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勇者と魔王の報告会2

 現在、魔王とテールの二人は魔王城の中庭に立っている。と言っても先ほどの場所から移動したわけではないのだが。変わった事と言えば服装だ。この格好はマリアの用意したジャージと呼ばれる服だ。この服は異世界の服であり運動をするなどの動く時に着る服だとマリアに説明されていた。二人はこのジャージと呼ばれる服装に着替えていた。


「よし!準備はいいか!」


「おー!」


 テールの掛け声に魔王が片手をあげ元気良く掛け声を出す。テールはそんな魔王の反応に嬉しそうに頷くと腕を組み言葉を繋げた。この二人、ノリノリだ。先ほど喧嘩をしていた二人だとは思えないほどだ。


「よし!じゃあまずは今日やることからだ!」


「はい!何をするのでしょうか!」


 魔王は右手を上げ質問をする形でテールに聞く。


「あぁ、まずはすぐにできることから。だから用意もなく動画が撮れるペットだと俺は思うんだ」


「おぉ!エリザベスの可愛さを皆にアピールするんだね!」


 テールの言葉に魔王が嬉しそうに頷いている。本当にエリザベスが好きなんだなとテールは頬を緩ませた。テールが説明を続ける。


「概ね間違っていない。動物の特長を生かすんだ」


「特徴……」


 特徴という言葉に魔王は真剣に考える。すぐに答えは出たみたいで真剣な顔で答えた。


「……撫でた時の手触りのよさかな?」


 テールは魔王の言葉に苦笑いを返した。


「それも悪くはないと思うが、動画を見ている人には伝わらないだろう?」


「確かにそうだね。じゃあ、どんな特徴?」


 魔王はテールの言葉に納得をすると答えを聞いた。テールは2・3回頷くと答えを出した。


「なに、簡単な話だ。ワニといえば可愛いの前にかっこいいが来ると思うんだ。」


 テールの言葉に納得行かないのか、魔王はむっとした表情と言葉を返す。


「僕のエリザベスは可愛いよ」


「あぁ、知ってるさ。でも世間一般的にはワニは凶暴な生き物だと思われている。そうインターネットに載っていた」


 魔王は納得が行かないといった表情をしているが首を傾げ、テールに聞いた。


「凶暴な生き物がかっこいい?」


「あぁ、かっこいいさ。インターネットで調べた所、かっこいい動物で検索したら狼やトラといった凶暴な生き物が出てきたからな」


 魔王はテールの言葉に納得した表情を返し頷いた。


「なるほど、テールは既に調べてまでくれていたんだね」


「あぁ、やるからには全力だからな」


 テールも嬉しそうに頷いた。魔王が声を出す。


「うん!テールの言いたいことは分かった!じゃあテールのアイデアを教えてくれる?」


「任せな」


 テールはうんうんと頷くと指を鳴らす。マリアが何処からともなくホワイトボードを引っ張ってきた。魔王は困惑した表情をしてテールに声を掛けた。


「テール?僕が知らないものが出てきたんだけど」


「あぁ、マリアに相談したら丁度いいものがあると用意してくれたんだ」


 魔王はテールの言葉を聞きマリアに顔を向けるとマリアは嬉しそうに頷いていた。魔王はため息を吐く。


「マリアがこれを何処で用意したかは後で問い詰めるとして、これは何?」


「これはホワイトボードといってペンと呼ばれるもので文字が書けるそうだ」


 テールは魔王の質問に答えると、実際にペンと取ってホワイトボードに書くという実演をした。魔王は感心した様子で頷いている。


「ほぉ、便利だね。書き心地も悪くなさそうだし、今度の会議にでも使おうかな?」


「おっと、まだまだホワイトボードの真価はこれだけじゃないんだぜ?なんとこれを使うとな?」


 テールはイレーザーと呼ばれる道具を手に持つと文字を書いた部分をさっと撫でた。文字は撫でた部分から消えていき、魔王の表情から感心は消え、驚いた表情に変わった。


「凄い!凄いよテール!見たところ消しにくいということもなく!またホワイトボード自体も傷一つついていない!これは凄いよテール!再利用が楽らくだ!」


「あぁ、俺もマリアに見せてもらったときは驚いたものさ」


 魔王の興奮した様子にテールとマリアは成功したと嬉しそうに頷いていた。


「そしてこれな、ここのストッパーと呼ばれる部品を外すと……」


 テールがホワイトボードのストッパーと呼ばれる部分に手を掛ける。そしてストッパーが外れたのを確認するとホワイトボードに手を掛け押し込むように力を加えた。ホワイトボードはくるりと半回転した。


