勇者、魔族の町へ行く3
人々で溢れかえっている風景は、街が大きく発展しているということを知らしめているようにも感じられる。ただ今日の街の様子ははじめて街に入ったテールでもわかるくらいには異色だった。まるでこれから祭りが始まるのではと思えるほどだ。至る所に出店があり、出店を利用するお客で溢れていた。
「今日はお祭りでも?」
「いや?祭りがあるという話は聞かなかったけど」
魔王は今日何か行事があったのかと頭を捻り考えた。
「魔王でも分からないのか」
「魔王でもってどういう意味!」
テールは騒ぐ魔王を無視してマリアを探した。マリアなら、今日この街で何が行われるか分かっているはずだとテールは考えた。
「ほらそこ!もっと腹から声を出して!そこは台本を読み間違えない!」
マリアはすぐに見つかった。街の住人に対して指導という名の駄目だしをしていた。
「少しマリアに聞いてくる。わかったら魔王にも教えるから、魔王はここで待ってて」
「……うん、わかった!僕だってリハーサルがあるからね!」
魔王は少しの間考えると、テールに許可を出した。そして自分にはやることがあると魔王は胸を張りながら言う。そして魔王からの許可が下りたテールはマリアの元に向かった。
「おーい、マリアー」
声を掛けづらい雰囲気はあるがテールは気にせずに声を掛けた。マリアはテールに気がつくと顔を向けた。
「あぁ、テール様、おはようございます」
マリアはテールに挨拶をする。
「あぁ、おはよう。それで今何をしているんだ?」
「ふふ、可笑しな事を聞きますね」
何がマリアのつぼにはまったか分からないテールは首を捻る。
「魔王様のための準備を手伝っているんですよ」
「へぇ、流石は魔王様って所かな。街の皆に好かれてるんだな」
「えぇ、皆さん魔王様のことが好きなんですよ」
マリアが街の住人を眺める目はマリア自身が街の住人とは遠く、まるで保護者が子供に向けるような視線に感じた。マリアがテールを向く。
「まぁ、私が強制的に参加するように言ったんですがね」
「駄目じゃんか!」
テールはマリアにツッコミを入れる。
「それでも、皆魔王様を歓迎する為に頑張っているんですよ?」
「……あぁ、それは見れば分かる」
テールの目に映るのは、マリアに強制参加させられた住人達。しかし、彼らの雰囲気は強制参加ということを感じさせない。彼らは皆が皆、与えられた役割をきっちりこなそうと自分から進んで準備をしている。
「では、監督である私がいつまでもテール様と話しているわけには行かないので、準備の指導に戻ります。魔王様と一緒に楽しみにしていてくださいね」
「あぁ、程ほどに頑張れよ」
テールはマリアにねぎらいの言葉をかける。マリアはテールに一礼すると、住人の一人にお昼御飯のある食堂の場所を案内するように命じた。




