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魔王、煉瓦を作る5

「マリア、ちょっといいか?」


「はい、何の用でしょうか?」


 テールがマリアに声を掛ける。マリアはテールの顔を見るために振り返ると返事をした。


「少し付き合ってくれ」


 テールはそう言うと体の向きを変え歩き出す。


「かしこまりました」


 マリアは一つお辞儀をするとテールの後をついていった。


「さて、ここならいいだろう」


 テールとマリアがやってきたのは先ほど狼に襲われた城の裏にある森だ。煉瓦を作った場所とは違い深くない場所だ。


「テール様にそういう趣味があるとは……えぇ、わかりました。付き合いましょう」


 テールが振り返りマリアを見据えると何を思ったのかマリアが服を脱ぎだす。


「ちょっ、ちょっと待って!」


 テールはマリアの行動を予想できずに狼狽した様子でマリアを止めた。


「あら、そういうことではないのでしょうか?外でとはいい趣味ですね」


「いやいやいや!違う!違うから!」


「えぇ、そうでしょうね。テール様にそんな度胸があるとは思えませんし」


「酷い言い草だ!」


 テールが吼える。マリアはその様子を楽しそうに眺めていた。


「テール様、ふざけていないで用件をどうぞ」


「ふざけているのは俺じゃなくてお前だ!」


 テールは言い切った後、ハッとした顔を見せると首を横に振った。


「うん、まぁいい。話が進まない」


「はい、ではどうぞ」


 テールはこめかみに指をあてマリアの態度に頭を悩ませるがすぐに雰囲気が変わる。


「マリア、お前が強いことはしっかりと見た」


「えぇ、そうでしょうね」


 雰囲気がとがったテールに対してマリアはどこか飄々と吹く風だ。


「お手合わせ、お願いする!」


 瞬間、テールが踏み込む。いつ抜いたのか剣を上段から振り下ろした。


「えぇ、では満足するまでお相手いたしましょう」


 しかしマリアはテールの攻撃を気にした様子もなく片手で受け止めた。すぐさまテールが追撃の右足を入れる。マリアはその力に逆らう事無く飛ばされた。さらに追撃をかけようと走り出したテール。瞬間、マリアの姿がぶれた。


「ぐぅっ!」


 テールが後ろから蹴られる。マリアだ。マリアは飛ばされた状態からテールの後ろを取り蹴りを入れたのだ。テールは力に逆らう事無く飛ばされると力を逃がす様に右手を軸にして一回点回る。


「はぁっ、例に漏れず不思議な力を使うんだな!」


「ありがとうございます」


 両手で柄を握り剣を振り回す。しかし人を殺す残撃も掴む事のできない霧のようにマリアの体を通り抜けた。


 剣じゃ傷一つ付けられないと分かったテールは迷う事無く剣を捨てた。そして首を掴むように手を伸ばした。当たらないと予想していたマリアは動く事無くテールの伸びる手を受け入れた。


 テールの手がマリアの首を掴んだ。マリアは驚愕した表情を見せる。


「何を驚いた顔をしている?意味もなく武器を捨てるわけないだろ?」


 テールの手を魔力で被い、マリアを逃がさないように包み込んだのだ。それも掴む直前にだ。マリアが警戒していないのも無理はない。テールは魔王と過ごし始めた日数から一度も魔力を体外に漏らしていないからだ。マリアも魔王もテールに魔力はないもの考えていた。


「えぇ、相当な練習をしたんでしょうね」


「そりゃな」


 絶体絶命な状況にもかかわらずマリアはテールの顔を嬉しそうに眺めながら微笑んだ。


「テール様には申し訳ありませんが前言撤回です」


「なっ!」


 掴んでいたはずの右腕から感触がなくなる。マリアが消えたのだ。


「眠れ」


 テールの後ろから聞こえた声が、テールを睡眠へといざなった。


「よっと」


 倒れてくるテールをマリアが受け止めた。


「ふふ、テール様がここまで強いとは」


 マリアの表情は何処となく嬉しそうだ。


「これはご褒美をあげなきゃいけませんね」


 翌日テールが目を覚ました時、いつもの布団ではなく森に囲まれた場所で、可愛い顔のマリアに膝枕をされていたのだった。

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