勇者、魔族の町へ行く8
「ごめん、頭に血が上っていた」
「謝るなら私ではなく魔王様にです」
マリアが言う。二人は魔王が飛び出していった場所の近くのベンチに座っている。魔王に対してテールは冷静的で、近くにいるマリアに謝っていた。
「あぁ、そうだよな。さっさと探して謝らないと」
「その調子です」
マリアが励ます形になっているが、二人は居なくなった魔王の話をしている。
「……テール様は、あそこまで喧嘩した魔王様と仲良くできるのですか?」
「うん?」
マリアの声にテールが顔を向けた。マリアの表情は山羊で分かりにくいが、不安の色が見える。
「そうだなぁ。多分、仲直りは普通にできると思う」
「でも、魔王様とテール様は種族が違うんですよ?」
あぁ。テールが納得をする。マリアは未だにテールと魔王の大きな違いに悩んでいるのだと。しかし今のテールにとっては答えは簡単だった。
「それだけのことだろ?」
「それだけのこと?」
「あぁ、それだけのことだ。だって人族と魔族、勇者と魔王の前に、俺と魔王は動画を作ると約束してるだろ?ならそれだけなんだよ」
テールはそう笑いながら言う。魔王とテールの間に大きな違いはないと。マリアは安心した表情で溜め息を吐いた。
「えぇ、そうですね」
「あぁ。それに魔王ってどことなく村の子供に似ているんだ」
テールが頷きながら言う。マリアが首を捻りながら言う。
「村の子供に?」
「あぁ、村の子供に。見た目もあるのかもしれないけど、何処となく背伸びをしたい子供に見えるんだ」
「なるほど」
マリアがテールの言葉に納得したように頷いた。
「あぁ、だからほっとけなくてな。今回の喧嘩だって、魔王が癇癪を起こした子供に見えてな」
「えぇ、わかりました」
あぁ、あそこまで喧嘩をした相手である魔王様に対して、テール様は何処までもお兄ちゃんなんだな。マリアは納得したように頷いた。
「では、魔王様にしっかりと謝らないといけませんね」
「あぁ、そうだな」
テールは満足そうに頷いたのだった。
「はい。では、肝心の魔王様は何処にいったのでしょうか」
テールと喧嘩をした肝心の魔王を見失った。その事実に二人が考え込む。
「困りましたね。これでは魔王様の状況が分かりません」
マリアは困ったという表情をせずに困ったと口で言う。魔王が何処にいるか分からない状況なのだから困っているというのは本当なのだろう。どうにも山羊の頭で表情が分かりにくい。
「マリア、お前は魔王の側近なんだからさ。この街で魔王が行きそうなところとかわかるんじゃないのか?」
テールがマリアに疑問を投げかける。
「えぇ、普段なら魔王様はよく甘味所に行きます。しかし今日は屋台が多いため、特定の甘味所にいかなくても甘いものが食べられますから」
「あぁ、別に店で食べる必要がないからな」
マリアは質問に答え、テールはその回答に納得をした。マリアはすぐに言葉を返した。
「えぇ、ですから魔王様が何処にいるのか私には分かりませんよ?」
「楽しいお祭り屋台も人を探す時は障害になるって事だな」
「えぇ、申し訳ありません」
マリアが綺麗にお辞儀をする。テール自身マリアのせいではないことは分かっているのでマリアの行動に対して反応に困った。
「マリアが悪いわけではないことは分かっているから大丈夫だ。ほら、さっさと魔王を探すぞ」
「かしこまりました」
テールはマリアにフォローをいれ魔王の探索に向かう。マリアも返事を返すとテールの後に続いた。




