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勇者、魔族の街へ行く1

「テールの馬鹿!もう知らない!」


 走り去っていく魔王。それを見送るテールの表情はどこか硬い。


「あぁ!知らないなら結構!」


「落ち着いてくださいテール様」


 そう言い返すテールをマリアが宥めている。魔王とテールは喧嘩した。喧嘩の事の発端は魔王の思い付きから始まった。



ウサギを膝に乗せ書類仕事をする魔王、ウサギは安心した様子で魔王に撫でられている。


「ふふ、ビクトリアは可愛いなぁ」


 魔王の顔はだらけきっており、身長も相まって魔族のトップには見えない。ウサギも魔王が危険ではないというのが分かっているのだろう。目を細めされるがままだ。


「うーん、テールには世話になってばっかりだね」


 書類仕事の手は止めないが思考は書類より少しずれ、この前煉瓦造りで迷惑をかけたテールの事を考えている。いや、煉瓦造りだけではない。喧嘩をした後も特に西がらみのないテールは降りてもよかったはずだ。それなのにこうして付き合ってくれているテールがいる。


「うん、テールがちゃんとアイデアを持ってきてくれるんだから、僕も何かアイデアを出したほうがいいかな。どうしたらいいと思う?ビクトリア」


 魔王は膝元のウサギに聞いた。ウサギは答えることなくただ暢気に魔王の膝に顎下を当てている。


「なんて、答えてくれるわけもないよね」


 魔王はため息を吐いた。ふと、一枚の資料が目に入った。この魔王城から比較的近い街の今年の税についての資料だ。


「これだ!」


 魔王はその資料を掴むと、声を上げていった。



 朝日が部屋に差し込む。その朝日がテールに起床の時間だと知らせた。しかし二度根を楽しみ起きる気のないテールは、布団に潜り込むと体を丸め込ませ、睡眠の続きを楽しむ。


 そんな朝の風景を変える様に、ドンッと勢いよく扉が開けられた。


「さぁ!起きてよテール!動画を撮ろう!」


 テールを起こす為に部屋に飛び込んできたのは魔王だ。魔王は休みの日の子供のようで、朝だというのに元気たっぷりだ。魔王はテールの寝るベットに近づいた。


「こんなに天気がいいのにまだ寝てるのは勿体無いよ!」


 テールの体を揺すりながら勿体無いという魔王だが、テールとしては安心して眠れるのは久々で、まだ寝ていたいという気持ちがある。心の中でまだ朝早いだろうと悪態を付いてしまうのは仕方の無いことなのかもしれない。


「ねぇねぇ!起きてよ!」


「うるさい、もう少し寝かせて」


 元気な魔王に、眠気が見える声だが、自分の気持ちをしっかりと話す。


「もう少し寝るのもいいけど、朝御飯なくなるよ?」


「う、それは困る……」


 朝御飯がなくなる、その言葉を聞きテールは体を起こす。まだ目がしょぼしょぼとするのか目は閉じたままで、んーと唸っているテール。魔王はそんなテールの姿をくすくすと笑って眺めていた。


 しばらくしてテールが布団から体を出し起き上がる。


「うん!起きたね!さぁ!早く準備して!」


 魔王は少女という姿に似合わず重たそうなコートを着ている。出かける準備は万全という事だろう。魔王が早く出ようと服を掴みアピールするので、テールは寝巻きのまま着替えが進みそうにない。


「待ってくれ。着替えをさせてくれ」


 テールはそう魔王に言う。魔王は仕方がないなという風に首を横に振って肩を竦めた。


「わかったよ。じゃあ、早く着替えて!」


「魔王様、そこに居られたらテール様が着替えられませんよ」


 いつ部屋に入ったか分からないが、魔王の隣にマリアがいる。扉が開けっ放しなことを考えると、部屋に入るのは楽だったのかもしれない。


「えぇ、僕は気にしないよ?」


「魔王様が気にしなくてもテール様が気にします」


 マリアはそういって魔王を猫のように部屋の外に出し扉を閉めた。魔王はぶーぶーと不満をたらしながら追い出されたが、マリアは気にした様子もなく、むしろ一仕事終えたかという顔をする。そしてテールを見ると


「ではテール様、着替えを終わらせましょう。任せてください。これでも着替えは得意ですので」


「いや、お前も出て行けよ」


 今度はマリアがテールに追い出されたのだった。

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