「回るんだ」


「凄い!これは凄いよ!」


「そしてこっちの面でも描ける!」


 テールはそう言うと持っているペンでボードに丸や三角といった図形を描いた。


「僕もこれが欲しい!」


「いや、これマリアが用意したんだからお前のだろう」


 魔王の発言にテールのツッコミが入る。魔王は聞こえた様子もなくホワイトボードに駆け寄り触っている。


「魔王様?話が進みませんよ?」


 そんな魔王の様子を見かねたのか、マリアがやんわりと魔王に声を掛けた。


「うん、そうだね。じゃあテール、僕はどうしたらいい?」


 魔王はマリアの言葉を聞くと意識を持ち直し、テールに問う。テールは魔王の言葉に頷くとペンのキャップを引き抜きホワイトボードに書き込んでいく。


「……よし!いい感じに描けた!」


 テールは手を止めると魔王に視線を向けバンッとホワイトボードを叩く。


「やることは簡単だ。ずばり!エリザベスの餌やりだ!」


 テールはそう得意げに言う。魔王は首を捻った。


「エリザベスの餌やり?」


「あぁ、分かりやすくていいだろ?」


 テールは嬉しそうに頷いている。しかし魔王には良く伝わっていないようで首を捻ったままだ。そんな魔王に気がついたのかテールがホワイトボードに絵を描きつつ説明を始める。


「エリザベスはワニだろ?ワニの捕食はそれはもうダイナミックだ」


「テール、絵上手いね」


 魔王はテールの絵を褒める。テールは気分を良くしたのか、マーカーの動く速度が上がる。


「だからエリザベスに御飯を上げる。それを動画にするんだ」


 テールが魔王を見る。ホワイトボードにはワニの絵の近くに肉の絵が、そして肉の絵からワニにむかって矢印が引かれている。魔王が理解したように頷き、テールを褒めた。


「なるほど!分かりやすくていいね!」


「だろう?エリザベスの特徴を生かしたわかりやすくもアピールしやすい部分だと俺は考えたんだよ!」


 テールも気分がいいのだろう。その言葉は弾みを含んでいた。


「だからマリアに頼んで餌も用意してもらっている!マリア!持ってきてくれ!」


「おぉ、流石!」


 マリアの用意した餌に魔王は胸を躍らせながら、ワクワクした表情で待っている。そんな魔王の表情が、マリアの用意した餌を見たときに凍った。


「こちらでございます」


 マリアの抱えてる腕には白い綿毛のように丸いウサギが居た。


「もしかして……あれ?」


「特に指定はしてないから、そういうことになるんじゃないか?」


 魔王の反応に疑問をもちつつもテールが答えた。魔王がマリアに視線を向ける。マリアは得意げな雰囲気で頷いた。


「それって、ウサギっていう生き物じゃ?」


「そうですよ?今朝、そこの森で捕獲してきました」


 マリアが言う。魔王がどの様に反応すればいいか困っている中、話はどんどん進んでいく。


「マリア、カメラの用意は大丈夫か?俺は使い方わからないのだが」


「そこは私にお任せを。綺麗にエリザベスの歯の隅々まで移して見せましょう」


 マリアはそういってウサギをテールに渡すとカメラとエリザベスを撮りに向かった。魔王がテールの袖を引っ張る。


「ねぇ、やっぱりやめない?」


 テールが首を傾げて魔王に聞いた。


「なんでだ?いい動画を取るんだろ?」


「う、うん。そうだよね」


 テールが魔王に何を戸惑うか聞こうとしたとき、マリアがエリザベスとカメラを抱え戻ってきた。


「お待たせいたしました。こちらになります。」


 エリザベスのコンディションはいい感じで、マリアに抱えられながらもベテランの如く綺麗なあくびをするというリラックス加減も見せている。テールがマリアに声を掛けた。


「流石に早いな」


「私、優秀ですから」


「あぁ、そうだな」


 テールの言葉にマリアがそう返事をした。テールも慣れたんだろう。マリアの言葉に対して、一言返事を返して話を進めたのだった。


「じゃあ、撮っていくか。場所は何処がいい?」


「あの場所はどうでしょう?城に備え付けられている池があります」


 マリアが指を指した方向にはマリアの宣言通り、綺麗な池が見える。


「確かに水場のほうが映えるかもしれないな……よし、移動しようか!」


 テールとマリアは水場を目指し移動する。魔王は戸惑いながらも二人の後をついていった。城の中ということもあり、時間を掛けることなく池に着いた、


「心なしかエリザベスも生き生きしてないか?


