街は大混乱
よろしくお願いします。
これから門衛さんたちがボクの身元を保証っていうか、引受人っぽいことをしてくれるところに連れていってくれるらしい。
だけど、門衛さんが旅人に街を案内するっていう彼らのお役目にはないらしいんで、あくまでこれは善意によるものなんだ。
だから彼らはボクたちへの態度を改めて、さらにこちらをチラチラと見ながら「ゴホンゴホン」と咳をする。
「あー…、その、なんだ。き、キミたちの恰好だが…、その…少々…自重すべきではないのかな?」
「うむ。その格好は…つまり仕事着だろう? 街中で着るような服ではないと思うが…」
え?
…そ、そうなの?
ボクの格好は確かに鎧姿だ。
ベルフィは短衣に革の胸当て。
スレイはチャイナドレスだけど、彼女は格闘家だから…。
サギニは…ニンジャスタイル。
ヘルマンにいたっては全身鎧だしね。
確かに街中での格好には見えない気がする。
だけど!
ボクは騎士なんだ!
常在戦場だよ!
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門をくぐると、目の前に広がるのは非常に賑やかな街並み――映画とかで見るような中世ヨーロッパ風のそれだった。
〝街があるから人が集まった”んじゃなくて、〝人が集まるから街ができた”ような活気ある都市、それがナキア伯都だった。
門から続く通りは大勢の人、人、人。
同時に往きかう馬車や荷台、馬で通りは埋め尽くされている。
それに歩いているのは人間だけじゃない。
獣耳が目立つ獣人(?)さんやら、ベルフィみたいな耳の長いエルフ(?)さん、ずんぐりむっくりなドワーフ(?)さんまで色々な人が歩いている。
すごく楽しいし、おもしろい!
でも街のみなさんは門から這入ってきたボクたちを見るや否や…。
「ブバッッ!? ゲホッ、ゲホッ…。な、なんだありゃ…!?」
…酒屋で立ち飲み(?)していたオジサンがむせていた。
「す、すげぇ…ッ。み、見え…あわひゃっ!?」
「バカヤロウッ! どこ見て歩いて…どわあぁぁッ!?」
…すれ違った男がボクたちを見て前の人とぶつかりそうになって、その人もまた別の人とぶつかりそうになっていた。
「ナニあの女たち…。異常なほど美人過ぎるからってイイ気になってるんじゃない?」
「なまじカラダに自信があるから露出狂なんじゃない? ふんっ。あんなにデカい胸なんか、あっと言う間に垂れるにきまってるわ!」
…ボクたちの美貌(?)に嫉妬した女性が逆恨みをしていた。
「………(ぽかーん)」
「ちょっと! アンタさっきからドコ見てんのよ! 私といながらあんな露出女に見惚れるなんて、もうサイテー! 別れてやるんだからッ!」
…とあるカップルが破局していた。
マズイなぁ。
ちょっと歩いただけでこんなにも問題あるなんて…。
やっぱり、ボクの恰好って……。
……。
いや、ナニ弱気になってるんだ!
ボクの鎧は崇高な理念に基づいた競泳水着鎧。
だからボクの恰好に動揺しちゃうなんて、しちゃう方に問題あるよね!
もちろん問題なのは街の人だけじゃくて、ベルフィたちにもあると思うんだ。
一緒に歩くスレイたちを改めて確認してみる。
スレイは武闘服という名のスリット入りまくりのエロチャイナドレスを着ている。
オマケにエグいまでのスリットから覗く肉付きの良い美脚と、引き締まった美尻が躍動して、ムチッ、ムチッみたいな効果音まで聞こえてきそう。
っていうか、なんなのあのモン◯ーウォークは!? 無意識なの!?
ベルフィもベルフィだ。
彼女は革の胸甲を纏ってはいるけれど、その下の短衣の裾が短すぎなんだ。一応、下着は見えそうで見えないけど、彼女が穿いているのはちっちゃいサイズのフンドシみたいな下着。
某国民的家族アニメの次女さんは過激な超ミニのワンピースで常にパンツ丸見えだから、彼女に比べたらマシかもだけど、ベルフィの場合はちょっと風が吹いたり、前屈みになったりしたらモロに見えちゃう。
サギニにいたっては色物なお色気ニンジャだし。
エッチなマイクロビキニと全身編みタイツなニンジャなんて、誰がどう見ても忍んでない。
………。
いくらボクが創った服とはいえ、ボクの周りにいる女性は恥じらいってモノが無いから困るよ。
ボクとしては自分に自信っていうか信念があるし、漢気で相殺しているから大丈夫だろうけど、連れの露出癖のせいで周囲が混乱するのは…将来の英雄として望ましいことじゃない。
そうなのだ。
せっかくのナキアの街だってのに、第一印象がマズイ気がする。
もしかすると、ベルフィたちの露出っぷりのせいで、英雄になるべきボクの印象もまたおかしなモノに…。
チラリと周囲を見ると、こっちを見ていたオバサンと目が合ってしまった。
「あの娘たちナニ者なのかしら? あんな恰好をして…」
「新手の春売りなんじゃない? ナキアも豊かになるとああいう連中が増えて嫌よね。ウチの息子は真面目だから、ああいった女には近寄らないように言ってきかせなくちゃ!」
