勇者、魔族の町へ行く6
「ふふ、いい感じに撮れているんじゃないかな?」
これまでの動画を見返している魔王が語尾に音符が付きそうなほど言葉を弾ませる。そして嬉しそうに笑いながらテールに言った。今の時間は食後の休憩、場所は中央広場の噴水前だ。噴水の前に設置されたベンチで魔王とテール、マリアの三人は休憩を取っている所だ。
「いやぁ、それはどうなんだろうなぁ……」
言葉を濁してテールは返した。マリアに目玉のシーンはカットするようにテールは言っている。その言葉に対する負い目もあって目を逸らしてしまった。
「うーん、どこか駄目な所でもあったかな?」
魔王が首を傾げて聞く。何処が悪かったのか。魔王はそれが分かっていないという顔だ。悪かった所を知り改善するという意気込みが感じられる。ただテールとしても言いにくいことだ。テールは話を逸らした。
「そ、そういえば、この国では姿形が違う人達が共存しているみたいだが、そのことで問題が起きたりはしないのか?」
魔王はテールが話題を逸らしたとジト目でテールを見るが気持ちを切り替えたのだろう。ため息を吐くとテールの質問に答えた。
「彼らは自分達が互いに違うことを知っているからね」
「なるほど……魔族とは自分とは明らかに違う他人を尊重できる人達なのか」
テールが納得した様子で頷く。そしてとても平和的な種族じゃないかと感心もした。そんな態度のテールに対してマリアが補足を入れた。
「いえ、右を見ても左を見ても違う姿の型ばかりなので、慣れただけです」
「俺の感心を返してくれ」
テールがうなだれた。慣れたという言葉も明らかに人の顔をしていないマリアが言うのだから説得力が増す。そしてマリアを気にしない通行人の姿を見れば尚更だ。魔王が指をくるくると回しながら言う。
「あははは、仕方ないって、僕らにとって違うことが当たり前なだけなんだよ?人族だってさ、小さい頃から獣族と暮らしている人たちは獣族を受け入れてるでしょ?それと変わりないと思うよ?」
「なるほど。確かに仲良く暮らしている国もあったな」
テールが頷く。魔王が言葉を繋げた。
「逆に国自体が獣族と馴染みがないから受け入れがたい雰囲気が国全体にあるって話も聞いたりするよ?」
テールは重たい雰囲気を纏い黙った。テール自身がその目で見てきた光景の一つだ。なら、魔王とマリアが言ったように魔族と親しみのある人族が一人でも多ければ、勇者達と魔王の戦いはなくなるのではと、テールは考えた。
「どうしたのテール?」
魔王がテールに声を掛ける。テールは魔王の言葉で考えを止めた。
「いや、なんでもない」
テールはそういって心を持ち直す。魔王は首をかしげた。
「それで、何か用でも?」
テールが口を開く。魔王は頷きを一つ返すとすぐに言葉を返した。
「テール!僕、あそこに行きたい!」
魔王はそういいながら指を指す。その先にはただの道が続いているが、耳を済ませると音が聞こえてくる。
「音が聞こえるでしょ?それが気になってね」
魔王は嬉しそうに頷きながら言う。テールが呆れた表情を見せる。
「遊びに来たわけじゃないんだろ?動画は撮らないでいいのか?」
テールの言葉に魔王はむっとした表情を見せる。
「僕が遊んでいるとでも?」
「そう言ってるわけじゃない。ただ目的があるのに、考え無しに見て回っていいのかってことだ」
テールがすぐに言葉を訂正するが、魔王の機嫌が直るわけではない。
「今度は僕が考えなしとでも言いたいの?」
「だからそういうわけじゃないって」
「ならどういうわけ!」
魔王の言葉尻が強くなる。何もここまで言われる筋合いはないとテールの言葉も次第に強くなっていく。
「どういうわけも何も、お前は動画を撮りに来たんじゃないのかよ!」
「そうだよ!僕はこの町に動画を取りに来たんだよ!」
「なら!どうして興味を引かれたことに向かう!」
「動画になるかもしれないじゃない!」
二人のテンションは有頂天だ。ヒートアップの結果、どちらも引くに引けない状況になっている。
「魔王!お前は自分勝手だ!」
「あぁそうかい!魔王だから自分勝手に決まっているさ!テールの馬鹿!もう知らない!」
「あぁ!知らないなら結構!」
「落ち着いてくださいテール様」
魔王は人ごみの中を走り去って消えた。マリアはテールを宥める形で残り、マリアはテールと、魔王は一人の二つに分かれた。