 テールはそういうがエリザベスの雰囲気は普段と変わりない。大きな口をあけ欠伸を見せるぐらいのリラックス加減だ。


「そうですね。やはり水場が近いからでしょうか?」


 マリアがテールの言葉に同意をする。


「いやいや、適当なことを言わない」


 魔王はそんなマリアを嗜めつつも視線はウサギに向いている。


「では、手を離しましょう」


 マリアはそう言うとエリザベスをゆっくり地面に降ろした。エリザベスはゆっくりとした足取りだが一歩一歩確実に水場に向かっていった。


じゃぼん、エリザベスは、勢いよく音をたてて水の中に入っていった。


「うん、いい感じだ!後はエリザベスがウサギを食べる所を撮れば完璧だ!」


 テールはそういいながらウサギを地面に離す。ウサギはすんすんと鼻を動かし辺りの確認を始める。


「マリア、カメラ動かして」


「もう既に撮り始めています」


 テールがマリアに指示を出すと、マリアは既に動画を取り始めていた。マリアはウサギを取るようにカメラを動かしている。


エリザベスが捕食するタイミングをダイナミックに取りたいのだろう。


テールは声を出さずにその様子を眺めている。魔王も表情は嫌そうだが静観することを決めたのだろう。ウサギをじっと見つめている。


しばしの静寂。確認を終えたのかウサギは警戒するようにゆっくりとだが水場へと近づいていく。水分補給をしたいのだろう。淵まで来たウサギは池に口をあてもごもごと口を動かした。


池には黒い点が染み込んでいくかのように大きくなっていった。その影はゆっくり、ゆっくりとだがウサギへと近づいていく。気がつかないのか気にしていないのか、ウサギは一心不乱に水分を口に運んでいる。


 黒い影がの一部が水面からでる。ワニの鼻の頭だ。ワニの鼻の穴はひくひくと動きを見せている。その動きもすぐに止まる。獲物を見つけたのだろう。


 ごくり、見ているテールたちは息を呑む。エリザベスが勢いをつけ顔を出し、物凄い速さでウサギを捕らえた。口が勢いよく閉じようとした。


「駄目―!!!」


 エリザベスの歯が空を切った。魔王が池の上空に浮き、腕にはウサギが抱えられている。マリアがカメラを止めた。


「魔王、どうして邪魔をする?」


 テールが魔王を睨みながら聞く。魔王は視線から逃れるように目線を動かしたが、自分の意見を言う為にテールの顔を見据えた。


「テールが頑張ってくれているのは分かっているよ。でも、ウサギを犠牲にするのは嫌だと僕は感じたの。だから、ごめん!」


 魔王はゆっくりと降り、水面にたった。そしてゆっくりとテール達の方に歩いていく。テールは睨むように魔王を見る。が、魔王がテールの前に立つとため息を吐いた。そしてテールは魔王に手を伸ばす。

魔王は目を瞑り、じっと硬くなる。数秒後、魔王の頭にやさしく圧が乗る。魔王が何事かと目を開け確認をすると、テールが魔王の頭を撫でているのが見えた。


「次からは先に言うんだよ」


 テールはやさしくそう言うと、魔王の頭から手を離した。


「マリア、予定変更だ。別の方法を考えるぞ」


「かしこまりました」


 テールはマリアに言う。マリアはすぐに了承の言葉を出した。こうして、テールの最初の動画作りは失敗に終わった。


 後日談として、このウサギは魔王が責任を持って飼う事にした。また魔王はエリザベスのほかにウサギの動画も上げるようになった。ウサギの動画がエリザベスの動画より伸びがよく、魔王が不機嫌になるのはまた別の話になる。

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