オバサンたちが汚いモノを見るようにこっちを見ている。
あわわ。
今のボクたちは単なる旅人に過ぎないんだ。
そうなると事情を知らない人からすればボクの立場は『露出狂の仲間』。
つ、つまり、この『死にやすく、漢気を鍛える鎧』がヘンに誤解されちゃうかもしれない。
でもドラゴンを退治していれば…。
⬜︎ ⬜︎ ⬜︎ 妄想 ⬜︎ ⬜︎ ⬜︎
ジエラと彼女の仲間たちは街を颯爽と歩く。
もちろん、彼女たち着用するのは愛用の『死にやすい鎧』、『下半身の防御が心もとない鎧』『スリットが激しすぎるチャイナドレス』『全身編みタイツ』。
大抵の者はそんな服を着る女性に対して眉を顰めるだろう。
だが街の皆は彼女たちを尊敬の眼差しで見つめている。
「おい、あの女騎士…ジエラ様がドラゴン討伐に成功した英雄様だってよ!」
「お、おう。だ、だが、彼女の鎧、ちょっと軽装過ぎやしねえか。胸もケツも…ゴクリ」
すると男は「わかってねえなぁ」とばかりに指をチッチッチッと振ってみた。
「今はアレが最先端なんだぜ?」
「ど、どういう事だ!?」
ジエラの武勇に心酔する男共がわかっていない男に説明してやる。
「ジエラ様は恐ろしいドラゴン相手に、あえて急所を晒す鎧で挑み、そして勝利なさったんだ! 誰にでも出来るもんじゃねえ!」
「そうとも。ジエラ様にとってはドラゴン相手に防護する必要がない。ドラゴンすら防具の必要ない格下ってことさ!」
「要は身体中をゴテゴテと重装甲で覆うのは弱者の証拠、臆病者ってことだ!」
「今までドラゴンに挑んだヤツは皆、重装備で固めてたもんな! それで失敗して死んじまったら世話ないぜ!」
「ジエラ様こそ英雄のなかの英雄。そして英雄とは鎧のチカラでなれるモンじゃねえ。己の鍛えた肉体こそが英雄様の真の御力なんだぜ!」
ジエラ信者の説明は留まるところを知らない。
先程までジエラの軽装備に違和感を抱いていた男も、ジエラを改めて眺める。
女神もうらやむ美貌と肢体。
その全てを誇示する軽装備。
しかし、男たちはジエラを好色な目で見ることは無い。
何故ならジエラは竜殺しの大英雄なのだから…!
「なるほど…。確かに…! 英雄とはかくあるべしだぜ…!」
そしてジエラを羨望の眼差しで見つめるのは男だけではない。
ジエラに憧れる女冒険者たち、そして町娘たちも同様だった。
「大切なのは防具じゃない。中身よ。鍛えられた肉体だわ!」
「私もジエラ様のように強さと美しさを兼ねる冒険者になりたいわ!」
「キャーッ♡ ジエラさまーーッ♡♡!!」
「なんて美しく、お強いのかしら…。ジエラ様…♡」
「その麗しさ、凛々しさ…。なんて素敵♡」
彼女たちはまるで恋する乙女のような眼差しをジエラに向けるのであった。
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うう。
こうなるはずなのに…。
ボクが英雄になる前に、仲間が露出が過ぎるって印象づくのはマズイなぁ。
「あおひょおぉぉおっ♡♡!?」(ビクンビクン)
「「「きゃああッッ!?」」」
「「「うわあああッッ!!」」」
突然悲鳴(?)が聞こえた!
振り返るとガラの悪い男の人が街路樹に飲み込まれている。そして多くの触手みたいな蔦が、男をがんじがらめに拘束して奥へ奥へと引き摺り込んでいた。
そして男の人は恍惚な顔をして悶絶している。
それを見て「魔物がこんなところにまで!?」と騒ぐ住民の皆さん。
案内してくれた門衛さんたちも「応援要請を!」とか言いながら剣をむけている。
ボクはハッとして傍らのサギニに問い正した。
ヒソヒソ
「もしかして…?」
「はい。あの男が好色そうな顔をしながらジエラ様の臀部を触ろうとしましたので、森乙女に処理させました」
「………」
考え事をしていたら隙を晒していたみたいだ。
お尻を触られようとしていたのに気づかないなんて、武人としてあるまじき事だよ。
それはそうと、この騒ぎがサギニの仕業だってわからないだろうけど…。
ドライアードさんは男を誘い、精気を吸い尽くす精霊の一種だという。
いくら痴漢さんでも、未遂でミイラにされるのはかわいそうだ。
ヒソヒソ
「…殺しちゃダメだよ」
「私のジエラ様に無礼を働こうとしたのです。ジエラ様の臀部…私だって触った事ないのに…」
「さ、サギニ…。とにかく殺さないでね。適当に懲らしめたら解放してあげて」
……やっぱり着替えるか…。
いくらボクが漢気オーラを撒き散らしていても、血迷った痴漢さんや、それを撃退しようとするサギニがいちいち騒ぎを起こしたら周囲に迷惑がかかっちゃうよね。
なんだか負けた気がしないでもないけど、ボクは英雄になるんだ。
英雄たる者、周囲の平穏のために、一歩退くくらいの譲歩は必要だよね。
そんな事を考えていると、ちょっと先に服屋さんを見つけた。
ボクたちは混乱している人混みを掻い潜るようにして服屋さんに駆け込んだ。
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