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勇者、魔族の町へ行く11

 二人が辿り着いたのは広場だ。御輿の周りほどではないが人や屋台による賑わいを見せている。その広場には噴水が設置されており運がいいことに噴水の水が、水の音だけをその場に残し空へと上がっていた。


 その噴水を眺めている少女が一人。魔王だ。テールはすぐに声を掛けた。


「おーい!魔王―!」


 しっかりと聞こえたのだろう。魔王がテールたちのいる方向に振り向く。


「あ、二人とも……」


 何も考えずにただボーっとしていたのだろう。魔王の反応は淡々としていた。しかしテールの顔を見てハッとした魔王が、首をふるふると横に振る。そして顔を変える。あからさまに私不機嫌ですという顔だ。魔王の目の前に立ったテールが頭を下げる。


「魔王。ごめんな。俺が大人気なかった」


「何、テールは謝ることでもあったの?」


 あからさまな挑発だ。魔王の表情からも分かるように魔王は謝る気がない。テールはそんな態度の魔王に苦笑いを浮かべる。


「あぁ、俺も悪かったからな」


「ふーん」


 魔王の興味さげな頷きにマリアの雰囲気が変わるのをテールも感じ取った。魔王は気にした様子もなく続ける。


「それで、何が悪かったと言うの?」


「何が悪かった?そうだな……」


 テールは魔王の質問になんて答えるべきか考える。魔王はそんな様子のテールをハンッと鼻で笑った。


「ほら、何が悪いかすぐに言えないって事は、自分が悪いなんて思ってないってことじゃないか」


「魔王様」


 テールを攻める魔王の声。そんな魔王を咎める様にマリアが言うが魔王は気にしない。


「そんな奴に謝られる筋合いなんか何一つないんだよ?」


「魔王様」


 止めようとする声に止まらない声。魔王が再びテールを攻める。


「君が」


「魔王様!」


 マリアの声が大きくなる。流石に無視するわけにもいかない為、魔王はマリアに向き合った。


「何」


「魔王様、落ち着いてください」


「落ち着いているよ」


「いいえ、落ち着いていません」


 マリアが力強い言葉で言う。流石に無視するわけにもいかない魔王は口を閉じマリアの言葉に耳を傾けた。


「魔王様、嬉しいのは分かりますがテール様に甘えないでください」


「甘える?この僕が?」


 魔王がマリアの言葉を鼻で笑うが、マリアは気にせず続けた。


「はい甘えています。普段の魔王様なら決してしないようなことをテール様にしています」


 マリアが言葉強く言う。魔王が口を開き反論をする前に、マリアが次の言葉を口から出した。


「そもそも魔王様はテール様に頼んだのですよ?その態度は何ですか」


「なっ!僕がおかしいというの!」


「はい。そもそも魔王様は就任して以来一回も感情に任せて怒ったことがありません。それを甘えると言わずしてなんというのでしょうか?」


 マリアの言葉に流石の魔王も口を閉じた。


「そもそも、テール様はお礼を言われることはあれど攻められる筋合いはないんですよ?それに魔王様から謝るべきなのです。なぜテール様から謝るのですか。百歩譲ってテール様から謝るのは言いとしてなぜ魔王様は謝らないのですか。」


マリアの言葉は止まらない。


「少しは反省したらどうですか。テール様の爪の垢でも煎じましょうか?何ですかあの態度は。貴方は上に立つ人物なんですよ?ちゃんと頭を下げられないでどうするんですか。そもそもあの時も」


「わかった!分かったから!僕が悪かったから」


 終わる気配を見せないマリアの攻撃に魔王が値を上げた。マリアは魔王の態度をまだ許せないようで不機嫌だと言う雰囲気を醸し出している。テールはそんな様子を苦笑いで見ていた。


「……まぁいいでしょう。謝るべきは私ではありませんよ。テール様は喧嘩したすぐ後に反省して、魔王様に謝る気でしたよ」


 マリアのその言葉に冷静になった魔王はバツが悪そうに顔をゆがめた。そしてテールに振り向き顔を見据えると頭を下げた。


「ごめんなさい」


「あぁ、気にしていないよ」


「テール様、甘やかさないでガツンと言ってやってください」


 マリアの容赦のない一瞬反応に困るテールだが少し考えると魔王に向かって手を伸ばした。


「なら一言。魔王、勝手に迷子になるなよ」


「わっ!」


テールは頭を下げている魔王の頭をわしわしと撫で回した。魔王は少しの間されるがままだったが、顔を上げると同時にテールの手を払いのけた。


「僕は魔王だよ?その扱いはどうなの」


「それなら魔王らしい行動をするんだな」


 お小言を言う魔王にテールは冷静に返した。


「まぁ、嫌なら次からはやらないけど」


「嫌って訳じゃないけど……僕は魔王だよ?」


「そんなこと言ったら俺は勇者だぞ?」


 しばしの沈黙。先に口を開いたのは魔王だ。


「魔王の僕にそんなことする人初めてだよ?」


「魔王も何も代わらないさ。俺の目の前にいるのは、村の子供と変わらない年頃の少女にしか見えない奴さ」


 魔王はテールの言葉に笑いながら返した。


「ふふふ、なにそれ」


「用は俺から見たら子供だって事だ」


「そっか……」


 感慨深そうに噴水を眺める魔王と、それに付き合うように座り噴水を眺めるテール。


「僕を子供扱いしたのは、君が初めてだよ。仮にも魔王だよ?」


「そうか、よかったな」


 再びの沈黙。次にその沈黙を破ったのはテールだった。


「なぁ……」


「うん?」


「いい人達だな」


「そうでしょう?皆明るくて、元気で、僕のことを慕ってくれているんだよ……?」


 噴水を眺めたまま。しかし声は自分の子供を自慢している親のように街の住人を褒める。


「あぁ、いい人たちだ。住人は明るく、俺が敵対している種族だというのに、気にした様子も無く受け入れてくれているんだから」


「案外、皆気づいていないだけかもよ?」


「はは、かもな」


 二人は笑顔を作り笑いあう。勇者と魔王という凸凹コンビだが、きっと通じ合うものがあるのかもしれない。ひとしきりに笑いあった後、テールが言う。


「次は村の皆を連れてきたいもんだな」


「連れてくればいいよ。僕は大歓迎だ。いい町だって大いに宣伝してくれ」


 テールの夢に魔王が頷く。そして魔王が冗談を言う。テールはその言葉を決して馬鹿にせず、頷いた。


「あぁ、いい町だって、しっかり言っておくよ」


魔王がテールの表情を見る。テールの表情は真剣で、魔王は思わず笑みを深くした。


「ふふ、ありがとね」


「どういたしまして」


 二人は小さく笑いあったのだった。

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