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勇者、魔族の町へ行く4

「皆さん!おはようございます!こんにちは!こんばんは!皆さん元気ですか!私は今日も元気です!今日も一動画をやらせていただこうと思います!このチャンネルの主、配信魔王です!」


「待て」


 テールが魔王の元に戻ると魔王は動画の開始を飾る言葉の練習をしていた。内容はテールが魔王を最初に見たときに話していた挨拶の言葉だ。そんな魔王の挨拶にテールの待てが入る。


「うん?お帰りテール。どこか可笑しい所でもあったかな」


 魔王が首を傾げる。どこも可笑しい所はなかったはずだと。テールはそんな魔王に首を振ってから答えた。


「いや、可笑しい所はない。可笑しい所はな。ただ、前にも言った通りその挨拶が長いと思うんだ」


「ふむ……テールにとってこの挨拶は長いって事かな?」


 魔王がテールの言葉の意味を考えるように復唱をした。


「あぁ、そうだば。俺としては挨拶なんだし、もっと分かりやすく簡単でいいんじゃないか?」


「確かにそうだね。じゃあ試しにやってみようか」


 そう言うと魔王は可愛らしく、こほんと咳払いをする吐息を整えた。


「皆さんこんにちは!配信魔王です!」


「うんうん、わかりやすくていい感じだ」


「今日は皆さんの目には珍しい異世界の街を案内して行こうと思います」


「先ほどの長ったらしい挨拶よりよっぽどいい。」


 今回の挨拶はいいと、テールはしきりに魔王を褒める。魔王は気をよくして胸を張り鼻を高くする。


「それじゃ、本番行ってみよう。」


「うん!カメラは任せたよ!」


 テールの言葉に元気よく返事を返した魔王は、テールにカメラを渡すと深呼吸を一つ。テールは魔王の合図を待ち、魔王の合図と共にカメラを回した。


「皆さんこんにちわ!配信魔王です!今日は皆さんの目には珍しい異世界の街を案内して行こうと思います!」


 テールはカメラを魔王から動かし街の風景を撮る。そして、テール自身がぐるりと回りきると再び魔王を映し出した。


「いい風景でしょう?私もよくこの街を探索したりします。では、この街の魅力を皆さんに知ってもらう為に、まずは街の人に話を聞いてみましょう。そこの方、今大丈夫でしょうか?」


「はい!大丈夫ですよ!」


 魔王に声をかけられたのは魔族の青年だ。テールが魔族の青年を映すようにカメラを回すと、青年はカメラに向かって元気よく答えた。魔王が聞く。


「では、貴方の住むこの街の魅力とは何か!教えていただけますか?」


「はい!この街は私達魔族が暮らしやすいように出来ている街です!」


質問の内容に対してその回答はどうなんだろうとテールは首を捻るが、まぁ問題はないだろうと追求はしないことにした。きっとマリアが事前に指導を入れているはずだから大丈夫だろう。テールはそう考えた。


「ふむふむ、では貴方達魔族の住む街とはどんな様子なのでしょうか?」


「私達の暮らすこの街は放牧が盛んで布が特産品です!草木が生茂り大自然と共に暮らすので肉も美味しいですし、野菜も取れます!」


 硬い所があるが、マリアが伝えたいことはシッカリと伝えることが出来たのだろう。魔王も少年の言葉に納得したのか、嬉しそうに頬を緩ませお礼の言葉を掛ける。


「はい!ありがとうございました!」


 青年は魔王の言葉を聞くとお辞儀をして街の風景に溶け込んでいった。


「肉と野菜が美味しく、布が特産品だそうです」


 テールはその手に持つカメラで街を写す。そしてカメラに収まるように魔王がテールの前を歩き出すとテールも続くように歩き出した。カメラが回っている為、映像に映されるのは魔王の後姿と街で暮らす魔族の姿で、そのカメラに映る人々はどれも人間とは離れた姿や特徴を持っている。4足歩行の馬が肉を買っていたり、羽の生えた人が屋根の修理をしていたりなど、姿形が違えど共に力を合わせて暮らしている光景はテールの目を引いた。


「今映像に映っているように、様々な姿形の人々が暮らしているのがこの街のもう一つの特徴です。次はあそこの人に話を聞いてみましょう」


 魔王が次に目をつけたのは角の生えた筋肉の塊という名称が付きそうなおっさんだ。


「すいませーん!今よろしいでしょうか?」


 魔王は元気よく挨拶をする。おっさんは魔王の存在に気がつくと顔を緩ませて答えた。


「おう、大丈夫だぞ!それで小さいお嬢ちゃんは何か用かな?」


 筋肉の塊に聳え立つ2本の角が威圧感を放つ。そかしからは想像がつきにくいが、子供が好き、というのがよく分かる声色と顔だ。おっさんはテールの存在に気づき顔を顰めるが魔王の言葉ですぐに魔王へと意識を戻した。


「貴方はどの様な活動をしながら、この街で暮らしているのか教えていただけますか?」


 職業についての質問だろう。テールはそう考えた。魔王は真っ当な質問をしていると安堵の息を吐く。


「あぁ!筋肉だぞ!」


 もっとも、魔王以外が真っ当だという話ではないのだが。筋肉ってなんだよ。そうツッコミたい気持ちを抑え動画の撮影に集中する。


「筋肉……ですか。それはどの様なことをされているのでしょうか?」


 魔王も魔王で、筋肉というか活動なのか気になるのだろう。興味深そうにおっさんに聞いている。


「日々の筋トレが大切だな!一日一筋トレ!次に筋肉が喜ぶ選ばれた食事だ!筋肉というのは美食家でな!筋肉に合った食事を用意するようにしている!そして最後に規則正しい生活だ!私の仕事柄規則正しい生活が出来ない時があるが!問題のないときは常に規則正しい生活をしている!」


 筋肉の塊である、このおっさんの言っている事は真っ当だ。ただおっさんのせいで街の紹介動画ではなく、筋肉に規則正しい講座になっているのはどうしたものだろうか。


「とても健康的な生活ですね?」


 魔王は興味深そうに頷く。おっさんはそんな魔王の態度に気をよくしたのか嬉しそうに頷いている。


「あぁ!筋肉には健康が一番の薬だからな!後は声をかけてやることも忘れないことだ!筋肉は声をかけられると喜ぶ!しっかりと話をしてやるんだ!」


 喜ぶわけないだろう。テールは心の中でそうツッコミを入れた。ただテール自身筋肉に言葉をかけたことがないため、その言葉が本当かどうかも分からず頭を悩ませた。おっさんは魔王の肩を叩くと激励の言葉を掛ける。


「嬢ちゃん!俺のことが気になったということは君には筋肉の才能がある!一緒に筋肉のことを考えいい筋肉をつけていこうではないか!」


 どこをどうみたら細身の少女に筋肉の才能があるのだろうか。


「はい!ありがとうございます!」


 魔王のお礼の言葉でそのインタビューは終わりおっさんは後ろを振り返るとそのままゆっくりと歩いていく。そしてある程度離れると、魔王に見えるように拳を顔の横に上げ親指を立てた。カメラはそんなおっさんの様子を一部始終写している。


 こうして魔王とおっさんによる、訳の分からないコントが終わった。ちょうどテールの視界に映ったマリアに、このおっさんはマリアの仕込みなのかとアイコンタクトを送ると、マリアもあのコントを見ていたのだろう。首を横に振った。どうやらあの筋肉の塊であるおっさんはマリアの仕込みではないらしい。テールはため息を吐いた。


「魔族って、濃い人が多すぎる……」

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