魔王、煉瓦を作る2
「確かに城の裏に森があるのは知っていたけど、まさか森に入ることになるとは……」
テール達三人組は森の中を歩いている。魔王曰く、煉瓦の素材になる粘土は既にマリアが集めてくれているそうだが、テールは実際に何をやるのかさっぱり理解していない。
魔王がテールの言葉に首をかしげた。
「テールって森が嫌なの?」
テールはそんなことはないと首を横に2・3回振るとどう答えるかと首を捻り、少しの間の後に言葉を発した。
「いや、魔族の森って危険が沢山ありそうでな」
「うーん、そうかな?何処の森も変わらないと思うけど」
魔王がテールの回答に首を捻った。森は何処の森も森だろうと考えたのだろう。テールはそんな様子の魔王に苦笑いを返した。
「そりゃそうだ。気分の問題だよ」
「ふーん」
魔王はそんなものかと納得をするとすぐに話題を変えた。
「そういえばテールは煉瓦を作ったことある?」
「はは、あると思うか?普通」
魔王の話題が面白かったのか、テールは笑いながら返した。魔王はそんなテールの態度に少しむっとした表情で返した。
「わかんないよ。勇者なんだから煉瓦の1つや2つ、100や200は作ってるかもよ」
「それこそ俺の専門外だよ。俺の出身に木材などの資源がなければ別だろうがな」
テールは肩を竦めて言う。テールの生まれ育った村は木を切り倒し組んだ木造の村だ。その為煉瓦とは縁がない。
「テールは森暮らし?」
「正確には村が森の近くにあったんだ。綺麗な湖が近くにあり、自然が豊かな場所だったよ
「だった?今は?」
「さあな?もう旅に出て2年は経っているから、今もだと自信を持って言えないんだ」
そういうテールの表情は故郷を思う表情で、少し寂しげでもあった。
「そっか」
魔王はその事に深く触れず、ただ相槌を返した。しばしの静寂が訪れ、その静寂を破ったのはテールだった。
「なぁ、魔王はどうして煉瓦を作ろうと?」
「うん?うーん、特に理由はないかな」
魔王は少し考えると理由はないと言った。そして魔王はそのまま言葉を続けた。
「ただ、見たことないから作ってみたいと思っただけ」
「見たことない?」
「そう、見たことない。僕の人生の大半はあの魔王城や配下の町や村だから。土煉瓦をみる機会がなくてね。あの魔王城だって外装は石を切りそれを積み上げた壁、中だって職人が石や木材で形を整えたんだ。だから、見て見たいと思ってね」
「あぁ、そう言われるとそうだな」
テールは魔王の言葉に納得すると頷き魔王に話しかけた。
「じゃあ、いいのを作らないとな」
魔王はテールの言葉を聞き少し驚いた顔をすると、すぐに顔を綻ばせ頷いた。
「もちろん!」
「それで、動画は取るのか?」
テールが魔王に聞く。魔王はもう一度頷いた。
「もちろんそのつもりだよ。もうマリアに頼んでる」
テールがマリアに視線を向けるとマリアがテールに見えるようにカメラを掲げていた。再び魔王に視線を戻す。
「そうか。なぁ魔王」
「うん?」
「頑張ろうな」
「うん!」




