと魔王はお礼を言うとマリアから紅茶を受け取り一口。魔王上にきた時に飲んだ紅茶の味がした。
「ふぅ……」
テールが息を抜く。マリアは二人が一段落着いたのを確認すると話を進めた。
「御二人方のご用件はわかっています」
マリアはそう言うとキーボードを弄る。カタカタカタとキーボードを叩く音だけが響く。最初に口を開いたのはマリアだ。
「いいお知らせと悪いお知らせ、どっちを先に聞きますか?」
「いい知らせ!」「悪い知らせで」
マリアの質問に答える。もっとも、二人の回答は別々の回答だったのだが。二人が顔を見合わせる。
「どうして悪いお知らせからなの?」
「心構えの問題だ。仕事柄どうしてもいい知らせより悪い知らせを知っておかないといけなかったからな」
魔王は納得をした表情を見せる。次にテールが魔王に質問をした。
「そういう魔王はどうしていい知らせからだ?」
「話の流れからして僕の動画のことでしょう!それを楽しみにしていたんだもん!」
胸を張りながら主張をする魔王。テールは魔王の話に頷くとマリアに言葉を投げかけた。
「じゃあ、マリアに決めてもらうことにしよう」
「わかりました」
マリアは自分の主たる魔王の回答から答える。
「では、いいお知らせですが私が普段視聴しているゲーム実況者の新作が上げられました」
「何処がいいお知らせだ!」
マリアの回答にツッコミを入れたテールだがこれも仕方のないことだろう。
「後で私がしっかりと見ておきますのでご安心を」
マリアは何事もなかったかのような顔でそういう。テールが呆れた視線を送るが知ったことではないという顔だ。
「はぁ……」
テールがため息を吐いた。そしてすぐに質問をする。
「それで?悪いお知らせはなんだ?」
マリアがパソコンの画面を指差す。
「この画面を見てもらえばわかると思います」
テールと魔王はマリアの言う通りに覗き込むように画面を見た。画面には魔王の動画が映っている。
「もしかして……」
魔王がぼそりと呟いた。マリアはそんな様子の魔王を気にした様子もなく言葉を続ける。
「魔王様の街動画、再生が一桁です」
「一桁!?何かの間違いじゃないの?」
「いいえ、一桁です」
思わず聞き返した魔王。マリアはそんな魔王にはっきりと告げる。その言葉に魔王が膝から崩れ落ちた。
テールの視線には魔王の街動画が映っており、再生数は確かに一桁だった。




